06

 葬儀が終わった。
 葬儀は、集まった親族は私を含めて十人少しの小さなものだった。母方の叔母が、式の後に私の方へと小走りでやって来た。


 「なまえちゃん、今年から雄英に進学したんですってね」


 叔母さんは、二人の息子がいる。優しい女性で、両親が亡くなったあと、私を自分の家に引き取って育ててもいいと言ってくれた人だった。
 真っ白なレース地のハンカチで涙を拭いながら、目元を歪めた。痛ましいものを見るように。


 「なまえちゃん、本当にうちに来ない?家は都内にあるから、電車には乗らないといけないけど、雄英にはじゅうぶん通える距離よ?なまえちゃんは女の子なんだし、一人暮らしなんて…、」
 「いいですよ、叔母さん。おばあちゃんたちと住んでいた家を、手放したくないんです。生活費は両親が遺してくれたものがありますし」
 「でも…」


 なおも食い下がる叔母に、「本当に大丈夫ですから」と微笑む。実際、今は任務遂行のために一人で住んでいた方が何かと自由に動けるのである。叔母は、まるで自分のことのように悲しげだった。彼女はとてもいい人で、何かと私を気にかけてくれていた。家族がいなくなっても、こうして心配してくれる人がいるというのはとても有難いごとだ。大人になった今だからこそ、そのことを当時よりもしみじみと感じた。
 その後、叔母と別れてから私は堤防を一人で歩いた。空はよく晴れ渡った青さで、今頃行われているであろう体育祭にぴったりだった。


 (まさか、またこの場面に遭遇するとは思わなかったなぁ…)


 私は、高校一年体育祭当日に、祖母を失くす。
 両親が亡くなってからは唯一の親類であった祖母が亡くなって、私は本格的に一人になってしまうのだ。七年前、祖母が亡くなった時も私はひとりで残された家に住み続けることを選択した。家から離れるなんて、当時の自分には考えられないことだった。両親も優しかった祖母も亡くしたとき、私は自分に残されたものは"ヒーローになる"という夢ひとつだけだと思った。


 「あのね、お父さん。私、大きくなったらヒーローになるんだ!」
 「そうかそうか!きっとなれるよ、なまえなら。お父さんもお母さんも楽しみにしているよ、なまえの成長を」



 「…なんで、死んじゃったんだろう…」

 
 びゅう、と風が吹いた。まだ春の名残が混じったような風は、涼しくて心地の良いものだった。鼻の奥がつんと痛んで、視界が滲む。鼻をすすると、堤防に茂る草と土の匂いがした。
 親を亡くし、祖母も亡くし、その上数年後には焦凍くんさえあんなことになってしまった。そう思うと、強い悲しみが胸を襲った。喪服の黒いスカートの裾を、穏やかな風が揺らしてゆく。ひぃ、と小さく嗚咽を漏らしながらゆっくりと堤防を歩きながら、思う。


 (焦凍くんに、会いたい……)


 こんな時、彼が一緒にいてくれたらどんなに悲しみが和らぐだろう。あの大きな温かい手に包まれて優しい胸の中で眠るとき、私と彼の身体がいっしょになって、どんな辛いことも悲しいことも、すべてが癒えていくようだった。私が焦凍くんと出逢ったときに一番に嬉しかったのは、彼が家族が離れ離れになる悲しみを知っていることだった。幸せな人生を送っていればきっと一生感じることのなかった喪失感や孤独感を分かち合える、唯一の相手と出逢えたことは、間違いなく私の人生の大きな喜びだった。


 「……行かなきゃ」


 私は今日、政府の資料室から製薬会社とワープの個性にまつわるデータを探らなければならない。泣いてなんかいられないのに。そう思って目元を拭うが、結局、目から零れる涙は止まらなかった。仕方がないから、もう少しここにいようと堤防を一人歩き続ける。人通りの少ない堤防に、緑の匂いをいっぱいに含んだ風が、また優しく吹いてきた。