06

休日の昼時。コナンと自分の事務所前で待ち合わせた志津馬は早速毛利探偵事務所へ向かうことに。


『ところでコナンくんに聞きたかったんだけどさ。』
「何?」
『江戸川コナンって、珍しい名前だよね。』
「へっ!?…そ、そうかなぁ?」
『だって江戸川乱歩とコナン・ドイルをかけあわせたような不思議な名前付ける人、そういないでしょ。ミステリー好きなら大喜びだよきっと。』
「そ、そうだね…っていうか志津馬さん小説とか読むの?」
『昔は結構読んでたよ。今は読まなくなっちゃったけど。』
「そうなんだ。ねぇ、ボクも質問していい?」
『いいよ。』
「志津馬さんって本当は刑事さんなんじゃない?」


ふいにそう問われ、彼女は思わず足を止めた。


『…何言ってんの。前にも話したでしょ?私は刑事じゃなくて探偵だって。』
「この前のひったくりの時、咄嗟の判断ではあったけど僕が出したボールで犯人の気を引いてその後制圧した。その直後、"マル被確保"って言ってたよね。」
『っ、』
「マル被は"被疑者"の隠語で、警察関係者なら知っている単語でしょ?けど今は探偵を名乗りこの米花町にいる…まるで潜入捜査をしているかのように。」
『…ははは、すごい想像力だねコナンくん!!君本当に小学一年生?』
「質問に答えてよ。」
『残念。私は本当に混じりっ気のない、ただのしがない探偵だよ。潜入捜査なんて面倒なことしーませーんよーだ。』
「(チッ、はぐらかされた…)」


コナンが少し目を細めていると、二階の窓ガラスに"毛利探偵事務所"と書かれたビルが見えてくる。


『お。あれだね?』
「うん。おじさんには僕から話はしてあるよ。」
『サンキュ。』


ビルの階段を上っていくと、左手にドアがあり彼女は3回ノックする。部屋の中から声が聞こえるとドアノブをひねって中へと入った。


『失礼します。』
「おぉー君か!!コナンが言ってた、新米探偵ってのは!!」
『初めまして。志津馬探偵事務所の志津馬海音と申します。偉大なる名探偵の毛利さんとお会いできるなんて光栄です。』
「いやはやこっちこそ、探偵仲間が増えるのは心強い…志津馬くん。この名探偵・毛利小五郎とともにこの米花町の平和を守ろうではないか!!」
『もちろんです毛利さん!!』
「なぁーはっはっは!!」
「(おっちゃん、予想以上の美人が来て調子づいてんな?)」


するとおもむろにドアが開き、高校生くらいの髪の長い女性がお茶を持って入ってくる。


「失礼します。」
「蘭!!彼女に早くお茶を!!」
「急かさないでよお父さん!!あ、娘の蘭です。初めまして。」
『初めまして。志津馬です。』
「あ、あの…志津馬さんは、高校生探偵の工藤新一ってご存知ですか?」
『工藤新一…』
「オイ、あの探偵ボウズのことなんか聞いてどうす「お父さんは黙ってて!!私の幼馴染なんですけど、もしかしてお知り合いとかじゃありませんか!?」
『…ごめんなさい。私は知り合いではないですが、ネットの記事で彼の活躍を拝見したことがあります。』
「ほ、本当ですか!?」
「っ!!」


彼女がそう言うと蘭だけではなく、コナンも彼女の方を見上げた。



『えぇ。彼も実に優秀で、数々の難事件を解決しているみたいですね。将来有望じゃないですか。毛利さん。』
「けっ、あんなまだ未熟な探偵ボウズに任せられるかってんだ!!」
『それで、その工藤くんがどうかしたんですか?』
「…最近忙しいのか、連絡が取れてなくて。知り合いの方なら何かあいつの情報知ってるかもと思ったので…すいません変なこと聞いて。」
『いいえ。こっちこそ、力になれなくてごめんね。』
「(志津馬さん、俺のこと知ってくれてたのか…)」


江戸川コナン、もとい工藤新一は心の中で密かに呟き、加えて蘭の思いにも触れ少し悲しげな表情を浮かべる。それに対し、


『(どうして君がそんな顔をするの…?)』


ちらっと視界に入ったコナンの切なそうな表情に志津馬が少し驚いていた。しかし、その疑問は数分後にかき消される。


「おぉそうだ!!君さえ良ければ、俺の弟子にしてやってもいいぞ?この名探偵の推理力、君も欲しいんじゃないのか?」
『あぁ、それについては「美人なのを考慮して授業料はタダ!!手取り足取り教えてあげるよぉ〜ん?」
「お父さん、それセクハラよ。」
「そうだよおじさん。」


