もしも佐倉が爆豪くんの所に行っていたら、そのに。

今日も今日とて我々ヒーロー科は訓練に明け暮れる毎日で、たまに怪我をする日だってある。そんな日は決まって勝己くんはバツの悪そうな顔をする。
別に勝己くんが怪我をさせたわけじゃないのに。

「悪い、佐倉腕大丈夫か?」
「気にしなくていいよ。轟くんこそ大丈夫?」
「あぁ」

今日の訓練で轟くんの氷結が腕に掠り、血が出てしまったのだ。轟くんがそれで申しわけなさそうに顔を歪めている。訓練なんだから傷が出来るのなんて当たり前だ。でもそんな当たり前の事でもこの人は許してくれないみたいで私の顔をもの凄く見つめてくる。若干表情が怖くて目線を逸らすと勝己くんが大股で私に詰め寄り腕を取ってどこかに歩き出す。

「あ」
「えっ、轟くん本当に気にしなくていいからね」

引きずられるまま勝己くんの後ろについて行くと彼の部屋に通され、ベッドの上に腰を下ろすと勝己くんは救急箱を取り出して私の腕の傷の手当をしてくれる。哀しそうに顔を眉を寄せて包帯を巻いてくれる勝己くんの頭を撫でると存外彼は大人しくされるがままになってくれた。

「ありがとうね」
「てめぇなんでババァのとこに行かねぇんだよ」
「個性使ってもらう程じゃないし、割とすぐに血も止ったからね」

リカバリーガールの手を煩わせることでもないと言うと、勝己くんは頭を撫でていた私の手を取ってゆっくりと引き寄せ残った手を私の背中に手を回す。勝己くんのあたたかい温もりに安心して勝己くんの肩に頭を乗せると彼が私の頭をゆっくりと愛しむように撫でてくれる。たまに髪を梳いては指に絡める。

「あんま怪我すんじゃねぇよ」
「訓練なんだからしかたないよ」
「んなこたぁわかってんだよ」

勝己くんは一見怖い顔をしていて言動も粗々しく野蛮で取っつき難く見えるが、感性が鋭く物事を深く考えることが出来て尚且つ回転も速く繊細だ。そして以外にも人に触れる事が好きで隙があれば手を繋いだり抱きしめてくれたりする。特に2人きりになるとそれが顕著に表れる。
その瞬間が好きだ。

「優しいね」
「てめぇだけだわ」
「嬉しいけど、他の人にも優しくして欲しいとは思うよ」
「嫌だわ」
「即答だね…」

勝己くんが私の顎を掬ってゆっくりと唇が重なる。角度を変えて何度も重なり徐々に深いものになっていく。

「ん……ッ」
「名前」

キスの合間に呟かれる名前に大きく心臓が跳ねる。勝己くんといるといつも心臓が大きく動いて落ち着かないのに心地いい。矛盾するこの感覚は勝己くんから与えられるものだ。彼以外の人だとこんな感覚には陥らない。だから与えられる度にこの人なんだと、彼が好きなんだと思い知らされる。

「勝己、くん」
「んだよ」

少しだけ顔を離して勝己くんの名前を呼ぶと、彼は照れくさそうに視線を逸らす。
それが可愛く見えて両手で勝己くんの頬を包み、そっと唇を重ねる。

「はっ…」
「好きだよ。私はねいくら傷がついても構わないの。助けいと思う人を助けられたら、貴方を守れたらそれでいいの」
「ふざけんなや」
「だからいいの」

これは私の本心だ。ヒーローを目指している以上、ヒーローを続けていく以上避けて通れない道だ。傷が残るのは嫌だが、誰かを守った、救ったって証になるのなら構わないと思えるのだから。

「俺が、俺がお前も守ってやる」
「勝己くんが?」
「ンだよ、文句あんのか?あ?」
「文句はないよ。ありがとう」

勝己くんの首に腕を回して抱きしめると彼も私の背中と腰に手を回して、2人の距離は0になる。密着した状態ではお互いの息遣いも心音も体温も何もかもが1つになって溶ける。

お互いがお互いを守るなんて子供じみていてなんて陳腐な考え方なのだろうか。理想でしかない。現実的にこの先の事なんて語りあってもどうなるかなんてわからない。でも今の私には理想しか語れない。

「この先の勝己くんの活躍が楽しみだね」
「ぜってぇに高所得納税者になってやる」
「はは、沢山の人を助けるヒーローになるって言えばいいのに」

天邪鬼と言うか、みみっちいと言うかなんと言うか。

「うるせぇ」
「はいはい」
「はい、は1回だろうが」
「そうだね」

これから先の未来なんて私達には想像もできない。だから理想しか語れない。夢しか語れない。ヒーローという職業がいかに辛くとも私達は今抱いている理想に向かって歩けるようにしっかりと前を向いて、歩いていこう。

そして強くなろう。勝己くんを守れるように、心身共に強くなる。それが私の目指すヒーロー像への近道なのだと信じて。