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エプロンを脱ぎ上着を羽織る安室は、名前の目により一層格好良く映った。
お店は大丈夫なんですか?と名前が聞くと、安室は「許可はとってあるので気にしないでください」と応えた。
ポアロから出て2人は名前が勤めている店へと向かう。
自然に車道側を歩く安室を見て、名前はこの人は凄く気が利く人だなと胸の内で思った。
歩きながら店内でのことを思い出した名前は疑問を口にする。

「そういえば、何故名乗ってないのに私が毛利さんと待ち合わせしてると分かったんですか?」
「簡単ですよ。その羽織の下から見え隠れしている服を見れば」
「あっ、そういうことか…」

名前は元々持っていた羽織の下に、店で借りているドレスを着ている。今日は同伴にも使えそうなものを選んだのだが、ドレスはドレスだ。見る人によってはキャバクラで勤務していることがバレバレだ。

「メイクも派手気味にしてらっしゃいますしね」
「いつものメイクを知らないのに分かっちゃうんですか?」
「名前さんのような大人しいタイプの女性が極端に派手なメイクをするということは薄暗い場所、またはライトが当たるような明るい場所に行く前かと思いまして。一歩間違えば偏見で失礼でしかないのですが」
「当たってます!でもなんで、大人しいって思うんですか?」
「来店直後の貴方の表情ですよ。下がり眉になって不安げに瞳を潤ませるような人は、個人的には大人しい部類に入りますね」
「すごい観察眼……」

安室の一通りの話を聞いて名前は納得した様子を見せる。
すごいです、もっとくださいと言いたげな名前の表情を見て、犬みたいで可愛いですねと安室は言い漏らした。
犬みたいとは、と一瞬思案した名前はぼそりと「…わん」と呟いたと思えば、我に返って「なんでもないです…!」と訂正した。
どうにも放っておけない危うげな子であると感じとった安室は「素直な人ですね」と一言呟くように言うと笑ってみせた。