03

(もうそろそろかな)


ワープを繰り返し、私は最上階までやって来ていた。そして、最後の部屋の前に立っている。

どこの部屋に御影がいるか分からないから、移動距離は短く、こまめに使うことで徐々に距離を縮めた。もしこれが実戦ならばタイムリミットもあるからこんな悠長なことはやっていられないが、今回は初めての戦闘訓練である。最初から飛ばしすぎて変に周りから目立つわけにもいかない。


(よーし…)


そして私は、部屋の中へと飛んだ。ーと、


「、」


部屋のちょうど天井近くへと転移した私の頬を、なにかが掠めた。


「!!!」


それは黒く、滑らかに動く長い物体だった。手首に絡みつく寸前で、ワープを一回入れてそれを回避する。空中を舞いながら急速に動く視界の中、地面に立っている御影の姿を捉えた。


「なまえ、私、全力でいくから!!」


そう言った御影の足元、床に落ちる彼女の影が、実際の御影の体格以上に大きくなっているのが見えた。そしてその影は細く長く、ほかのテーブルや椅子からできる影と繋ぎあって壁にまで伸びている。


(影を、操る個性…)


御影の個性を確認する思考さえ遮るかのように、影がまた私の身体を捉えようと動く。スピードが、かなり速い。自在に空間を移動する影を避けながら、なんとか着地地点を探す。
御影が立っているちょうど後ろに、核はあった。私を影でとらえ、そこで決着をつけるという算段なのだろう。御影は私に核には触れさせないつもりだ。
私の個性なら、あの核のところまで飛び、核も一緒にワープさせて階下のフロアへまず移動、そしてそこからビルの外へ持ち出すこともできる。それに、御影の個性の使い方は中学をついこの間卒業したばかりにしてはかなり上手いほうだと思うが(影を使う距離を最大限に伸ばせるように椅子やテーブルの場所を移動させてある)、操り方のテクニックはまだ甘い。未来にいたころ、操作タイプの個性を持つヴィランと戦ったときにはもっと巧い者もいた。正直、ここで御影に勝つことは難しいことじゃない。



「はー…苗字さん、よくあんな速いのから逃げられるね。っていうか、御影の個性って常闇のと似てるんだね」
「だが、村田の影は俺のダークシャドウのように意思があるわけではないようだな」
「村田、ちょっと焦ってんじゃねぇ?苗字がなかなか捕まえられないから…」


「ッ、!」


御影の顔に、だんだん焦りの色が見え始めた。それはそうだろう。誰しもがそうであるように個性も身体能力の一部である以上、使いすぎると精度も威力も落ちてくる。私のワープの個性が訓練前には分かっていなかった御影からすれば、部屋に入ってきた私をまず影で捕えようとするのは当然の動きだ。なんの個性を持っているのかわからない敵なら、まず動きを封じるのが得策。


(私の個性がワープだとは、思ってなかっただろうしなあ…)


ワープの個性は非常に希少なものだ。まさか御影だって、私の個性がワープだとは思っていなかったのだろう。
とはいえ、このまま逃げを続けていても鼬ごっこにが続くだけだ。これは訓練。彼女について知りたかった個性については分かったのだし、もうこれは終わらせてしまっても構わないだろう。


「えい、」
「!!!」

「あっ、苗字さんが動きましたわ!」


部屋の隅から、一気に御影の頭上に飛び、そして核へと手を伸ばす。私に気を取られていた御影の、今の今まで隅で私を追っていた影が追ってくる。卵型の核へと手を着き、そして、


「あっ!!!」


「村田がー苗字を捕まえた!」


私は、"手を滑らせた"。伸びてきていた影が、しゅるんと私の腰に絡みつき、ぐいと引っ張られた遠心力によって私の身体は床へと投げ捨てられた。ぐしゃ!と、かなり派手に。咄嗟に後ろ手をついて、ダメージを軽減する。訓練が終わるとすぐ、御影は私の元へと駆け寄ってきた。心配そうに私の背を起こして、


「なまえ、ごめん!!叩きつけちゃって…!!怪我は!?」
「ん、大丈夫だよ。訓練なんだし気にしないで」


ぱんぱんと服の塵を払いながら立ち上がる。それでも申し訳なさそうな御影に「大丈夫だってば」と笑いながら一緒にビルの外へ出る。
出た先では、オールマイトと皆が出迎えてくれた。オールマイトはまず御影に、


「村田少女、おめでとう!この間まで中学生だったとは思えない個性の使い方だったよ!地形も利用し、自分のパフォーマンスのを最大限に活かせるようにしていたところも良かった。訓練をさらに重ねれば、影の操作ももっとよくだろう。そして苗字少女、」


くるりとこちらを向いて、


「今回は惜しかったな。だが、君も部屋に突入するまでの慎重な攻め方はよかったぞ!ワープの個性は鍛え方次第では様々な被害場面や対ヴィラン時にも活躍することだろう。これからの訓練でも励んでくれよな!」
「はい、ありがとうございます先生」


肩をがしっと掴んで激励してくれたオールマイトに会釈をする。
今日の結果はまずまずだ。わざと核から手を放して負けたこともオールマイトには気づかれていない。そして御影の個性についても分かった。高校へあがったばかりらしく、ところどころ詰めを甘く演出するのも、まあうまく行ったと思う。
外はもう夕方になっていた。


「お疲れさん!!緑谷少年以外は大きなけがもなし!しかし真摯に取り組んだ!!初めての訓練にしちゃ皆上出来たったぜ!」
「相澤先生の後でこんな真っ当な授業…何か拍子抜けというか…」
「真っ当な授業も私たちの自由さ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室にお戻り!!」


改めて挨拶をしたオールマイトは、そのまま超パワーですっ飛んで帰っていってしまった。
その場に残された皆がそれぞれ更衣室へと帰っていき、私も御影と一緒に戻る。


「なまえ、なんとか今日の訓練いけたね」
「うん、御影強かったね。私ももっと頑張らないと…」
「ね、二人なんの話してんの?」


そこへ美奈ちゃんがやって来たので、結局女子皆で戻ることになる。夕暮れの授業終わりという懐かしさに、私は思わず苦笑した。