「16…17…18……両足重傷の彼と村田さんを除いて、ほぼ全員無事か」
雄英へと出動した大量のパトカー。そこから出てきた警察の方々に次々に連行されるヴィランの前で、私たちは点呼をかけられていた。
バラバラになっていて行方知れずだった皆はそれぞれなんとか窮地を脱することが出来たようだった。塚内さんを前に、無事に今回の目的だったヴィランから情報を聞き出すことなどが終わったことに、内心物凄く安心する。
(間に合って本ッ当に良かった……)
ヴィランを尋問することは、思えばヒーローの仕事をするようになってからほぼ無かった。私はワープの個性で、基本的にはサイドキックの仕事をしていたのだ。それも主に救助災害での人々の大規模な移動の際や、倒壊した建物を退かすことばかりしていた。慣れない仕事を急にするというのは、本当に疲れることだ。
「尾白くん…今度は燃えてたんだってね。一人で…強かったんだね」
「皆一人だと思ってたよ俺…ヒット&ウェイで凌いでたよ…葉隠さんはどこにいたんだ?」
「土砂のとこ!轟くん、私がいた土砂ゾーンに来るまでは別のとこにいたみたいなんだけどね。クソ強くてびっくりしちゃった」
「…?」
目の前で話している透ちゃんと尾白くんの近くにいる焦凍くんが、なにかを探しているように辺りを見渡している。ふたつの色違いの目がきょろきょろと動き、そしてはたと私と視線がかち合った。
「、」
思わずどきり、としてしまう。
私が息を詰まらせたその瞬間、焦凍くんが「苗字」とこちらへ歩いてきた。
「、うん。なに?」
「アイツ…村田のことなんだが、肩怪我してたろ。リカバリーガールのとこ運ばれたのか?」
「うん、さっきね。怪我が結構大きいみたいだから、状態にもよるけどもしかしたらこの後病院に行くかもしれないらしくて…」
担架に乗せられてぐったりしていた御影のことを思い出して、胸が痛んだ。ぬるりと滑った彼女の血の感触を思い出す。怪我はどれくらい深いのだろう。この過去にきて初めてできた友人の痛ましい姿に辛くなった。御影は、任務のことで皆に迂闊に近寄れない私にとって、唯一といってもいい友だちなのだ。心配だ。
焦凍くんは「そうか」と頷いた。
「さっき怪我してるの見たから、あれからどうなったのかって気になったんだ。急に話しかけて悪かったな」
「いや、そんな…、あ、」
脳裏に、御影の肩の傷を抑えていたガーゼのことが過った。
「轟くん、もしかしてあれ…、」
「オイ苗字。お前ちょっとこっち来いや」
話がそこで中断される。振り返ると、そこには爆豪くんがいた。
「お前、あの後どこ行ってたんだよ」
「、ごめん。ビルから出たあと、追ってきたヴィランと戦闘になったんだ。先生呼んでくるように頼まれてたのに、本当にごめん」
頭を下げると、爆豪くんは少しの間を置いてから「そうかよ」とくるりと踵を返して行ってしまった。爆豪くん、心配…はないだろうから、私が先生を呼べなかったことに怒ってるのだろうか。そうだとしても頷ける話だ。飯田くんが先生を呼んできたことを彼は知らないし、もし私が行けていなかったからヴィランたちの戦闘が今よりも続いていたかもしれないのだから。
爆豪くんの後ろ姿を見送りながら申し訳ない気持ちになっていると、梅雨ちゃんの声が聞こえてきた。
「刑事さん、相澤先生は…」
話しかけてきた梅雨ちゃんに、塚内さんは自分の携帯を出した。その傍には峰田くんもいる。
『両腕粉砕骨折、顔面骨折…。幸い脳系の損傷は見受けられません。ただ…眼窩低骨が粉々になってまして…。目に何かしらの後遺症が残る可能性もあります』
「…だそうだ」
「ケロ…」
(相澤先生…)
相澤先生がこの事件で怪我を負うことを、私は知っていた。だが、まだ皆が知るはずのない情報を言うわけにはいかなかった。仕方がなかったとはいえ、私がもしこのことを言えていたら、先生はきっと怪我を回避できていたのだ。
胸が、痛い。
過去に戻ってこの任務を遂げることがどういうことなのか、その意味を思い知った身体を風が吹きつけていった。