《思わぬ巡り合い》


「FBIの夷隅捜査官だよね?ボクの名前は江戸川コナン。よろしくね。」
『江戸川、コナンくん…』


コナンと名乗る少年を前に夷隅は少したじろぐ。何でも彼はこの家の隣に住む発明家・阿笠博士の遠い親戚で、この家の家主とも親しい間柄らしい。


「赤井さんのことを監視するために、この家で一緒に暮らすことになったんでしょ。」
『どうして君がそれを知ってるの…?』
「だって本人から直接聞いたんだもん。ね。」


そう言いながら隣の眼鏡の男性を見上げると、彼もそれに応えるように小さく頷いた。


『(こんな小さい子に捜査機関の機密情報を漏らしてる理由は何…?というか、今でも信じられない…この人が本当に赤井さんだなんて…)』


彼女が男に未だ疑いの目を向けていた、その時…


「夷隅さん!!お鍋のお湯、吹きこぼれてるよ!!」
『え?…あぁあああ!!!!』


コナンにそう言われ夷隅は慌てて鍋の火を止めた。


「坊や。朝食はもう済ませたか?」
「ううん。赤井さんから連絡もらってすぐ来たから、蘭ねーちゃんにごはんいらないって言ってきちゃったんだよね。」
『じゃあ…君も一緒にご飯食べる?』
「いいの?やったぁ!!」


頭の疑念は残ったまま、異様な三人で朝食をとることに。


「うん、これは旨い。なかなかの腕前だな。」
「すっごくおいしいよ!!」
『……』


返事もせずじっと目の前の男を睨みつけている彼女に気づいたコナンは苦笑いを浮かべながら話しかける。


「…もしかして、まだこの人が赤井さんじゃないって疑ってる?」
『そりゃそうだよ。声は確かに本物に聞こえるけど、顔も髪型も…さっきの声だって全然違かったし。』
「変装マスクは今すぐ取っても構わないが、またメイクするのに多少の時間を要してしまう…なるべく無駄は省きたいゆえ、今日ばかりは勘弁してくれるか。それに俺の変装のことは、昨日ジョディからも話があっただろう。」
『話?』


そんな話いつしたっけ…と、彼女は目を閉じて昨日の記憶を辿っていく。すると…


―変装しているシュウと行動を共にしていてもFBIの人間だと勘付かれるリスクは低いでしょ?―


ふいにジョディのその言葉を思い出してパチッと目を開いた。


『まさか、その変装っていうのが…それ、なんですか…!?』
「あぁ。」
『私はてっきり帽子を被るだとか、眼鏡をかけるだけとかそういう、軽装のことを言っているのかとばかり…』
「そんなんじゃ奴らにはすぐにバレちゃうよ。」
「仮にも俺は組織にNOCとして一時期潜入していた身であり、顔も声も奴らには知れ渡っているからな。念には念を…というものだ。」
『じゃあ、その首元にあるそれは?』


夷隅が赤井の首元に付けられたものを指差すと隣のコナンが口を開く。


「これは”チョーカー型変声機”って言って、スイッチを押して声を出すと喉の振動で声を変えられる優れものなんだ。阿笠博士の発明品だよ。」
『へぇ…ってサラッと流しそうになったけど、君あの組織のこと知ってるの!?』
「もちろん!!よーく知ってるよ。ボクもぶっ潰したいからね…奴らのことを。」
『っ、』


そう言った少年の眼光は今までよりもずっと鋭いものに変わっており、彼女は思わず息を呑んだ。


『で、でも君はまだ子どもだし…これはゲームじゃないんだよ?生死を彷徨うことになるかもしれない危険なことなんだから!!』
「大丈夫、それぐらいボクだって分かっ「そうよ!!いくら大人ぶったって、見た目も中身もまだまだお子ちゃまなんだから!!」
『(ん?今私以外に誰かの声しなかった?)』
「げっ、この声まさか…」


