アーコレード

 紙袋を抱えたままシミュレーションルームAの扉を開ければ、手首に装着している通信装置が電子音を短く鳴らした。手首を胸元まで上げれば緑色のダ・ヴィンチが浮かび上がり、お得意のウィンクをしてみせた。

「これで役者は出揃ったね。早速で悪いが、一方的に聖杯戦線のルールを説明しよう。と言っても、至って簡単だ。相手のマスターを撃破すればいい。勿論本当に殺してはいけないよ。どちらが死んでも人理修復が出来なくなってしまうからね」

 確かにその通りだ。特に立香がいなくなると人理修復、人類の未来なんて夢のまた夢の話になってしまう。流石に殺すなんて事態にはならないとは思うけど、お互いに用心しておいた方が良い。サーヴァント同士の戦いというのは苛烈で豪快なのだから。

「舞台はとある古城をモチーフにしている。そこでランダムに転送された英霊たちが戦うってわけだ。指示はどうするのかって? マスターには端末が与えられる。味方のサーヴァントが今何処にいるのか常に把握出来るようになっていてるから安心してくれたまえ。基本的には戦場の指揮を執るのが役割だね。マスターはカルデア戦闘服に着替えてくれたまえ」

 ということは恐らくスタート地点は相手のサーヴァントからもっとも遠い所に配置されるのだろう。ランダムに転送されるのはサーヴァントたちだけなのだから。となれば、私と藤丸の位置は正反対ということだろう。
 城の平面図が手元にない今、頭の中でおおよその位置を想定するしかないが、千尋にとって一つ痛手があった。
 サーヴァントとは最初から合流して行動するものだと思っていた為、持参したものを活かすタイミングが随分と後半になってしまう可能性が出て来た。藤丸がどのサーヴァントを呼んだにしろ、この装置ありきで作戦を立てていた千尋にとって、ダ・ヴィンチの言うルールは想定外だったのだ。

「では開始一分前。──諸君、健闘を」

 ──瞬きをすればそこは、洋風の古城の中だった。
 右手の甲に描かれた令呪はきちんと三画揃っていて、もう片方にはスマートフォン大の端末が握られている。画面を見れば古城の平面図と共に点滅する点が一つ。足元には紙袋が転がっている。
 今千尋がいる方角は北側だ。ということは藤丸は南側にいると推測出来る。何処に敵サーヴァントがいるかはわからないが、まず取らねばならない手段がある。
 数年ぶりと言っても過言ではない念話をした瞬間、千尋は髪一本分の意識が遠い記憶に引っ張られた。

「“村正、今何処にいる?”」
「“ようマスター。儂は──こりゃ北西の一階廊下だな”」
「“わかった。私は真北の三回の部屋の中よ取り敢えず合流しましょう。こっちに来て”」
「“了解”」

 千尋は端末をポケットにしまうと、紙袋から一つの人形を取り出して魔力を注ぎこんで起動させると、掌程度の大きさが徐々に大きくなり千尋の身長を有に越えて、成人男性くらいの大きさになるった。肉体は持っているのにはっきりとその姿を見ることが出来ない。輪郭が揺れ靄が掛かっているのだ。

「出来た即席シャドーサーヴァント。霊基は全部村正のだけれど、なんとかなるでしょう」

 ポケットから取り出した端末の画面には二つの点滅が見える。ちゃんとシャドーサーヴァントも、サーヴァントとして認識されている。これで少しは有利に立つことが出来ると良いんだけど。そんな淡い期待を抱きながら三つの人形を作り上げていれば「待たせたな」と耳に馴染む村正の声が聞こえた。

「随分と早いじゃない。敵サーヴァントは見かけた?」
「マシュを見つけたが、あの嬢ちゃん儂とは反対方向に走って行ってたぞ」
「唯一のシールダーだからね。マシュは是が非でも立香と合流したいと思うわ。何とか阻止したいけど難しいでしょうね」
「だろうな。で、作戦はなんだ? 儂以外のサーヴァントは何処にいる」

