07

その後、皆がいる場所へ向かおうとワープをした。辿り着いた場所は、USJ内の施設の中だった。奥の方でなにか煙が上がっている。皆だ。戦闘状態になっている。
駆けだしながら考える。靄の中には、オールマイトが見えた。つまり、まだ死柄木弔たちと膠着状態にあるのだ。塚内さんたちは到着していない。そう思うと、目の前で戦闘が行われているのにも関わらず、場違いにも心底安心してしまった。はあ、と大きく息を吐きだしたとき、右手から声が聞こえてきた。


「−なまえ!」
「御影!!?」


声の主は御影だった。良かった、御影も戻ってこれたんだ。
そう安心したのも束の間、彼女の肩が出血しているのが視界に入って息を呑む。


「よかった、なまえ。ッ、はあ、無事だったんだね、」
「み、御影。その傷はー」
「あ、ああうんこれね。…あはは、ちょっと怪我しちゃった。でも大丈夫だよ。もう出血収まってきてるし」


そう言って笑ってみせるが、その顔色は良くない。肩に結ばれたガーゼに染みている赤黒い血は、触るとひたりと音がしそうなほどに濡れている。出血量が多いのだ。傷口自体も恐らく結構深いのだろう。御影の肩が、かたかたと震えているのが支えようと伸ばした手から分かった。


「御影、私が支えるから。ここから離れよう」
「えっ、でも。皆、戦ってるのにー、」


怪訝な顔をする御影。だが、ここから先で繰り広げられる戦いに視線をやれば、今行った所で私たちが何もできないのは明白だった。オールマイトと対峙する死柄木弔の声が、ドームに反響してここまで聞こえてきた。


「全っ然弱ってないじゃないか!!あいつ…俺に嘘、教えたのか!?」


「−大丈夫、オールマイトなんだから。絶対に大丈夫。それに、今の御影の怪我じゃもしこっちに攻撃が飛んできたときに逃げれないよ。ね、行こう」
「…うん、わかった!」


御影の腕を私の肩にかけ、歩き出す。ちらりと視線を後ろに送って、後方での戦闘を除く。−この後、飯田くんが先生方を呼んできてくれるんだ。切島くんには先生を呼ぶように頼まれたが、私は彼が連れて来てくれるのを知っていたためそれはしなかった。何より、ヴィランから情報を聞き出すという役目があったからだ。だが、最終的には大丈夫だと分かっていてもやはり心配なのは心配だ。なぜって、今私の目の前で起こるすべての出来事は一旦は経験したこととはいえ、紛れもない現実なのだから。頬にあたる熱風はむわりと暑くて、飛んできた破片で切った指先は意識すればピリピリと痛む。肩で苦しそうに息をする御影の身体の熱さだって、生きている人間のものだ。


「御影、もうちょっとで出口だからね。頑張って」

「脳無さえいなければ!!奴なら!!何も感じず立ち向かえるのに……!!!」
「死柄木弔…落ち着いてください。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている」

「うん、ありがとうなまえ…」

「どうやら子供らは棒立ちの様子…あと数分もしないうちに増援が来てしまうでしょうが、死柄木と私で連携づればまだヤれる可能性は充分にあるかと…−それに、」

「!」
「あちらの女生徒二人が、このままでは逃げてしまう」


かち合った視線。戦闘にかかりきりでこちらには気づいていないと思っていたのに。不味い。


(人質、)


はたと気が付いた。と、それとほぼ同時に、彼の隣にいた死柄木が私たちを見た。ぎょろりと虚ろな目が長い前髪から覗く。嫌な予感がした。


「そうだな…そうだよ…そうだ。やるっきゃないぜ…目の前にラスボスがいるんだもの…」

「主犯格はオールマイトが何とかしてくれる!」
「俺たちは他の連中を助けに…ッ、苗字!!!村田!!?」


 クラスの皆が私たちに気づいて、その中の誰かが大声を上げている。不味い、と直感した。


「黒霧、脳無の仇を取る前にー…あそこの二人捕まえろ。腕でも折りゃあクソチートのオールマイトでも流石に黙ってないだろ」

「、御影伏せて!!!!」


ー咄嗟に、御影を隠す。目の前に現れる黒霧の大きなワープ体。これに呑み込まれたら、死柄木の元へと連れて行かれて酷い目に遭うのだろう。ヒーローは、オールマイトは、生徒を人質に取られれば彼といえども膝を屈するしかない。視界の端で、オールマイトが超パワーでこちらに吹っ飛んでくるのが、見える。だが届かない。黒霧のワープが、私たちの身体を包み込む方が速い…!

ーー私は、咄嗟に手を伸ばしかけた。


(………ダメだ!!!!)



今の私は、"この攻撃に対応できてはいけない"のだ。春にヒーロー科に入学したばかりの高校生が、迫りくるワープ体を同じタイプの個性で相殺するなんてことをしたらおかしい。何故そのような芸当が出来るのかと、怪しまれるきっかけが出来てしまう。

一瞬のうちに、その考えが脳内を駆け巡った。ぎり、と思わず奥歯を噛み締める。


「苗字さん!!!村田さん!!!」


緑谷くんが、手を伸ばしてくるのが見える。だが、駄目だ。届かない。そう思った時だった。

一閃の銃弾が、黒霧の身体を通して私たちへと伸ばしていた死柄木の手を打ち抜いていた。そして瞬く間にどこから撃たれた銃弾は、まるで糸に引っ張られているかのように次々と辺りに居たヴィランの身体をも打ち抜いていく。
後ろへとひっくり返った私たちは、危うく地面へと倒れかけた。だが、なんとか受け身を取って御影の身体を守る。
こちらへ駆け寄ってきたお茶子ちゃんが、はっとして上を見上げた。


「飯田くん…!」
「…!」


「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」


飯田君を囲うように、ずらりと並んでいる先生たち。ゲートの上に集まったそのヒーローたちの姿に、何とか間に合ったことへの安堵からため息が漏れた。