朝の風景

「おはよー!苗字さん!」
「おはよう、芦戸さん」
「あら、今日は遅いのね、苗字さん」
「うん、ちょっと寝坊しちゃって」


朝。
学校へ行き、向かう先は1年A組。春に入学したばかりだというのに、みんなワイワイとお喋りに興じている。私に気づいて挨拶をしてくれる美奈ちゃんも梅雨ちゃんたちも、みんな未来のころよりずっと若い。過去へ遡ってきたのだから当たり前といえば当たり前なのだが、未来のことを知っている分感動してしまう。

机の間を通って、後ろの席に座る。椅子を引くと、隣の席についていた女の子が顔を上げた。


「あっ、おはようなまえ!」
「おはよう御影。それ、英単語の勉強?」
「そうだよ〜。マイク先生って普段はあんなだけど、結構容赦ないっていうか、厳しいところある先生なんだね。学校始まったばかりなのに、もうテスト始まるなんて」


そう言いながらページを捲る彼女の名前は、村田御影(むらたみかげ)。
七年前、私が雄英に在籍していなかったときはいなかった人物であり、今回の任務に於ける重要調査対象だ。
彼女がこの過去に存在しているのは、私が時間遡行の個性を使ってこの時代へ戻ってきたからではないかと私はふんでいた。時間遡行は時間軸を人間が移動するというほとんど異能といってよい個性であり、これを使用することにより過去になんらかの変化が起きるということは予想されていたことだった。
だが、彼女というかつての七年前にいなかった存在がいることで、この先の未来にどのようば影響を及ぼすのか。それは全く分からないことだった。初めて四月に登校した時に、ひとつ多かった席。村田御影という存在。私は彼女の調査を行いやすくするべく、初日に御影との接触を図ったのだった。


「お互い、頑張ろうね」


御影は、とてもいい子だった。私たちがお互いを下の名前で呼び捨てにしあうほどに距離が縮まったのは、私が意図的に交流するチャンスを多く作っていたこともあるだろうが、彼女本人の明るい性格による部分も大きい。
思い思いに一時間目までの時間を過ごすクラスメイトたちを席から眺める。脳裏によぎるのは過去に飛ぶ前に公安委員会から言い渡された言葉だった。


「なまえ、今回の案件は特に慎重に行ってほしいの。あなたが未来からやって来た人物であることは、周囲に決してばれてはならないわ」


「うん、私も今からでも覚える!」


私が未来から来た、ということはばれてはいけない。
ここにいる誰にも、相澤先生にも、一切を気取られてはならない。
どこからか情報が洩れて、犯人が逃亡するなどということになってはいけないからだ。

だからーー


「あ、」
「はい、轟くん」
「悪ィ、苗字」


落とした消しゴムを、脇を通ろうとした男子生徒に渡す。淡々とした口調でそう返した未来の自分の婚約者に、私はいいんだよーと破顔してみせた。傷もなにもない、生きている彼の姿に胸の奥がひりひりとした感覚が広がったけれど、それを笑顔で打ち消すしかできなかった。