 椅子が設置されているだけの簡素な部屋の中には千尋の他に四体のシャドーサーヴァントしかいない。村正は自分以外のサーヴァントが勿論いるんだろうという体で千尋に話しかければ、瞬きを何度か繰り返した千尋は小首を傾げながら「いないけど」と平然と言ってのけた。

「は?」
「私のサーヴァントは村正だけでしょう? 他にサーヴァントは召喚していないし」
「いやいやいやいや……カルデアに召喚されたサーヴァントだったら誰を選んでもよかったんだろ?! なんで選びやがらねぇ!」
「カルデアに召喚された英霊は立香が繋いできた縁でやって来てくれたのよ? 私が気安く使って良いわけじゃないでしょ。その点、村正は私が召喚した正式なサーヴァントでしょ。違う?」

 蠱惑的な笑みを浮かべている千尋は何を考えているのか村正にはわからなかったが、昔から単純故にわからない思考をしているのだ。今更何を言ったって手遅れなのだから好きにさせてやるか。そんな心持で溜息を吐きながら後頭部を掻いた。

「違くはねぇがなんだその理屈は……たく、勝てる勝負も勝てねぇぞ。敵さんはきっかり上限の数だけサーヴァントを選んだはずだ」
「でしょうね」
「勝つ気はねえんだな?」
「ない、とはっきりとは言えないけど、隙があるなら迷わず勝ちを取りに行くわ。手優しく譲ったりなんてしてあげない」
「了解」

 どこからか取り出した一本の刀を手に取った村正は、それを千尋に手渡した。金色の鍔に描かれた模様は梅の花をあしらっているその刀は、カルデアに召喚された村正が千尋の為に打った刀であり、戦闘となった時に千尋が愛用している一刀だ。
 女が持つにしては重さのある刀を受け取った千尋はそれを腰に差し、五つに点滅している点を確認したあと、村正に向き直って勝気に笑った。

「作戦って程じゃないけど、シャドウサーヴァントを放って敵の撹乱、動揺しているところを村正が各個撃破。二人以上で行動しているサーヴァントがいれば離脱してきて構わない」
「マスターはその間指揮でもすんのか? このシャドウサーヴァントって奴、指示をこなせるくらい知能があるようには見えねえが」
「大丈夫よ。あと、そのシャドウサーヴァント、時間がなくて全部村正の霊基をコピーしているから、基本スキルや宝具……が撃てるのかはわからないけど、成るべく村正は相手に姿を見せないでね。本物と区別がつかないようにしたいから」
「セイバーの儂にアサシンみたいな役割をしろと? ったく、このマスターはトンチキな考えをしやがる」

 村正のスキルを考えれば直接戦場に立たせた方が良いに決まっている。刀剣審美のスキルは武器を見るだけで戦い方の正解を導き出すことが出来る。あまつさえ村正のスキルレベルだと敵の弱点まで見抜くことが出来るのだから。でも、千尋の作ったシャドウサヴァントだって丸まんまコピーしたのだから負けてはいない。筈だ。
 実践に立たせたこともないし、試作品故に何かしらの故障があるかもしれないが、使えないことはないだろう。村正を出すのはその後で良い。
 それまではアサシンの真似をしてもらえれば十分だ。仕事を任せれば村正が納得するレベルのクオリティでこなしてくれる。アサシンの真似事だって確実に熟してくれるだろう。

「任せたよ。村正」
「おう。んじゃあ、取り敢えずこの戦場を荒らしに行くとしますか」
「あ、それと、そのシャドウサーヴァント、魔力切れを起こしたら自爆する魔術かけてるから気を付けてね」
「そう言うことはもっと早く言え! この馬鹿!」

