07


「名前さんじゃないですか、また来てくれたんですね」
「ええ、謎が解けなくて」
「謎ですか、それは気になりますね」

安室は来店した名前を以前と同じ奥の席へと案内する。そして以前と同じように安室は1度バックヤードに戻ると、またコーヒーを2つ持ってテーブルに置き向かい側のソファに座った。

「お仕事中ですよね?大丈夫ですか?」
「ええ、この時間帯は混みませんから。それに名前さんも僕に話があって来てくれたのでは?」
「安室さんには隠し事は出来ませんね」

実は分からないことがあるんです。
名前がそう切り出し、話し始める。
なんで安室さんは頼まれてもいないのに私についてきてくれたんですか?
そう言うと訪れるのは沈黙。

コーヒーをすする音だけが聞こえた。堪らず名前もコーヒーを口にして沈黙を誤魔化す。
すると安室はカップを静かに置いて名前の目を見つめる。

「人助け、という程ではありませんが、あの時の名前さんが酷く焦っていたように見えたのでつい」
「……そんな、申し訳ないです」
「名前さんが謝るような事じゃありませんよ、寧ろ謝らなければいけないのは僕の方です」
「そんなこと…だって安室さんは悪いことはしてないじゃないですか、私はただなんでだろうって気になってウズウズしていただけなので…、というか本当にありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ楽しませてもらったので」

そしてまた沈黙が訪れる。
名前はコーヒーを口にして喉を潤す。別段喉が渇いたわけでもなく、沈黙を何もせずに待つことに耐えられなかっただけだった。
今度は自分の番とばかりに安室は口を開く。

「それで僕も聞きたかったことがあるんですよ」
「なんでしょう」
「昼間の仕事はしていないと言っていましたが、先月まではしていたんですよね?どんな業種のお仕事をされていんですか?」
「ええっと、工場系ですよ。私、接客は苦手なので…」
「どうしてお辞めになったんです?」

その一言に名前はつい、辞めてないですと言いそうになり口を閉ざす。
仲の良い職場だった。旅行も行ったし、飲み会も散々やった。楽しいことばかりの思い出がだんだんと蘇ってくる。

目の奥がツンとしてじわりと涙が浮かぶ。漏れる嗚咽、零れる涙。
安室はハンカチを胸ポケットから取りだし名前に差し出す。名前はハンカチを受け取り目元をおさえた。

「ず、ずびまぜんっ…」
「こちらこそ深く立ち入ってしまってすみません」
「いえっ……」
「事情がおありなんですね」
「はい……」

もし良ければ、そう安室は言う。

「僕にお手伝いさせて頂けませんか?」