きみの影踏み
※長編夢主
ある日私は夢を見た。その夢はいつも見ていた夢ではなくって今まで見たこともない夢だった。
1人の少女が空から落ちてくる。そんな夢だった。
きっとこれは予知夢なんだろう。いつか夢で見た事が現実として起こる。それだけを気に止めておいて私は毎日を慌ただしく過ごしていた。
そんなある時の事それは現実になった。
「ほえぇぇぇぇ!」
「ほえ?」
「は?」
私達が自宅の道場に隣接してる中庭で訓練をしている時に何処からか悲鳴が聞こえ、きょろきょろと周りを見渡すが何もなく首を傾げていると、焦凍くんが上を向いてそのまま指を指した。私も上を見ると、女の子が垂直に私達のところに落ちてきていた。
「えっ、え?」
「名前さんスポンジ的なカードないのか?!」
「ないよ!」
取り敢えず水(ウォーティー)と風(ウィンディー)で受け止めるしかないと呪文を唱えて鍵を杖に戻すとそれより早く、空から落ちている少女が先に行動に移した。
「飛(フライ)!」
「は?」
「え?」
その言葉どっかって聞いた事がある。と言うかそれ私と同じ呪文だよね?そう思ったのは私だけではないようで、焦凍くんは、偽物か?と翼を背中に生やした少女を睨んでいた。
そして少女は私達がいる中庭に降り立った。力が抜けたのか、腰が抜けたのかわからないがへたりと崩れ落ちて深いため息を吐いていた。
「あの、あなたは?」
「ほえ?あ!わ、私、木之本桜!…って言います」
「お前なんで名前さんと同じもんが使えるんだ?」
焦凍くんがそう聞くと桜ちゃんは小さく悲鳴を漏らして少しだけ泣きそうな顔をした為、慌てて話題を逸らした。
焦凍くん…そんなんじゃ怖がっちゃうよ。
「私ね佐倉名前って言うの。私達苗字と名前が同じだね」
そう言うと少しだけ笑った桜ちゃんの鞄の中から寝起きのようなふやけた声がした。
「なんや桜、もう着いたんか?」
「け、ケロちゃん!」
鞄からは黄色の体で白い小さな翼が付いているまるでぬいぐるみの様なぶったいが、桜ちゃんが抑えた鞄の隙間からひゅるりと出て来た。
そして私達の姿をそのつぶらな瞳に移すと電池が切れた玩具のようにぴたっと動かなくなった。
「えっと、ケロちゃんって何かな?」
「えっ、と!その、…自動で動くロボット、です」
「嘘はあんまりよくねえぞ」
焦凍くんがそう言うと桜ちゃんはまた深く大きな溜息を吐いた。それを見てケロちゃんと呼ばれたぬいぐるみはその小さな翼で自身の体を浮かして流暢な関西弁で話し始めた。
「バレたら仕方ないなぁ、それにワイも気になっとったしなぁ、この姉ちゃんのごっつい魔力」
ぬいぐるみはその可愛らしい手を可愛らしい頭の顎に当ててぷよぷよと空を漂いながら私の周りをぐるっと回った。
「それにこの気配…クロウのカードのもんや」
「え?!クロウさんのカードは全部回収したんじゃないの?」
「いや、桜の持ってるカードはあれで全部や。つまりこの姉ちゃんもクロウのカードを持ってるっちゅうことや!」
「ほえぇ!」
ぬいぐるみは勢いよくその可愛らしい手を私に向けて指した。私はどうすることも出来ずに焦凍くんの方に顔を向けると、焦凍くんは怪訝そうに黄色の動くぬいぐるみを見ていた。
兎に角いつまでも中庭にいるわけには行かないので、今に案内して飲み物とお茶請けを出すと、桜ちゃんはとても可愛らしい笑顔でお礼を言ってくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お口に合えばいいんだけど」
ソファに座る焦凍くんの隣に座ると焦凍くんが桜ちゃんに話しかけた。今度はあまり怖がらせないように言葉を選びながら。
「それで、お前達は一体どこから来たんだ?もしかして名前さんと同じところから来たのか?」
「えっと、私達は知世ちゃ、友達にお願いされてビデオ撮影をしてたんです。そしたら急に地面に穴が空いてそのまま落ちゃって、そしたらお空を落ちてたんです」
えっと、つまり何らかの要因でこの世界に来てしまった。という事だろう。
それって…。
「私と同じだね」
「っ!佐倉さんはどのくらいここにいるんですか?!私ちゃんと帰れますか?」
「下の名前でいいよ。私はここに来てもう数ヶ月は経ってるかな。いつ帰れるかは私にはわかんないや。ごめんね」
そう言うと桜ちゃんは、そんなぁ。と言いながら肩を落とした。そんな彼女に構う事なく焦凍くんは質問を重ねた。
「魔力がどうとか言ってたがあんた達も使えるのか?クロウがどうとか言ってたが」
「…私、訳あってクロウさんのカードを集めてたんです」
「せや!カードキャプターさくらや!そんでワイはカードが入っとった本の守護獣ケロベロスや!」
ケロベロスって確かクロウさんが言ってたもう一つのカード達を守っている太陽属性の守護獣だよね?