 ——村正がシャドーサーヴァントを連れて出て行ってから四半刻が過ぎた。
 時折入って来る報告では、シャドウサーヴァントは撹乱の役割をきちんと果たしているようで、既に藤丸陣営のサーヴァントを一騎撃破したらしい。こちらも一体のシャドウサーヴァントがやられたから、トントンよりもこっちの儲けだ。
 今頃立香はサーヴァントたちからの報告を受けて、慌てふためいているのだろうとまだ幼さの残る顔立ちをしている少年を思い起こしている千尋の予想通り、藤丸陣営は混乱を極めていた。

「“シャドウサーヴァントに見つかりました! 千子村正と思われます!”」
「なんで?! これで報告受けるの三度目だけど、一体何体いるんだ?!」
「わかりませんが、シャドウサーヴァントであれば倒してしまった方がいいのでは……」

 次から次へと入って来る情報に藤丸が頭を抱え、マシュがその隣で情報の処理の手伝いをしていると、古城に響く爆発音が聞こえると同時に床が揺れた。

「なにっ?! 爆発?!」
「マスター! 大丈夫ですか?」
「ありがとうマシュ。それよりも今の爆発は一体……」

 咄嗟に辺りを見回して異常がないことを確認したのも束の間、シャドウサーヴァントが自爆したという報告を受け、藤丸は更に頭を抱えた。
 次々に見つかるシャドウサーヴァントに対し、村正の姿をまだ誰も見ていない。三つの点が至る所で点滅しているが、どれも中央より先に進めている気配がない。

「……マシュ、交戦中のサーヴァントとの援護に行ってくれ」
「ですが、それだとマスターが一人になってしまいます」
「確かに中央より先には進めていないけど、逆を言えば、敵も中央を突破出来ていないってことだ。恐らくだけど、千尋さん、村正しか選んでないんじゃないかな。だとしたらサーヴァントは一体だけってことだ。三体のシャドウサーヴァントに村正なら、まだ俺たちの方が戦力は上だと思うから、マシュを投入して守りを固めたい」

 藤丸の考えを聞いたマシュは一度頷き、円卓の盾を握り締め藤丸に向き合った。

「了解しましたマスター。お気を付けて!」
「任せたよマシュ!」

 マシュがシャドウサーヴァントと交戦中の味方陣営と合流する頃、斎藤は一人、二本の打刀を持ってゆっくりと歩いていた。
 ゆらりゆらりと蜃気楼の足取りで。先にいる背を向けている人の形をした影が、ぴくりと反応し斎藤に向き合えば一本の刀を振り上げる。

「……これで三体目。さてさて、うちの子は何体の影を用意してるんだか」

 シャドウサーヴァントの戦力なんてものは、現界しているサーヴァントに比べれば半分以下だ。ならば何故ここまで苦戦を強いられているかといえば、この影たちの霊基が村正のものだから他ならない。
 刀剣審美さえなければ、もっとはやく千尋の元に藤丸陣営のサーヴァントが到着したのだ。

 これを撃ち破るのは並大抵ではない。単純に、シンプルにくぐってきた死線がものを言うのだ。

「これはマスターちゃんに褒美を貰ってもいい働きなんじゃないの」

 藤丸が選んだサーヴァントの中では、斎藤に勝る戦闘数を誇るサーヴァントはいない。故に斎藤は単独で三体の黒い蜃気楼を倒すことが出来たのだ。
 経験が導き出す答えに従うまま刀を振るう。それは最早本能と呼ぶに相応しい域に達している。
 ──心眼。それがこの戦いにおいて村正の影を落とす唯一の対抗策。

 出会い頭に突破され、消滅した点を見た千尋は大きな溜め息を吐くと、クツクツと喉の奥を震わせた。

「やっぱり、シャドウサーヴァント一体じゃ、英霊相手には少し頼りなかったかぁ」

 ふむ。さて、どう動こうか。

「“村正、中央が突破されたよ。多分少なくとも一騎がやって来ると思う”」
「“どうする? 儂が戻るか? 一応敵さん、二体は倒してるが……”」
「“勿体ないよ。村正はそこでシャドウサーヴァントと共に敵陣営を各個撃破するように。私は残っているシャドウサーヴァントで迎え撃つ”」

