まだあの子に恋をしている。
 自分のなかの恋心は死んでおらず、まだ胸の奥で揺れる残り火のような熱のように、たしかに存在しているのだと気づいたのは、しのぶと再会して暫く経ったころだった。

・・・
・・


 私は幼馴染である彼女が自分を覚えていてくれたのが嬉しくて、その頃は学校に行くのも前より楽しく感じていたように思う。彼女とは別のクラスだったが、お互いが覚えていることを知ったことをきっかけに、廊下などでよく話すようになっていた。楽しかった。まるで、時間がかつてのあの頃に戻ったような気がした。

 ある日の夕方、委員会が終わってから家路を急ぐべく廊下を歩いていた時だった。季節は秋で、真っ赤な紅葉が校庭をひらひらと舞っていて空は茜色に染まっていた。その時、私はなんとなく窓の外を見た。もしかしたらただ紅葉が綺麗だったからかもしれないし、もう夕方だから早く家に帰らなければと焦って、薄紫色の雲が迫る空を見上げようとしたのかもしれなかった。

 視界に、しのぶが映った。

 彼女は同じクラスの子らしい女生徒と、会話をしながら歩いていた。しのぶはこちらには気づいていない様子で、その子と会話を続けていた。腕にノートを持っていたからしのぶの方も委員会かなにかあったのかもしれない。何の変哲もない姿で、それが他の誰かならば特に気にも留めることもないような光景だった。ただその時、私は自分の胸の奥がずきんと痛むのを感じた。


 (……あれ?)


 なんで、今胸が痛んだんだろう。

 最初は、それが何故なのか分からなかった。
 それは体験したことのない痛みで、しかしどこかで感じたことのあるような、不思議な感覚だった。


 「…?」


 ―私はあの頃、しのぶに恋をしているという自覚が長い間無かった。

 それは小さい頃に彼女と出逢ってから、自分の持っている感情が恋であると気づく機会にも恵まれていなかったからかもしれない。自分はしのぶが好きなのだと知ったとき、彼女は既に蟲柱として多くのものを背負って戦っていた。私もまた、明日も分からないような鬼殺隊の一員として生きている中で、自分の気持ちを彼女に告白するなんてことは考えられないことだった。


 「しのぶ……」


 死ぬ直前、震える唇でしのぶの名を呼んだことを思い出す。夏の草の、匂い立つような濃い緑の匂いが甦る。


 「……」


 私はまだ、あの子のことが好きななのだ。


 廊下に満ちるひんやりと冷たい空気は、冬がすぐ近くまできていることを思い出させた。はぁと吐き出した息は、誰にも知られないほどの小ささで、ただ窓を少しばかり曇らせ、私がそこにいたという痕跡を残した。


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