始まりません終わるまでは

※長編夢主
※轟と付き合ってる設定




私の焦凍くんへの葛藤をなんやかんやで乗り越え、私達は付き合うことが出来た。私がすぐにでも返事をしていたらもっと早くこんなにも満たされた気持ちになったのだろうか。否、あの時の葛藤があったからこそ今があるのだと、雄英の敷地内に建てられた寮の広間にあるテレビを見ながらそんな事を思ってると、目の前のソファに座ってるお茶子ちゃんが、あれ?と首を傾げて声を出した。

「轟くんどっか出かけるの?」
「あぁ」

轟くんという言葉に反応して後ろを振り返ると、私服に身を包んだ焦凍くんが立っていた。何処に行くのだろうかと声をかけるより前に何処に行くのか教えてくれた。

「少し買い物をしてくる。夕飯前には戻る予定だ」
「…わかった、作って待ってる」

いってらっしゃい。行ってくる。そのやり取りをして焦凍くんは玄関へ歩き出して、外に行った。私はまたテレビを見ようと前を向くと、目を丸くさせたお茶子ちゃんがいた。

「夫婦か」
「はい?」
「いやいやいや!今のやりとり完っ全に夫婦やろ!」

熱く息を巻くお茶子ちゃんに苦笑いしていると、今度はとても嬉しそうに顔を綻ばせている百ちゃんが通りかかった。

「百ちゃんどこか行くの?」
「はい!中学の頃の友達と会う約束をしてまして」
「そうなんか、楽しんできてね」

色んな人と行ってきます、いってらっしゃい。のやりとりをすると一緒に生活をしているんだと実感できて皆といるんだと嬉しくも感じる。けれども嫌なものまで見えてしまうのが共同生活だ。

最近焦凍くんは百ちゃんといる事が多くなった気がする。大体は焦凍くんが百ちゃんを呼び出して2人で何処かに行く感じだ。それが教室や寮内でも同じで、楽しそうに会話する2人が私の目に入る。

なんの話をしているのだろうか。私には話せないものなのだろうか。

百ちゃんには微笑ながらも笑顔を見せるのに、私にはそんなに見せなくなった。私と話してる時心ここに在らずみたいに、何か違う事を考えているように見える。

私が目の前にいるのに百ちゃんの事を考えているのかな?私のことはもう好きじゃないのかな?やっぱり私への感情は勘違いだったのだろうか。

百ちゃんは優しいし、気も使えてお淑やかに見えるのに意外と行動的で欠点なんて殆どないようないい子だ。そんな彼女を気に入って、友達以上の感情を持つ事は決して悪い事ではない。ただ、それよりも先に私という存在が、言うなれば焦凍くんを惑わしてしまっただけだ。

手放してあげたほうが彼の為になるんだろう。本当に好きな人に思いを伝えられるのだから。

談笑する2人を見て焦凍くんと話し合って、お互いに納得して出会ったあの頃のように戻れるならそれでいい。それがいい。


私は夜、焦凍くんの部屋の前に立ちノックした。もう少しゆっくりでもいいと思ったが、ついさっき連絡アプリでこの前焦凍くんと百ちゃんが一緒に街中を歩いていたと教えてもらったからだ。これは早急に話し合わないといけない。

「はい…っ名前さんどうしたんだ?」
「ゆっくりしてるところすみません。どうしても話したい事がありまして」
「…広間に行くぞ」

焦凍くんは私を部屋には招き入れてくれなかった。寮の来てから1度も入ったことはないが、家にいた頃は何度かお邪魔した事もあったのに。

「人目につくところはちょっと、遠慮したいので出来れば個室がいいんですけど」
「その口調と関係あんのか?」

口調?と首を傾げると眉間に皺を寄せた焦凍くんが、苛立ったように声を出した。

「戻ってるぞ。前みたいに」
「あ…、気づかなかった」

そう言うと焦凍くんはため息を吐きながらも私を部屋に入れてくれた。初めて入ったはずなのに何度か入った部屋かのように思えた。内装とか雰囲気があの家の部屋と似てるからだろう。
でもそんな部屋の中に少しだけ浮いている物があった。桜色の包が文机の上にポンと置いてあって、私はそれから目を逸らすように焦凍くんの顔を見た。

「話ってなんだ」
「あの、焦凍くんはこの生活ってどう思いま…思う?」
「そんな話なら広間でも良かっただろ」

確かにこれだけなら広間でもよかった。だけど私の本題はこれじゃない。

「焦凍くん怒ってる?」
「多少は」
「それは私が訪ねてきたから?」
「…あぁ」
「私の事をもう好きじゃないから?」

はっ?と低く焦凍くんの声が唸った。地を這うような低い声に肩が一瞬跳ね上がり身体が震えた。

それでも伝えなくてはならないと声を絞り出した。

「焦凍くんはきっと私より違う人の方がいいんだよ」
「だからなんだ」
「っ、百ちゃんとかの方がお似合いだと思う」

焦凍くんの顔が見れなくて、見たくなくて俯く。壁に背を当て焦凍くんの言葉を待つと耳元で大きな音が鳴った。
ダンっと壁を殴るかのように鳴った音焦凍くんが勢いよく壁に手をつけたからだとちらりと見て知る。