 端末で状況を確認すれば、こっちの陣営は村正含め三体。藤丸の陣営も同じ数だけ残っているが、建物の中央で三体の動きが停滞しているから戦闘中なのだろう。折角二騎の英霊を足止めしてくれているのだから、この数の有利を捨てるわけにはいかない。

「“了解。あんまり無理すんなよ。何かあったら令呪を使って呼んでくれ”」
「“わかった。ありがとう”」

 さて、どの武人が来るのだろうか。村正の報告ではヘラクレスを見つけたって言っていたけど、その狂戦士が知能を使ってこの部屋に辿り着くとは思えない。此処はチェスで言うところのルークの形をしている建物の屋上だ。此処より高い建物はなく、目の前には古城の本館である屋根の背が遠くまで続いている。戦況を俯瞰するという意味合いでこの場所にマスターを転送させたのなら、ダ・ヴィンチなりのヒントなのだろう。
 マスターの役割は戦場に出ることではなく、俯瞰し、客観的に状況を見て判断することにある。それはどのマスターにも言えることだ。

 千尋が新たに三体の陰に生命力である魔力を注ぎ込み終われば、誰かが昇ってくる足音が聞こえた。酷くゆっくりとした足取りは疲れを感じさせるが、同時に千尋の足元に不気味さが纏わりつく。身体を休める為にこの塔へ来るのなら、その隙を突いて無力化させるし、そうではないのならシャドウサーヴァントを戦わせる。英霊相手に生身の人間が戦いを挑む方が愚かなのだから。
 でも、もし、この足音があの剣士のものなら千尋は迷うことなく、鞘から刀身を抜く。

 千尋は腰に差している柄を握り、深く息を吐いて心臓の音を鎮める。吐き出す毎に集中力を高め目の前の扉が開くその一瞬を待ち続ける。本館で立て続けに聞こえる爆発音や建物の一部が壊れる音が耳を刺激しても、千尋は眼前の扉から意識を一瞬とも逸らさない。

 足音が扉の向こう側でピタリと止まった。
 花弁が落ちる音すら聞こえる緊張感を破ったのは男の声だった。

「そんなに殺気を剥き出しにしてたら居場所がバレるぜ。千尋ちゃんよぉ!!」
「──ッ! セイバー!」

 木製の扉に鋭い一撃が入る。横真っ二つに割れた扉の向こうから迫る白刃に、千尋は鞘から村正によって鍛え上げられた刀身を抜き出し、甲高くも重たい音を響かせる。風すらも斬りつける鋭い一撃に、千尋の腕が一瞬悲鳴を上げるも、負けじと弾き返し、日光に煌めく波紋を斎藤の脳天目掛けて振り下ろすも、斎藤はいとも容易く千尋の一撃を刀で防いだ。
 目にも留まらない斬撃が二人の間に新しい風を生み出す。白刃が何度もお互いの急所を目がけて迫り、甲高い音が何度も辺りを震わせる。鍔競り合いをしては間合いを取っての繰り返し。責めの姿勢を崩さない二人だったが、一撃一撃が重い斎藤の攻撃に千尋の腕が限界を訴え始めた。
 その隙を斎藤が逃すわけもなく、腰に差しているもう一刀を鞘から抜く。

「もらった!」
「どうかッな!!」

 千尋が痺れる指先で指鳴らしをした刹那、傍観していた村正の影が一斉に斎藤の急所目掛けて刀を振るう。
 目の前の敵マスターを斬るよりも素早い一撃に斎藤は、迫る刃を弾き千尋と距離を取る。千尋を守るように三体のシャドウサーヴァントが斎藤の前に立ち塞がったのを見て、男は確信を覚えた。

