08
お手伝いさせて頂けませんか?
既にメンタルがやられていたであろう名前はその言葉にこくりと頷いた。
その時、来客を告げるベルが鳴り、安室は席を案内しに離席した。
程なくして戻ってきた安室はまた今度ゆっくりお話しましょう、と言って自分の分のカップを片付けて席を後にした。
名前はコーヒーを飲んで自身を落ち着かせた。味方が増えたせいなのかなんだか心強くも思える。
ふと携帯電話の液晶窓の時間を見て名前は焦る。
もうこんな時間だったの?仕事の準備しなきゃ……!
残りのコーヒーを飲み干して名前は会計レジに向かった。会計を担当してくれたのは安室ではなく榎本梓という女性店員だった。
「お会計は済まされてますよ?」
「えっ、でも私払ってないですよ?」
「安室さんのサービスってことになってますね」
「そ、そうでしたか、安室さんによろしく伝えてください」
「ああ、それとこちらも」
梓は紙袋を名前に差し出した。
手に取って中身を確認すると、ハムサンドが入っていた。勿論、注文した覚えはない。
「安室さんから"頑張りすぎないように"って差し入れです」
「ええっ、嘘、ありがとうございます」
「いいえ、お礼なら安室さんに」
「また来ますね、その時に…」
「はい、お待ちしてます!」
日々積み重なっていた窮屈な焦りや苦しみが嘘のように吹き飛んで、思わず名前は顔をほころばせた。
カランコロンと音をさせながらドアを開けて帰路に就いた。
寮に帰ると着替えとメイクの準備にとりかかる。メイク道具も必要最低限、ドレスも借りたもの。やはり窮屈に感じてしまった名前は思い出したかのように紙袋を漁る。取り出したハムサンドを口いっぱいに頬張る。
「おいしい…」
1人じゃなかったらもっと美味しいんだろうな……。
涙を零しながら呟いたその言葉は1人の部屋に消えたのだった。