彼女の手の甲を自分の手でスリスリしながら迫る小五郎に蘭とコナンは白い目を向けながら制止した。


『大変ありがたいお話なのですが、私は殺人事件のような強行な事件の依頼は扱わないと決めてますので。』
「なんでぇ、それならそうと早く言ってくれよ!!」
『すいません。』
「でもそれで稼ぎは大丈夫なのか?依頼料もそんなにもらえんだろ。」
『そこが問題なんですよねぇ…』


すると再びドアが3回ノックされ、彼らの視線はそちらに注がれる。


「安室です。毛利先生、いらっしゃいますか?」
「安室くんか。ちょうどいい、入ってくれ。」


安室という名前が出た途端彼女は少年探偵団が言っていた彼だと判断する。一体どんな人物なのか身構えていると、


「失礼します。差し入れにサンドイッチを持ってきたのですが…」
『っ!!』


その扉が開かれた瞬間、志津馬は思わず目を見開いた。それもそのはず、目の前に知数ヶ月前まで行動を共にしていた人物が立っていたから。向こうは至って表情をかえず、彼女の顔を見るなり口を開く。


「おや、お客様でしたか。一旦出直し「いや構わん、二人とも初対面だろ。この町で探偵を始めたらしい新米探偵の…」
『…志津馬です。』
「安室透です。初めまして。」


にこやかに笑うその姿は彼女には身の毛がよだつほどの恐怖だった。自分の知っている彼ならこんな笑顔はまず出ないだろう。だとすると、ただ似ているだけの人物なのか…?


「安室くんは俺の一番弟子でな。探偵をやりがてら、うちの下のポアロでバイトしてんだ。」
「あなたも探偵なんですね。米花町の探偵仲間が増えて僕も嬉しいです。」
『……そ、それは、どうも…あの、』
「なんでしょう。」
『本当に初対面…でしたっけ?』


口調は違えど、そっくりさんにしてはあまりにも酷似しすぎている。ここは直球で聞いてみるかと彼女がそう問いかけると先に小五郎の方が反応した。


「なんだ。二人とも知り合いだったのか。」
「いや、どこかでお会いしたことはないはずですよ。会っていれば記憶しているはずですから。」
『…そうですか。それなら、私の勘違いですね。変なことを聞いてしまいすいませんでした。』
「いえ。誤解が解けたのなら良かったです。では僕はお店に戻りますね。」
「おぉ。わざわざ悪かったな。」
「ごゆっくり。」
『……』


そう言うと安室という男は笑顔でドアを閉め去っていく。それに対し明らかに動揺している志津馬の様子に、コナンは何かを感じ取っていた。


「安室くんの作ったハムサンドは絶品だぞ!!君も食べるといい!!」
『あ、ありがとうございます…』


と一歩前に出た矢先、ふいに彼女のスマホが震える。


『すいません、依頼人から電話が…ちょっと出てきます。このペンお借りしますね!!』


そう言うと彼女はデスクに置かれていたペン立てからペンを取り、小走りで出ていった。


『(まだ近くにいるはず…!!)』


依頼人からの連絡というのはフェイクで、さっきの男を追いかけるための口実に過ぎなかった。ビルの階段を駆け下りると右を向いた途端見覚えのある背中を見つけそちらにめがけて先程持ってきたペンを投げる。それはコロコロと彼のすぐ後ろに転がり落ちた。


『すいませぇーん!!そのペン、拾ってもらえますかぁー?』


声色を変えてそう呼びかけるとその人物が笑顔で振り向きペンを拾おうとする。しかし、その直後そのペンの"色"を見て表情が一変し拾おうとしていた手が止まった。


「っ、」
『やっぱり…あなたですよね。』


ペンが落ちた方へゆっくりと歩み寄ると、彼女は確信を得たようにそう呟く。


『風見から聞いたことがあるんですよ。あなたは"赤色"を見ると途端に機嫌が悪くなるって。』
「……」


そしてペンを拾い上げると、力強い眼差して言葉を続けた。


『お久しぶりです。"ゼロ"さん。』



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