05

 そして、体育祭当日がやって来た。


 「あー…ドキドキしてきた…」


 体操着に着替えたお茶子ちゃんが、ロッカーの前で深呼吸をしている。それを見た百ちゃんも、制服を仕舞いながら頷いた。


 「そうですわね。…でも、後はもう今まで練習してきたことをしっかりやるだけですわ。お互い頑張りましょう」
 「そうだよね。もうこの日になっちゃたんだもん。精いっぱいやるしかないよ!」


 と透ちゃんも見えない腕を伸ばしながら言う。皆、緊張している。雄英の体育祭には毎年多くの人が集まり、テレビ中継もされる。私たちにとっては、ここでの成果が今後のインターン活動でのプロたちからお呼びがかかるかどうかということもあるし、とにかくこの行事は重要なものなのだ。


 「すまん、苗字はいるか?」
 「相澤先生」


 ドアがノックされ、傍にいた梅雨ちゃんが向こう側へと顔を覗かせる。
 何かを告げられた梅雨ちゃんは、少し動揺の色を見せたあと、「苗字さん」と小さく私を呼んだ。

 何を言われるかは、分かっている。


 「苗字さんのおばあさまが、今…亡くなったって」


 「えっ、」と後ろにいたお茶子ちゃんたちが驚いた声を上げる。私はドアの向こうへ行き、相澤先生を見上げた。七年前もこうだった。あと少しで開式というときに、先生がやって来て祖母の死去を私に告げたのだ。


 「苗字、急なことだが今から向かえるか。…残念だが、体育祭の方は…、」
 「大丈夫です、先生。私行きます」
 「…ああ。正門出たところにタクシーを呼んである。本来なら俺が着いていくべきなんだが、審判が入っていてな。お前は13号先生が送っていってくれることになった」
 「分かりました」


 頷いて、コスチュームの上から脱いだばかりのジャージを羽織る。手早く荷物を纏めて、心配そうに私を見る百ちゃんたちに謝った。


 「ごめんね、こんな時に。私行ってくる」
 「いえ、そんな…。ですが、苗字さん、…大丈夫ですの?」
 「うん。先生が着いてきてくださるらしいから。私は平気だよ」


 開式の時刻がもう迫ってきている。だけど、と言い淀みながらも不安げな眼差しを向けてくる皆にもう一度笑った。

 
 「応援してる。皆、頑張ってね」


 そう言って笑うと御影が「なまえ、」と走り寄って来た。
 

 「大丈夫。きっと御影なら訓練での成果も発揮できるよ。体育祭には出られなくなったけど、応援してるから」
 「…うん」


 ぎゅっと彼女の手を握ると、御影は泣き出す寸前のように眉根を寄せた。だがそれ以上はなにも言おうとせずに、ただ力強く頷いた。
 遠くから喧騒が聴こえてくる。グラウンドへと足を踏み出した御影とは反対の昇降口へと、相澤先生と共に向かった。