115




 自由の身となった私は、鏡(ミラー)をカードに戻し、矢(アロー)で前方にいる緑谷くんと瀬呂くんに向かって攻撃をしたが、鏡(ミラー)を追ってやって来た焦凍くんの氷の壁で塞がれてしまった。
 だが、攻撃し続ければ必ず氷は壊れるものだ。と私は攻撃をし続けた。矢(アロー)が攻撃し続けている隙に、私は一番厄介である響香ちゃんを探す事にした。
 居場所さえ見つかれば、戦闘力はほとんどない彼女を捕まえる事は簡単である。

 何か、一発で響香ちゃんを見つけるようなものはないか。と頭を唸らせる。何か、何か……と、視線を彷徨わせていると、響香ちゃんの個性の弱点になるかもしれない方法を思いついた。

 一か八か。と私はカードを取り出し呪文を唱えた。

「声よ。不快な声を響かせよ」

 そう言うや否や、声(ボイス)は金切り音を発する。それは私にとっても不快な声で、耳が良い響香ちゃんは今頃耳を塞いでも聞こえる金切り声に、苦戦している筈だ。と何か異変はないかと注意深く周囲に目を凝らした。
 後ろにもいないかどうか確認する為に振り返ると、一瞬だけ何かが動いた。

 ビンゴ! 響香ちゃんに違いない!

 私はもう一枚のカードを取り出した。

「影よ、見えぬ鎖となれ!」

 カードから飛び出した影は一直線に物陰に潜む何かに向かって行く。影(シャドー)は影の中でしか行動できないが、此処は工場地帯で影は沢山ある。あの校長がデザインされている牢まで行く事も容易いだろう。響香ちゃんの攻撃は地面を裂く程の攻撃力があるが、影(シャドー)相手にそれは通じない。だって影は地面と違って割れる事などないのだから。

 案の上、響香ちゃんの悲鳴が聞こえた。その悲鳴は徐々に遠くなっていく。その声に反応した緑谷くんが響香ちゃんを助けようと壊れかけの氷の壁から飛び出してくる。
 正直焦凍くんじゃなくてよかった。と安堵の息を吐くも、緑谷くんの攻撃力はクラス内で一番高い。風圧だけで物を吹き飛ばせる威力があるのだから、動きを止めるに越した事はない。

 緑谷くんに何が有効なのか。と考えていると、何か大きな音が辺りに響き渡る。轟音とも呼べるその音は酷く近い所から聞こえ、何事かと目線を上に持っていくと、太いパイプが落ちてくるところだった。

「跳(ジャンプ)!」

 咄嗟に跳んで避けたものの、落ちてくるものは今のだけではないようで、沢山の管が私を取り囲むように落ちてくる。これを一つ一つ避ける事は至難の業だと、私は盾(シールド)のカードを取り出した。
 何がしたいのかはまだわからないが、変に動いて怪我をするよりずっといい。と盾(シールド)を展開し、頭上に落ちてくるパイプを眺めていると、あっという間に視界は暗闇に染まった。

 簡易的に囲まれ逃げ場がなくなってしまったが、一体これでどうするつもりなのか。と緑谷くんたちの考えを推測しようにも全く思い浮かばない。

 が、ここで私が抜(スルー)のカードを使って、脱出しようものなら、緑谷くん、瀬呂くん、焦凍くんの誰かと対峙する事になるだろう。そうなれば、一対三で私が圧倒的不利になる。
 消(イレイズ)を使っても同じだ。消えた瞬間袋叩きに合う事は間違いない。

 どうしたらいい? どうしたらこの状況を突破出来るの?

 一か八か、やってみよう。このまま黙っていたらタイムアップがきてしまうんだから、それだったら動いてみた方がいい!

「消(イレイズ)!」

 パイプ出できたドームを3秒で消せば、視界が開ける。急に明るくなった視界に、一瞬目を細めた瞬間。瀬呂くんと緑谷くんと焦凍くんが走ってくるところが見えた。
 魔法の杖を剣(ソード)に変え、瀬呂くんの個性であるセロハンテープに備えると、機動力がずば抜けている緑谷くんが私に拳を振るった。
 紙一重でそれを避けると、瀬呂くんテープが私の身体を拘束しようと飛び出してくる。それを剣(ソード)で切り捨てると、焦凍くんの炎が私の背中に向かって放った。
 死に物狂いで炎を避ける。魔法はなるべく使わない。というか、序盤で四大元素カードを使いすぎた所為で、今、私の魔力はジリ貧状態だ。
 これ以上使えば、寝てしまう。試合中だろうが寝てしまう……!!
 それだけは避けないといけない!

 3方向から飛んでくる攻撃を紙一重で躱し続けていたが、視界の端に黒い何かが見えたと思った途端。私の身体はコンクリートに向かって飛んで行った。
 脇腹に強烈な痛み。気が付いた時には、私は地面に叩きつけられるように落ちて、肩や足に肘や膝をぶつけながら転がっていた。
 その拍子に何処か擦り剥いたのか、鈍い痛みが身体に走る。ポケットに入っていたカードたちが数枚散らばってしまっている。

 地面にぽたり、と赤い雫が落ちた。

 上半身を起こして顔を上げると、困惑した表情の緑谷くんが黒い何か細いものを纏ったまま私を見ている。
 きっと彼にとっても、予想外の出来事だったのだとすぐに分かった。

「柚華さ……」

 焦凍くんが私の名前を呼んだ気がした。でも、その声に反応するわけにはいかない。だって私は、この試合に、勝負に勝たなければならない。

 剣(ソード)から杖に戻ってしまった。その杖を私は緑谷くんに向けた。
 静かすぎる静寂。全ての音が遠ざかり、誰かが踏んだ小石が地面と擦れる音が耳に入る。

「撃(ショット)」

 刹那、緑谷くんはお腹が何かに当たったかのように、身体をくの字に曲げながら、後方に飛んでいった。
 1番の攻撃力を遠ざけた私は、焦凍くんと瀬呂くんに背中を向けて、ここから逃げようと立ち上がろうとするも、痛む足が縺れ、重心が前のめりになる。

「今しかねぇ! たたみかけろ!」
「あぁ!」

 焦凍くんの氷が薄く地面に膜を張り、私の足を絡めとる。その瞬間、瀬呂くんのテープが私の身体に巻き付き、私の意思とは反対方向に向かって動き出す。
 瀬呂くんに追いついた焦凍くんが、テープに触れて凍らせる。

「見えた!」
「あと一息だ!」

 ガクガクと揺れる視界には、校長のイラストが描かれた牢がある。
 タイムアップの知らせはまだ来ていない。

 このまま牢に放られれば私の負けだ。だったら……!

「迷(メイズ)」

 牢と私たちの間に聳え立つ、高い高い壁。地面から生えたその壁は出口の無い迷路。

「なんだよコレ!」
「立体……迷路か?」

 戸惑い立ち止まる2人を後目に私は目を閉じた。正直眠たいが、焦凍くんの氷が触れる肌に冷たくて、ぐっすり眠る事はなさそうだ。

「2人共大丈夫?!」

 遠くで緑谷くんの声が聞こえる。どうか何も考えずに、歩いてきて。と願った刹那、破壊音が聞こえた。それと同時に終了のブザーが鳴り、私は瀬呂くんのテープに巻かれたまま、意識を失った。
 最後に誰かが私の名前を呼んだ気がしたけど、それが誰の声だったのかは分からなかった。
 
- 116 -
(Top)