「しょ、しょうとくん…?」
ぴ、ぴ、ぴ。
規則的な電子音が、彼の心臓はかろうじて動いていることを示していた。案内された病院の集中治療室は壁もベッドも真っ白で、外からの細菌が入らないように防護服を渡された私に許された面会時間は十分だった。
「…」
「右胸から腹部にかけて、酷い裂傷です。また右足も骨折しており、靱帯も…。出血量も多く、あと少し遅ければ失血死の危険もあったでしょう。…なにより、彼の意識は未だ戻っておらず、いつ目が醒めるかは全く分からない状態で…」
「…うそ、」
案内してくれた担当医の男性が、静かに告げる。恐る恐る、ベッドに横たわる彼に近づいて、その頬に触れてみた。ひたり、と指先に吸い付くような肌からはいつものような血の通った温かさは引いて、ぞっとするほどの冷たい感触があった。
「う、うわああああああああああ」
「、苗字さん!!駄目です、落ち着いてください!!!」
「焦凍くん、焦凍くん、嘘でしょねぇ!!なんで目、開けないの?なんで…!!!」
ガタガタと揺さぶられる焦凍くんは、それでも目を開けない。端正な顔のほとんどが包帯で巻かれ、長い睫毛に縁取られた瞼は開かない。
正気を失ったように彼の名を呼んで、なんとか起こそうとする。が、焦凍くんはうんともすんとも言わない。
「しょ、焦凍くん、焦凍くん…!!!」
「止せ、やめろ苗字!!」
ぐいと腕を強い力で引っ張られた。
その場にどさりと倒れこんだ私の目の前に立っていたのは、相澤先生だった。
「……落ち着け、苗字」
「せ、先生…?」
はぁはぁと肩で息をする相澤先生は、私と同じ白い防護服を身にまとっていた。頭まですっぽり覆うフードについたプラスチック素材の面部分が、先生の息で曇っている。ここまで走ってきたのか、荒い呼吸をしながら私に諭した。
「…苗字、取り乱すのも分かるが落ち着け。ここは病院だ」
「………す、すみません…」
「すみません、先生。苗字、いったん外へ出ろ。話がある」
私の代わりに頭を下げて先生に誤った相澤先生にはっとして、私もつられて頭を下げる。いいんですよ、と先生は言って、重たい鉄扉のドアを解除した。
「ご婚約者がこのような状態になったのですから、無理はありません。面会可能日については看護師のほうから説明がありますから、そちらでお聞きになってください」
「…はい、ありがとうございます」
退室した先生と共に、私も部屋を出る。
閉まる扉から見えた焦凍くんは、ぴくりとも動かずにベッドの中で眠り続けていた。