「だいちゅくん、げんきだちて〜」
「うるせー、助けてやったの誰だと思ってやがんだ…」
「飯食わせてんの誰だと思ってんだ」
「名前さん、あざーす」
ファミリーレストランで帝統はハンバーグをつつき、私はパフェを食べていた。
結局残ったのは40万弱だった。貯金がいきなりここまで減るとは、死のう死のうと思っていても少しは落ち込むものだ。まぁそれ以上に元カレのことで落ち込みが激しいわけだが。
「折角名前の金を倍にして名前の生きる希望も倍にしようとしたのによー」
「それで飯食わせてもらおうとしてたんだから結果オーライなんじゃないの?」
「名前の希望がギリギリまで消えたじゃねぇか」
「私はいいの」
「よくねえよ、折角仲良くなった奴にまた自殺未遂なんかされたら夢見悪いだろ?」
あーさっきのルーレットがなぁと呟く帝統は不満げに二人分のコップを持ちドリンクバーへと歩いて行った。数分後、両手にコップを持ち戻ってきた帝統はどこかニヤついていた。
「なんかミックスしたな?」
「してないしてない」
「二回繰り返すやつの言うことは信用ならないんだよなぁ」
ありがと、といいながら渡された形容し難い色の飲み物を飲む。割と美味しくてびっくりしたが何を混ぜたのかは聞かないでおく。いろいろ考えて、やっぱりさっきのことは私が悪かったなと思い、口を開く。
「さっきはごめんね」
「何がだ?」
「私が帝統のそばを離れたせいであんなことになっちゃって」
「トイレ行ってたんだろ?仕方ねえよ。名前が服ひん剥かれなかっただけよかったぜ」
「うん……」
「アレは全額ベットしてなかったら帰してもらえなかったぜー」
まるで何も気にしてないように帝統は言う。そんな姿を見ると少しは罪悪感が薄れるが、私が離れなければ私の財布は大きく膨れ上がっていたんだろうことを思うと溜息が出る。貯金額全額がごそっと減ったのだから無理もない。
帝統はハンバーグを食べおえてコップのコーラを一気飲みした。私も最後の一口を平らげ、名称のわからない飲み物を飲みほした。
「そろそろ出ようぜ、酒飲みたくねぇか?残りもあるし酒飲もうぜ!」
そんなこんなで会計をすまし飲み屋街へ向かった。
夜遅くまで営業している所が沢山あって結局その日は朝まで二人で飲んだくれたのだった。
――――――――――
頭の痛みと軽微な吐き気に目を覚ませば、知らない天井が視線の先にあった。はて?と頭にはてなマークが浮かぶ。屋内にいることに驚きを隠せないのだった。昨夜は朝までスナックやキャバクラ等で飲みまくった訳だが、その後が思い出せない。もう一度目を閉じてよくよく考えていると浮かび上がるのは帝統の後頭部。揺れる青い髪。アスファルトを踏みしめる靴の擦れる音。どうやら昨夜…と言うよりは早朝に、おぶられて宿泊施設に来たようだった。未だ目を開けずに考える。宿泊施設にしても様々だ。ネットカフェはそもそもベッドが置いていないから違うが、ビジネスホテルかもしれないし、ラブホテルなのかもしれなかった。
「うーん、どう見てもラブホテルなんですが」
周りを見渡すとテレビや電子レンジ、冷蔵庫にお風呂場、そして開ければ窓があるであろう観音開きの戸があった。窓を戸で隠すというのはラブホテルならではだ。それに壁などの装飾やベッドの大きさからしてそれは確定的だった。
私がベッドの上できょろきょろと室内を見ていれば、お風呂の戸がいきなり開いた。
「おう!名前、タオルとってくれねぇか?」
「は?!ばか!前隠して!」
半ば叫びながら私は両手で顔を覆った。そんなウブじゃねぇだろ?と言う帝統にバスケットに入っていたバスタオルを投げつける。
「ありがとよ!」
帝統は私が投げたタオルを器用に掴みとって体を拭いていく。髪を拭く用のタオルもあるのに、ぐしゃぐしゃと頭を乱雑に拭く。
私はベッドに座り直して言った。
「タオルくらい用意しときなさいっての」
「まぁまぁいいじゃねえか。風呂沸かしてあるから入ったらどうだ?」
「彼氏でもない男の前で服なんて脱げないでしょ!」
「でももう彼氏いないんだから、いいんじゃね?俺も見ねぇし何もしねぇし」
「うっ…それは…ね…?ダメでしょ…」
彼氏の話題にあからさまに暗くなる私を見て、帝統は慌てて、悪い!悪かった!落ち込むなよ!死ぬなよ!?と騒ぎ出す。わかった、わかってるから、と言えば帝統は安堵したように息を吐いた。
「それにしてもなんでラブホなの?」
「俺がおぶってきてやったんだぜ?ネカフェでもビジホでも俺はよかったんだけどよー、誰かさんが起きねぇから署名できねぇし、チェックインできる時間でもねぇし、行き場がここしか無かったって訳だ、仕方ねぇだろ?」
「ま、まぁ…そうかも…」
「すーぐ納得するよな、他の男と一緒だったら食われてたぜ?」
そう言われて私は、んなわけないじゃんと返す。そう言うと、前をバスタオルで隠していた帝統は、そのバスタオルを腰にまきつけて腰骨辺りで縛った。
そして私の隣に座ったかと思えば、私の肩に腕をまわし、顔に自身の顔を近づけた。思わずぎゅっと目を瞑ると、帝統の唇は私の唇ではなく耳元へとゆく。
「俺も男だぜ?」
囁かれた言葉がこそばゆくて全身が震える。激しく鼓動をうったその胸の高鳴りは、このドキドキは、何かの間違いであって欲しい。私は軽い女ではないのだ。
私がそう焦っているのも束の間、景色が揺れ動く。一瞬で押し倒されてしまって反応することが出来ない。おかしい。ドキドキが止まらない。伸びる二本の腕は私を捕らえているようで、私の目を見る帝統の目は真剣で、息が苦しくなる。
「なーんてなっ」
ニヤリという擬音が世界で一番似合う男ここに誕生、とでも言える位の笑い方だった。