「そのシャドウサーヴァント、自爆以外にも仕込んでるんじゃない? 例えば、探索機能、とかさ」
「流石。魔術について詳しかったっけ? それとも偶然?」
「戦人の勘てやつね。何となく違和感を感じてたから。何となく視線が張り付くっていうか、しつこいっていうか。僕が見つけるより先にこっちのこと見つけちゃうしね」
「この子たち、元は人形なんだけど目が石なの。ベルガナって言うルーン魔術があるんだけどね。石に刻めば対象を探索出来るの。だからサーヴァントを見つけることが出来る」

 刀を鞘に納めた千尋は、壁になっている村正の形をしている影越しに斎藤の双眸を見つめる。

「マスターちゃんがどのサーヴァントを選ぶかなんて不確定要素だろ。少なくとも僕以外のメンバーはわからなかったはずだ」
「そうだね。ところで、人間になくて英霊にあるものって何だと思う? 強靭な肉体? 生前の英雄奇譚? 名声、栄誉? ──どれも正解。基盤となるものが違う。私たち人間は君たち英霊に比べたらか弱い生き物よ。だから人間を人間たらしめるある程度の基準からはみ出した全てのものを探すように命令したの」
「なるほどね。確かにそりゃあ、あんたらマスターは除外されるわけだ。で? あんたのサーヴァントが隠れ続けている理由はそれか?」
「そう。敵味方の判別をさせる技量がなかった」

 村正には伝えていないけど、あの人は上手く立ち回ってくれるから大丈夫だろう。小まめに生存確認代わりの状況報告を受けているし。
 肩の力を抜いた千尋は斎藤に背を向けて本館の屋根に飛び乗ると、瞬きよりも早く刃物が切り結ぶ音が耳を劈く。

「千尋ちゃーん! 敵前逃亡は切腹って教えなかったっけ?」
「三十六計逃げるに如かずって諺があるでしょ。それに私新選組は大好きだけど、新選組の隊士じゃないしね」

 言い終わるや否や千尋は足を強化させて真っ直ぐに屋根を走り抜ける。ポケットから取り出した端末に点滅する三つの点が建物の真ん中から移動していないことを確認した千尋が、藤丸がいるであろう塔に飛び乗ったその勢いのまま扉を切り倒せば、耳に手を当て誰かと通信している藤丸が一人。青い目が真っ直ぐに千尋を見つめて大きく開く。

「何で、千尋さんが、此処に……!」
「あら? マスターが動いちゃダメなんてルールはなかったわよ」
「他のサーヴァントたちは?!」
「貴方の敗因はマシュを切り離したことと、入って来る情報を上手く捌けなったことね」

 綺麗な文様を描いている刀身が窓から差し込む日の光を受けて白く輝いている。千尋が刀を構えれば、連続した爆発音と共に耳の内側に村正の声が響いた。

「“やることはやったぜ。後は任せたぞ。マスター”」
「“ありがとう村正。最高の働きをしてくれて”」

 仮に村正が残り二騎のサーヴァントを取り逃したとしても、この塔に来るまでに最低でも三十秒。その時間さえあれば、この非力なマスターを倒すことが出来る。

 千尋は勝利を確信した。

 上段に構えた刀を振り下ろすその瞬間。口元が塞がれ目に反射した太陽の光が当たる。少しでも動けば首が斬れる、そんな緊張感が刹那の間で室内を支配した。
 背中に感じる熱は間違いなく知っているのに、向けられる殺気に千尋の背中は冷えて行くばかり。

「──此処までだ」
「…………よく、まぁこの短時間で、しかも気配もなく。クラス、アサシンの間違いじゃない?」
「あんたら人間に負けるほど、この身体柔な作りをしてないもんで」
「そっか」

 千尋は振り上げた両腕を下ろして、武力が形になった刀を鞘に納めると再び両手を胸の高さまで上げた。
 誰がどう見たって降参の合図に他ならない。

 ──聖杯戦線終了の鐘の音が響き渡った。

 

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