「久しぶりだね、発目さん」
それから私が次に訪れることになったのは、発明さんのラボだった。かつて同じ雄英に通っていた彼女は、今ではもう有名なサポート会社で働く優秀なクリエイターとなっていた。
会社の地下に併設されたラボの奥から出てきた発明さんは、手にしていたパックに詰まったものを、待合室で待っていた私に手渡した。中身は、私がかつて使っていた雄英の制服だった。
「苗字さんの個性の性質上、服や未来からの荷物は特殊な加工をしないと過去へもっていくことができませんからね。制服は一応、三セットくらいつけておきました。あとローファーも。その他の生活用品は過去で調達してください」
「わぁ、懐かしい…!ごめんね発目さん、こんな急な依頼になってしまって」
「いえいえ、苗字さんの個性は他に類をみない特殊なものでしたから、私も腕が鳴りました!あと、こちらが言われていたやつですね」
ころん、と手のひらに渡されたそれ。きらきらと手の中で輝くのは、焦凍くんが私に渡してくれた婚約指輪だった。
「これを、お前に持っていて欲しい」
「来年の春には、式も挙げられると思う。…それまで我慢させるけど、待っててくれ」
「制服と同様に、そちらにも加工のコーティングをしています。大事なものですから、きっちり壊れないようにしておきましたよ!」
「…うん、ありがとう。本当に」
「苗字さんが未来に戻ってくるときって、過去のものを持ち帰ったりはできないんですよね?」
「うん、風化しちゃうんだ。持ってきても、その物自体の時間も進んじゃうから」
時間遡行をすると、未来から持ってきたものは過去の時点にはまだ存在していないため、なくなってしまう。たとえば雄英の制服は、発明さんに加工をしてもらわなければ身に着けていっても素っ裸というわけである。
また、過去のものを未来に持ち帰ることも、厳密にはできないわけではないのだが、風化してしまうという欠点がある。遡行する時間にもよるが、今回のような長い年月を遡るときは物に対する時間の経過が及ぼす影響も、大きくなってしまう。私自身の身体はこの個性による影響を受けないため、今回の制服ななどの制作には私の髪、血液から採取した細胞をもとに作られた特殊な素材が使用された。
「そしてこれが、ヴィランを捕捉するための武器ですね」
そう言って発明さんが手渡したものは、一丁の銃だった。見たところかなり小さく、一見するとまるで夏祭りの屋台にでもありそうなおもちゃのそれのようだ。
もっと物々しい武器が手渡されるのかと思っていた私は少し拍子抜けする。その反応を予想していたのか、ふふふ、と発明さんはドヤ顔でずい、と前に出てきた。
「言いたいことは分かっていますよ、おもちゃみたいって思いましたね?そう、そこがポイントなんですよ!今回の銃は学校生活内でも常に持ち運びができるように最大限まで軽量化したんです!だけど中の銃弾はしっかり六発入るようになってますからね!そして従来のデザインではもし誰かに見られたときに説明に困ると思いましたからポップな色遣いで仕上げたんです!ね!ドッ可愛いでしょう!?」
「な、なるほど…!あ、もしかしてこの銃弾って…」
「ええ、かつて死穢八斎會の若頭であったオーバーホールが研究していたものをもとに作られた、個性因子を打ち消す働きをもった弾です。本来は政府ですべて管理されていますが、今回の任務には六回分の使用が許可されています。とはいえ、危険なものですから本当に最後の最後に使うべきですね」
手の中に収まる小さな銃。可愛らしいライトグリーンのそれに込められた弾を知ると、途端にそれが重たく感じた。これから始まる自分の任務がどれだけ大変なものなのかがひしひしと伝わってくるようだった。
付属品として渡されたホルスターで、右の太腿に取り付ける。かちゃりと留め具を付けると、発明さんは「では、」と椅子から立ち上がった。
「依頼されたものは以上になります。私はこれで」
「うん、ありがとうね発明さん。急な依頼になってしまったのに…。本当に助かったよ」
「いえいえ、作り甲斐がありましたよ」
私もソファから立ち上がる。
受け取った荷物を下げて、発目さんを振り返った。
「じゃあ、ありがとう。私行くね」
「苗字さん、」
「うん?」
「轟さんのこと、頑張ってください。私はサポートアイテムの作成しかできませんが、必ずあなたが彼を守るって、信じてますから」
「…うん」
そう言った発目んは、いつもパワフルでくるくると表情を変える彼女には似つかわしくないような、とても静かな目をしていた。彼女の言葉に、私も強く頷き返す。
「では、今度こそ本当に、私はこれにて!」ぺこりと会釈をし、発目さんは向いのドアから去っていった。彼女を見送って、私もドアノブに手をかける。焦凍くんに行ってきます、と挨拶をしなくてはならない。