03


今日は同伴の予定があった。
相手は毛利小五郎という探偵である。
場所は毛利探偵事務所の1階にあるポアロで待ち合わせだ。

はぁ、緊張する……。同伴なんて初めてだし何を喋ったらいいのか……。

名前は心の中でため息をつきながら、ポアロの扉を開いた。

「いらっしゃいませ、お一人ですか?」
「待ち合わせで……」
「かしこまりました。では、席へご案内します」

褐色肌に金髪の店員は名前を奥の席へと案内する。中々に整った顔立ちに名前は思わず息を飲んだ。
ソファに座ると店員はバックヤードに戻っていった。程なくして店員がコーヒー2つをテーブルの上に置き、向かい側のソファに腰掛けた。

「あ、あの、なにか……?」
「毛利探偵と待ち合わせしている名前さん、ですよね?」
「あっ、はい、そうです」
「実は僕、毛利探偵から言伝を承っておりまして」
「なんでしょうか」
「"急用があって今日は行けない"と…」
「えっ、そ、そんな、どうしよう…」

店員の言葉に名前は酷く動揺した。
初めての同伴が失敗に終わること、そして客を呼べないこと、その2つが名前の胃痛を加速させた。

「その代わりに僕を行かせるとも言っていましたね」
「えっ」
「申し訳ないからと」
「そ、そうなんですか……?」
「ええ、僕と同伴してくれます?」
「あっ、お願いします!」

このコーヒーは僕からです、是非ご賞味ください。店員が笑顔を絶やさずに言う。
名前は言われるがままカップを手にとりそのまま口にした。

「ブラックがお好みなんですね」
「はい、酸味が強いものは苦手なんですけど…これは美味しいですね」
「それは良かった、僕がいれたものなので尚のこと嬉しいです」

1口、2口とカップに口つける名前を店員は満足気に眺めると、彼自身もカップを手に取ってコーヒーを嗜む。

「あっ、お名前を聞いてもいいですか?」

名前は思い出したかのように店員に尋ねた。これから同伴をして店まで行くというのに名前も知らないなんてことはあってはならない。
店員は名前の焦る姿を見てクスリと微笑しながら言った。

「安室透といいます。よろしくお願いしますね」