「俺の事が嫌いになったのか?」

焦凍くんの口から出た言葉は行動に反して弱々しく今にも消えてしまいそうだった。

「…好きだよ」
「だったらなんでだよ」
「焦凍くん、最近私と会ったり話したりする時心ここに在らずって感じだったのに、百ちゃんと話す時は楽しそうだったから…っ」

目頭が熱くなりじんわりと視界がぼやけていく。頬には熱い涙が何度も流れて、私の衣服を濡らしていく。涙を流せば流すほど言葉が詰まり、頭が痛くなっていく。

「街でっ、歩いてる2人見たって教えてくれて…ぁ、私への想いは、さっ、錯覚だったんじゃないか、って、ん、本当は百ちゃんが好きなんじゃないかって…思って…」

みっともなく言葉を並べて泣くことしか出来ない私はなんて醜いのだろうか。最後くらい笑ってお別れしたいのに、彼を手放すのが嫌だと全身が、心がそう訴える。思考が感情に追いつかない。

「最近の事は謝る。けど俺の気持ちは錯覚でも勘違いでもない。名前さんだから感じることが出来るんだ」
「う、嘘だぁ」
「嘘じゃねえよ、なぁ名前さん俺の顔見て」

泣き顔を見られたくなくて首を横に振ると、冷たい体温の焦凍くんの手が私の頬に触れゆっくりと顔を持ち上げられた。

「好きだ。名前さんが好きだ」

何度も告げられる愛の言葉に顔が赤くなるのがわかった。目線を逸らしたくても焦凍くんが牽制して逸らせない。触れる吐息が熱くて頭がくらくらしてくる。

「も、わかったからっ!」
「わかってねえだろ。だから八百万に嫉妬して勝手に不安になってんだろ」

私は百ちゃんに嫉妬をしていたのか。

「2人、で出掛けたのは?」
「出かけたというよりは偶然会ってアドバイスを貰ってたんだよ」
「なんの?」

焦凍くんは文机に置いていた桜色の包を手に持ち私に渡した。中を見ていいか確認してしてから中身を取り出すと、色とりどりのマシュマロが入っていた。

「マシュマロ…」
「ん。あんまり意味合いは良くねえみてえだけど、中にチョコ入ってたら意味が変わるって八百万に聞いて」

照れながら話す焦凍くんにふと、疑問が頭をよぎる。

「なんで急にマシュマロ?」
「身につけるものにしようと思ったんだが戦闘すんのに邪魔かと思って。あと、それ名前さんっぽい」
「私っぽい…」

体型がってことだろうか?そんなにおにくが柔らかいだろうか。鍛えてるはずなんだが。

「名前さんもそれも柔らかいだろ。雰囲気が」
「ありがとう?」

そうか、百ちゃんと話していたのはこの事についてだったのか。勝手に勘違いして焦凍くんに迷惑かけて恥ずかしくて目の前にいるのに合わせる顔がない。

「焦凍くん、ごめんね」
「勘違いさせるような事した俺にも責任はあるからな」

恥ずかしくて顔を挙げられないでいると焦凍くんに名前を呼ばれた。

「なっ、んん」

顔を上げた瞬間に焦凍くんの唇が私の唇と重なった。啄むようにキスをされる中ゆっくり目を閉じて焦凍くんからの愛を受け止める。

「ふぁ…ん、ん」

深くなるキスに呼吸が苦しくなり酸素を取り入れようと口を開けると、焦凍くんの熱い舌が私の中に入って、口内を蹂躙する。

「ぁ、しょっんん…」

焦凍くんの舌が私の歯並びをなぞり、奥に逃げようとした私のそれを焦凍くんの長い舌が逃す訳がなく、絡められていく。
心臓が破裂してしまうんじゃないかと言うくらい激しくなっているのに、それよりも焦凍くんとのキスに頭の中が蕩けて何も考えられなくなる。

「んんっ、…はぁ、はぁ、ぁっ」

やっと離れた唇に寂しさと安堵を感じた。もっとして欲しいけど息が出来なくて苦しい。足に力が入らなくて焦凍くんに寄りかかると、ゆっくりと座らせてくれた。

「気持ちよかった?」
「あ…」

耳元で囁かれる声はいつもと違って艶やかで知らない男の人のようだった。

「顔見りゃわかるな。真っ赤だ」
「あんまり、意地悪しないで」
「可愛いよ、名前さん」

肩を小さく揺らして笑う彼はひと通り笑い終わったのか、私の頬を手を当ててゆっくりと顔を近づけた。

「あんまりその顔他の奴らに見せんなよ。俺が嫉妬に狂う」
「っ!…うん」
「あと、もう部屋に来るなよ。何されるかわかんねえぞ」

食べられてしまう。そう本能が告げた。背筋に冷や汗が流れる。

「今は何もしねえがそのうちな。ほら早く帰れ」
「わ、わかった」

焦凍くんに立たせてもらい、背中を押されながら歩かされる。部屋の扉を開け、本格的に追い出される前に振り返り焦凍くんの目を見つめて私の気持ちを伝えた。

「大好きだよ」
「…っ!」

おやすみなさい。そう言って自分の部屋に戻った。今日は色々あったけど、最悪な結果にならなくてよかったと思いながらベッドに潜った。

焦凍くんが真っ赤な顔でため息を吐いていたなんて私は知る由もなく眠りについた。

「不意打ちだろ、あれは」