学級委員決めの日

(、凄いマスコミの数…!)


日本のトップヒーローであるオールマイトが教師として雄英に就任したことは世間の注目の的となり、近頃は校門前にたくさんの報道陣がやって来ている。当時はそんなに騒ぐことなのかなと思っていたものだが、実際に自分がヒーローの仕事をするようになってからはそれがとても特異なことだと理解できるようになり、皆がこんなに気にするのも分からなくはないと思うようになった。


(うーん。七年も時が経つと感じ方だってやっぱり変わるよなあ)


日常の端々で、同じ場面に遭遇しても七年前とは感じ方が違うことがよくある。一度は経験した場面をもう一度繰り返すというのはやはり変な感じだ。


「あっ、おはよう苗字さん!」
「おはよう麗日さん」


報道陣につかまっていたお茶子ちゃんが、こっちに気づいて駆け寄ってきた。彼女がやって来たほうには道が見えないほど人がたくさん押し寄せてきている。中には飯田君や爆豪もいるのが見えた。お茶子ちゃんは苦笑しながら、


「マスコミの人たちも毎日来るねぇ。さっきインタビューされちゃってびっくりしたよ」
「あはは、お疲れ様。でもこういう機会も滅多にないから、なんか特別な感じしない?」
「お前らそんなこと言ってる暇あったらさっさと教室に行け」
「うわ!!!」


疲れ気味の表情のお茶子ちゃんにそう返すと、急に別の声が混ざった。びっくりして振り向くと、そこにいたのは相澤先生だった。春の光もうららかな爽やかな朝に似つかわしくない真っ黒な服。相澤先生先生はいつ見てもぶれないなあと思わず心の中で笑いそうになってしまう。


「なんだ苗字」
「いえ、なにも。…マスコミ、本当にたくさん来ますよね」
「ああ、全く迷惑もいいところだ。オールマイトが教師になったとかいうことよりももっと報道することとか他にあるだろ」
「はは…。じゃあ、私たちはこれで」


ケッと嫌そうに報道陣を見遣った相澤先生先生に会釈をして、お茶子ちゃんと学校へ入る。振り返り、未だざわざわと懲りずに取材交渉をする彼らを振り返りながら思い出すのは、この日起きる事件のことだ。今日、セキュリティ3が雄英にやって来た大勢のマスコミによって突破される。当時は先生たちは私たちにはなにも言わなかったものの、今思えばただのマスコミにそんなことができるはずはない。恐らく、あれもヴィランの犯行によるものだったのだろう。


(まあでも今日のは花吹とは直接関係なさそうなんだよね…)



花吹草治。
私がこの過去で捕捉しなければならないヴィラン。敵連合との接触がちょうど私たちが高校一年生である今の時期にあったといわれている。彼を捕まえるにあたって、私は敵連合に探りを入れることを考えていた。

もうすぐ行われるUSJでの災害救助の訓練。

あの日、A組は敵連合に襲われる。たしか、黒霧というヴィランが持つワープの個性によって私たちはばらばらの場所に飛ばされるはずだ。オールマイトたちを消すために。その際、皆とは別の場所にワープすることで適当なヴィランをひとり捕まえて花吹に関する情報を聞き出そうと考えている。
恐らく、簡単に口を割りはしないから対象は恫喝することになるだろう。なにしろ私には塚内さんたち警察が到着するまでに終わらせなければならないとううタイムリミットがあるのだ。もちろん、それも皆にばれないように行わなれけば、


「なまえ?」

「、。ごめん、なに?」
「どうしたの。ぼーっとして」


はっとして顔を上げる。と、不思議そうな御影と目が合った。そこで自分が考えに没頭していたことに気づく。
そうだ、今は学級委員決めをしていたんだった。黒板にかかれた文字を見て思い出す。


「うん、ちょっと考え事。委員長決めしてたんだよね」
「そうそう。なまえ、立候補とかしないの?皆やりたがってるけど」


ヒーローを目指す者にとって、学級委員として皆をまとめる体験をしておくことはプラスになることだ。だから皆やりたがるし、だいたい自分に票を入れる。「委員長!!やりたいですソレ俺!!」「オイラのマニュフェストは女子全員膝上30cm!!」「ボクの為にあるヤツ☆」「リーダー!!やるやるー!!」(すごい熱気だ…)
しかし私には特に立候補する予定はない。もともとこういうことを積極的にやるほうではなかったし、飯田くんや百ちゃんといったもっと適任な人がいる。それに今回の事件においても、学級委員になるよりただの生徒としてのほうがなにかと動きやすいだろう。


「私はいいの。それより御影は?こういうの得意そうなイメージあった」
「いやー私は全然だよ。それに、私より委員長が合ってる子がいるし。飯田くんとか」
「わかるわかる。飯田くん、いつもピシッとしてるもんね。私もそれ思った」


御影も同じことを思っていたようだった。飯田くんてやっぱり誰から見てもそんな感じのイメージなんだなと面白くてふふ、と笑う。
そしてその日、いったんは男子が緑谷くん、女子が百ちゃんに決まったが、マスコミが押し掛けた事件の後は飯田くんが委員長となった。
七年前の雄英での日々が、過ぎていく。窓の外を赤く染め始めた夕暮れに、私はUSJ事件のことを考えながら空を強く見上げた。