三人以外の女性の声がドア付近で聞こえ彼らがそちらを向くと…


「ジャーン!!また来ちゃったぁー♪」
「(また来ちゃったぁー♪じゃねぇーよ…)」
『ふ、ふふふ…藤峰、有希子!!…さんっ!?』


急に出てきた彼女の姿にコナンは呆れ顔だが、初めて会う夷隅にとってはかの有名な大女優が突然目の前に現れた状況に驚き咄嗟にその場で立ち上がってしまう。


「まぁ〜私のこと知ってくれてるの?嬉しい♪」
『も、もちろんです!!有名な女優さんですし、なんたってあの工藤先生の奥様…あれ。』


待てよ、工藤…?確かこの家の表札も工藤だったはず…夷隅がそう考えている間、コナンは赤井に小声で話しかける。


「ねぇ、赤井さんが呼んだの?」
「いいや?家主の方には彼女のことについての連絡は入れたが、有希子さんには何も言っていないはずだ。」
「もぉー秀ちゃんもひどいじゃない!!優ちゃんには教えて私には教えてくれないだなんて。せっかく我が家にまた新しい住人が加わるんだし、挨拶がてらどんな人か顔が見たかったのよん☆」


するとおもむろに有希子のスマホが鳴り出し、画面を見る。そこには”優ちゃん”と名前が書かれていた。


「あら、噂をすれば…」


通話ボタンを押すと、画面にある人物が映し出される。


「ハーイあなた♪」
《そちらには無事に着いた頃かな?》
「えぇ。ちょうど会えたところよ、可愛らしい新メンバーに☆」


そういうと彼女は夷隅の方にスマホを向ける。そこには…


『え、嘘…!?』
《初めまして。挨拶が遅れてしまい申し訳ない。そちらの家の家主である、工藤優作です。》


世界的にも有名なミステリー作家、工藤優作の姿があった。画面に映っている優作に対し口元を両手で抑え少し目を潤ませている彼女の姿に、彼らは顔を見合わせる。


『存じ上げております…!!じ、自分は、夷隅聖花と申します!!』
《夷隅さん。ようこそ我が家へおいでくださいました。》
「いらっしゃい♪」
『や、やはりここは…先生方のご邸宅、なのですか…?』
《いかにも。今現在私の本拠地はロサンゼルスですが、そちらは息子の新一に管理を任せている私の家となります。》
『はあぁ…!!』


―…っつあぁもう、この家やたら広いし部屋多すぎ!!―


私はなんという無礼を…!!と、夷隅は自らの発言を心の中で深く反省した。


《本来なら、私も家内とともにそちらへ出向き直接挨拶をすべきなのですが、生憎仕事が立て込んでおりこのような挨拶となってしまったことをお許し願いたい。》
『いえいえそんな…め、滅相もございません!!』
《何かと不便な造りになっているかもしれませんが、家の中にあるものは自由に使ってもらって構いませんので、遠慮なく生活に役立ててください。》
『了解いたしました!!……あ、あの…』
《ご質問であれば何なりとおっしゃってもらって構いませんよ。》
『質問というかその、私…く、工藤先生の作品の大ファンなんです!!』
「あらま!!」「マジか…!?」
「ホォー…」


彼女のその言葉に一同は驚いた表情を見せる。


『特に闇の男爵(ナイトバロン)シリーズは小さい頃、本がボロボロになるくらい何度も読み返すほど読み込んでおりました!!』
《それはそれは、このような場でファンの方と交流できるとは…私にとっても嬉しい限りです。》
『尊敬する工藤先生、有希子さん、そしてご子息に何分ご迷惑がかからぬよう、私夷隅、精一杯このお屋敷の現状維持に務めます!!』
「随分とお堅いわねぇ〜」
「彼女は少々真面目すぎるところがあると、ジェイムズが言っていましたから。」
「(にしても堅すぎんだろ…)」
《では改めて夷隅さん。これから交流する機会も増えることでしょうから、お互いに良好な関係を築いていきましょう。》
『はい、もちろんです!!よろしくお願いします!!』


優作との通話が終わると、夷隅は自らの頬を両手で包み夢のような体験を後にして感服しきりの様子だった。


『どうしよう…工藤先生と、お話してしまった…!!』

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