「なんか、想像と違った」
「なんやと!」
「ケロベロスって前に名前さんが言ってたヤツだよな」
「そうだよ、あともう一人月(ユエ)っていう名前の審判者がいるよ」
私がそう言うと桜ちゃんは目を輝かせて興奮気味に前のめりに体を出した。
キラキラと輝く翡翠の瞳に目を奪われ、逸らせなくなる。
「それって名前さんもカード集めしてるんですか?」
「私は夢の中でクロウさんに貰ったの」
「…夢の中で」
「そんなんなんも聞いてへんけど、この気配は確かにクロウのもんや。この姉ちゃんの言ってる事も本当なんやろうな」
手を振り違うと答えると桜ちゃんは少しだけ考え込んでしまった。どうしたものかと苦笑いしていると、隣に座っていた焦凍くんが立ち上がり部屋を出て行こうと歩き出した。多分訓練に戻るんだろう。
「戻るの?お昼はどうするの?」
「食う」
「わかった、あんまり無理しないでね」
焦凍くんはそれだけ言うと今から出ていってしまった。
横から視線を感じて振り返ると、ケロベロスと桜ちゃんが私を見ていた。桜ちゃんは先程みたいに翡翠の大きな目を輝かせてこちらを見ていたが、ケロベロスは揶揄するような表情で私を見ていた。
どうしたのかと首を傾げると桜ちゃんが、少し恥ずかしそうに顔を赤くしながら話しかけてくれた。
「あの、お2人はお付き合いしてるんですか?」
「えっと、付き合ってないよ」
「そう、なんですか?」
不思議そうに私を見る桜ちゃんにケロベロスが小さな手足をばたつかせて怒り出した。
「なんやなんや!あたあの小僧のことかいな!」
「そんなんじゃないよ、小狼くんへの気持ちはもう分かってるもん」
なんだろう。この可愛い子は。
小狼くんと言っただけで顔を真っ赤にさせて照れてる桜ちゃんにほっこりしていると、お腹を空かせた音が遠慮なく響いた。その音にびっくりしていると急に桜ちゃんがケロちゃん!と大声を出した。
「すまん桜、けど腹減ってもうて」
「もー!お菓子とか持ってないのに…」
「時間も時間だからお昼ご飯作ろうか。何がいいかな?」
そう聞くと桜ちゃんは勢いよく手を挙げて立ち上がった。
「私お手伝いします!」
「ありがとう。そしたら桜ちゃんが得意なもの作ろうか」
「えっと、ホットケーキが得意です」
なんとも可愛い得意料理に思わず顔が緩くなる。お昼という事もあり、お食事系のパンケーキを作ることになった。
台所は桜ちゃんの身長には高いので創(クリエイ)で台を作り一緒に作業をする事にした。
桜ちゃんとの作業がとても楽しくて、妹がいたらこんな感じなんだろうかと出来上がった料理を食卓に並べながらそんな事を考えていると、ケロベロスが食卓に横たわって何度もお腹の音を鳴らしていた。
「えっと、大丈夫?」
「もうあかん。腹と背中がくっつきそうや」
シワシワになった顔で私を見るケロベロスに苦笑いしていると、フライパンを持った桜ちゃんがケロベロスに向かって大きな声で怒鳴った。
「ケロちゃんも手伝って!」
「無理や…、一歩も動けん」
もー!も桜ちゃんがため息を吐いたので、大丈夫だよ。と宥めると謝られてしまった。
しっかりしたよく出来た子だ。
