その日の夜。
自宅のアパートへと帰って、パソコンにセットした公安委員会の会長から受け取ったチップからデータベースへとアクセスし、ヴィランから得た情報を早速検索した。
何重にもかけられたパスワード。暗い画面の中から発光するブルーライトが、政府の重要機密事項を強調しているようだった。ボックスに"ミツダ製薬会社"と入れて、スクロールバーを下へと動かす。すると、ひとつの件がヒットした。
(裏社会との繋がっている疑いがある、か…)
ーデータベースの情報によれば、こうだ。
ミツダ製薬会社は"三津田製薬会社"で、埼玉にあるそこそこの規模の組織。五十年ほどまえに設立されてた会社であり、幾つかドラッグストアなどの展開もしているらしいが八年前に摘発されている。なんでも、裏社会の組織と薬の取引をしていたらしい。その薬は日本ではまだ合法化されていない麻薬で、その摘発があってからは客が大幅に減って一時は倒産しかけるも、別の会社に買収される…
(買収?)
三津田製薬会社を買収した会社は、前川製薬会社という更に大きな会社である。そう、書かれている。
更に調べるべく、検索ボックスに前川製薬会社と入れる。が、
「何も出てこない…」
ヒットした内容はどれもごく一般のホームページや新薬発売のニュースなどだ。三津田製薬会社と共に載っているものはないし、犯罪に関わったという内容もない。
ぎし、と椅子に背を預ける。なかなか見つからないものだ。データベースにないとなると、直接、今の政府が管理している書庫へ向かうしかないのではないか?
幸い、書庫へ向かうためのパスワードは「何かあった時のために」と会長から教わっている。しかし、ワープの個性があるとはいえ危ない橋だ。この時代の会長は私を個性のことで既に知っている可能性がなくはないが、だからといって連絡を取って協力を仰ぐのは難しいだろう。未来からきたということを、そう簡単に信じてもらえるとは思えない。そうなれば裏口から入って、なんとか書類を見つけ出すしかないのだ。周りに見つからずに。
(…)
はあ、と思わず深いため息が漏れた。
USJでヴィラン一人連れ出すのさえあれだけ緊張したのに、今度は、政府が厳重に警備している書庫へ出向いての書類探し。どこに直されているかも分からないものを、周囲にばれないように探さなければならない。
今回の任務は、自分が今までこなしてきた中でも間違いなく最高難易度だ。怖い、と思う。普段は被災地などに赴いての救助活動をメインに活動していたこともあって、単独での任務に慣れていなかった。誰も私を知る人のいないこの時代で、焦凍くんを襲った花吹というヴィランを探さなければならないのだ。失敗は許されない。日本のトップヒーローの一翼を担う彼が亡くなれば、この国への打撃は大きいのだから。ぎゅ、と握った左手の指輪の感触。不安と緊張の中でこぼしたため息は、誰もいないアパートの部屋に落ちて、無くなった。