一方、その頃。
御影は土砂ゾーンに居た。
広場に現れたヴィランのワープによって飛ばされた先の、土砂ゾーン。襲い来るヴィランの攻撃を避けながら、離れ離れになった皆や先生たちのことを考える。皆は今どうしてるのだろうか。どこにいるのか。早く合流しなければならない。
だが、複数のヴィランの攻撃を避けることで御影は精いっぱいだった。対一人ならば、攻撃にも防御にもと個性の操作ができた御影だが、何人もを相手取るには彼女にはまだ経験が足りていなかった。しかも、倒壊ゾーンは建物が崩れているという設定であったため、昼間なのになかなか影が作れない。
なんとか自身の影とヴィランの影を繋ぎながら交戦するも、ほとんどぎりぎりの状態だった。
「ッ…!」
息が切れる。酸素を取り込もうとする肺が痛い。
影を操るにしても、一人のヴィランの攻撃を躱すときに他のヴィラン達に宛がっている影の操作がおろそかになってしまうのだ。
段々と動きが鈍くなってきた御影に、一人のヴィランが嘲笑うように言った。
「どれだけ逃げたって意味ねぇよ、お嬢ちゃん。どうせもう走るので精いっぱいなんだろ」
「当てが外れたなあ、こんなガキ一人じゃなくてもっと大勢いりゃあとっとと全員片づけられたのによぉ」
「ッ、」
つま先を、脚を、腕を攻撃の衝撃波が過ぎていく。−バランスを崩した御影の肩に、なにか熱い感覚が走った。
「!!!」
視界に過った鮮血。−攻撃だ。攻撃が当たってしまったのだ。
そう自覚する方が速いか否か、御影は肩に生まれた痛みに思わず膝をついた。−痛い。熱い。じんじんと疼くように痛む肩にそっと視線を落とすと、だらだらと血が溢れて出てきている。コスチュームにどんどん沁みていく血が赤い染みを作っていき、御影は咄嗟に左手でそこを庇うように抑えた。
(血が、止まらない…!)
こんな怪我をするのは生まれて初めてのことだった。いや、このように他人に殺意を向けられるということが初めてだったのだ。今までの授業での戦闘訓練では、ヴィランとの戦いを模したものではあったものの実戦とはわけが違う。
御影は焦った。止まらない血にも、今の状況にも。だが戦わなければならないということだけは分かっていたので、べたべたと血が纏わりつく両手をひたと合わせて何とか個性を使う体制を立て直した。じりじりと追い詰めるように歩みを進めてくるヴィランたちを睨み付けながら、精いっぱいの力を振り切って個性を使おうとしたときだった。
「そいつから離れろ」
なにかが、視界を過っていた。
「…!」
早すぎて、一瞬それが何か分からなかった。だが、はらりと冷たい氷の気配を頬に感じて、それが自分の知っている個性なのだと気づく。
そこにいたのは、轟だった。
「大丈夫か、…えっと、村田だったよな」
手も足も一気に拘束されて氷に呑まれていったヴィランたちを横目にこちらへ駆け寄ってきた轟に、安堵から御影はわずそこに崩れ落ちた。
緊張から解き放たれた身体から力が抜けていく。と、御影が抑える肩に気づいた轟が眉根を寄せた。
「お前、それアイツらにやれらたのか」
「うん、ちょっとへましちゃって…。本当にありがとう轟くん、轟くんもここに飛ばされてたんだね…」
「ああ。あっちの方のヴィランは大方片づけたが、多分まだ皆交戦中だ。俺らも早く加勢に行かないといけないが…」
轟の視線が肩に注がれているのに気づいて、御影ははっとして笑顔を作った。そして強く頷く。
「私は大丈夫だよ!後から追いつくから、轟くんは先に皆のところに行って!」
「だけど、その傷だと相当出血してるだろ。ちょっと待ってろ」
そう言って、轟が出したのは止血用ガーゼだった。それを御影の肩にぎゅっと結んでいく。その動作の手早さに御影は驚いた。
「あ、ありがとう…」
「これで暫くしたら止まるだろうから、ひとまず村田は後から来い。この一帯のヴィランはもうこいつらで全員倒したと思うが、今襲われたら対処できないだろうから血が止まるまで建物の影に隠れてろ」
そう言い終わると同時に、轟は行ってしまった。すぐに後ろ姿は見えなくなってしまう。
御影は正直、意外だった。
轟といえば推薦入試で入ってきたクラスでも一番強い生徒で、綺麗な顔で、だけど周りと距離を置いているからなんとなく浮いているような子だった。こんな状況とはいえ、ほとんど口もきいたことのない自分を助けにきてくれるとは。
轟がくれたガーゼで肩を抑えながら御影は暫くの間、彼が走っていった先を見つめていた。