パンケーキが食卓に並んだので焦凍くんを呼びに行こうと桜ちゃんに声をかけると、食卓に横たわっているケロベロスを抱きかかえて私の目の前に立った。
「あの、一緒に行ってもいいですか?」
おずおずと私を見上げる桜ちゃんの頭に手を置いて撫でると嬉しそうに笑ってくれた。
「いいよ、行こうか」
道場の扉の前に立ち焦凍くんに声をかけると微かながらに声が聞こえたので扉を開けると、中庭で焦凍くんが巨大な氷を出していた。
「お昼ご飯が出来たよ」
「ん。今行く」
焦凍くんは氷に左手を当てて炎を出して自身が出した氷を溶かしていった。体育祭後炎司さんと左の炎の訓練をやっている事は知っているが、氷の方も疎かにしないようにするなんて流石だな。と感心してると後ろに立っていた桜ちゃんがとても驚いた顔をしていた。
「あの人も魔法使えるんですか?」
「使えないよ。あれはね…」
「個性だ。説明は面倒だから省くが、名前さん達みたいな魔法ではない」
「そうなんですか」
さぁ、ご飯を食べようか。そう言うと焦凍くんを筆頭に歩き出した。ちらちらと桜ちゃんが焦凍くんを見ていて、それに気が付いている焦凍くんが気まずそうに、桜ちゃんを見ないようにしていて思わず笑ってしまった。
食事も終わり食器洗いも桜ちゃんが手伝ってくれた。焦凍くんがまた訓練をするというのでその様子を一緒に見に行くことになった。
「お庭凄く広いんですね」
「そうだよねー」
縁側に並んで座って話していると桜ちゃんが話ずらそうに、だけどしっかりとした音で途切れ途切れに話し出した。
「あの、私好きな人がいるんです。その人から告白もされて後は返事をするだけなんですけど…」
「勇気が出ない?」
静かに首を横に振った桜ちゃんは少しだけ眉を下げた。
「その人香港に帰っちゃうんです。友達としていなくなるのが寂しいのか、好きな人だから寂しいのかわかんなくて」
「…好きっていろんな種類があるもんね。友達、家族、一番好きな人。じっくり良く考えて?その人、小狼くんの事が大切で大事ならじっくり時間をかけて」
そうしたら自ずと答えは出てくる筈だよ。
そう伝えると桜ちゃんは一瞬だけ驚いた顔をしたがすぐに笑って、ちらりと焦凍くんを見て私の耳に顔を寄せた。
「名前さんも大切で大事な人がいるんですか?」
「…うん。いるよ。私にとっての“小狼くん”だったらいいのになって人がね。けどねいつか私は帰るから、伝えたいけど伝えられないかな」
そう言うと桜ちゃんは顔を曇らせてしまった。しんみりさせてしまった事にどうしようかと頭を悩ましていると、
「桜!なんやその光は!」
ケロベロスの声に反応して桜ちゃんを見ると淡い光に桜ちゃんが包まれていた。
「時間なのかもね」
「名前さん!絶対に大丈夫です!ってクロウさんが無敵の呪文を教えてくれたんです。だから名前さんも絶対に大丈夫なんです!」
桜ちゃんが必死に私に伝えてくれた言葉は、私が前にクロウさんに言われた言葉でもあった。こんな形で違う人から言われると思っていなかった。
「ありがとう」
私の言葉は桜ちゃんに届いたのだろうか。
彼女を包んでいた淡い光はケロベロスと共に光、そして一瞬強い光を放ち消えていった。
「行ったのか?」
「うん。あっという間だったね」
さよなら、私と同じ存在。私と同じ魂を持つ少女。