お風呂でばったりする佐倉と轟くん

※寮暮らしに捏造があります。

お風呂や洗濯場は共同スペースになっていて、お風呂は特に時間帯によって男女に分かれており1時間半の時間を挟み交代をしている。その時間の間に掃除を軽く済ませたりしている。日々汗にまみれすぐにでも汗を流したい。そんな心理で大体の生徒は我先にとお風呂場に直行するのだ。

「今日は疲れた…」

ひたすらに筋肉をつける為のトレーニングで体がとても重たい。普段から鍛えてはいるが今日のは格段にきつかった。1人でゆっくり浸かろうと皆と時間をずらしてお風呂に入っていると、脱衣所の方が男子の声で賑やかになって来た。男子の時間はもう終わったはずなのにと首を傾げると扉が開き、動きやすそうな服装をした轟くんが入って来た。なんで入って来たかとか、そんな事を思うよりも先に体が勝手に動き、気が付けば桶で焦凍くんにお風呂のお湯を浴びせていた。

「……ごめんなさい」
「名前さんが謝る必要ねぇ。どう考えても俺が悪いだろ」
「でも何もかけることもなかった、な、と…」

乳白色のお湯に肩まで浸かって体を隠しながら焦凍くんに謝ると、彼は顔ごと私から目を逸らし浴室を出ていこうと背中を私に向ける。しかし、扉の外、脱衣所からは男子の楽しそうな声が聞こえてくる。もしここで焦凍くんが出ていくとなんで濡れているんだと言われかねない。
服を着たままお湯船につかる訳がない。となると私の存在を話さないといけなくなる。浴室で裸の私とばったり会いました。なんて言って欲しくないし知られたくない。

「しょ、焦凍くん!待って!」

小声で焦凍くんを呼び止めるが反響して予想より大きく浴室に響く。焦凍くんは動きをピタリと止めてくれたがこちらには振り返らない。それをいいことに今の状況を口早に焦凍くんに伝える。

「あのね、脱衣所に人がいるんでしょう?焦凍くんが濡れた状態でそこに行くとまずいと思うんだけど」
「確かにそうだが、ここにいるわけにもいかねぇだろ」
「そもそもなんで焦凍くんはここに?この時間は女子の筈じゃ…」

先に男子が入りその後に女子が使用した為皆から最後の掃除を引き受けて1人で浸かっていたのだが、どうして外には男子がいて中には焦凍くんがいるのだろうか。考えれば考えるほどにわからなくなっていく。焦凍くんに答えを求めると彼は私に背中を向けたまま言葉を漏らす。

「洗濯をし忘れたと上鳴が言い出して、丁度女子も戻って来たから、ここに来たら浴室の電気がついてるの見つけて開けたら…名前さんがいた」
「……ますますごめんなさい。私吃驚しちゃって」
「声をかけなかった俺が悪ぃ」
「そんなことない…とは言えないけどでも私が悪いよ」
「名前さんは悪くねぇ」

お互いに謝りあっていると焦凍くんがくしゃみを1つした。思いっきりお湯を浴びせてしまった所為で焦凍くんの着ている服が肌に張り付いてしまっていて、時間も経っているから既に冷たくなっている。
どうにかして温めてあげたくてどうしたらいいのかを必死に考え、お湯に浸かればいいのだと結論が出た。

「焦凍くんも一緒に入る?」
「は?」
「寒いでしょう?お湯温かいし服着たままなら大丈夫じゃないかな」

幸いなことにお湯は乳白色で私の身体が見えるわけでもないし、浴槽も広くて密着する必要もない。せめて外の人達がいなくなるまでと思って声をかけると焦凍くんは怒った顔して振り返り、近づいて水面から出ていた私の両肩を強く掴んで後ろに押す。その衝撃に湯船のお湯が跳ねる。どうしてこんなに怒っているのかと、目を白黒させると焦凍くんは感情を押し殺したように声を出した。

「今の状況わかってんのかよ!」
「お、お風呂場で、難を凌ごうとしてる…?」
「俺は男で名前さんは女なんだぞ!!」

焦凍くんが何を言わんとしているのかが分からなくて、焦凍くんの目を見つめていると彼は手を私の頭に回して引き寄せる。目前に焦凍くんの顔が近づき唇が荒々しく重なる。下唇に歯を立てられたりぬるりと舌で舐められる。突然のことに驚いて口の中に入って来た焦凍くんの舌から逃げるように奥に引っ込めると、熱い彼の舌が伸び無理矢理引き出され容赦なく絡まる。
そこで漸く焦凍くんが怒っていた理由が分かった。

「しょっ…く、ん」

口から甘ったるい声を漏らしながらも焦凍くんの名前を呼ぶと、彼はゆっくりと離れていった。瞑っていた瞼を開けて焦凍くんの顔を見ると2色に分かれた前髪で目が見れなかったが、彼はさっきよりも落ち着いた声で同じ言葉を言った。

「俺は男で名前さんは女なんだ。もっと自衛してくれ」

じゃねぇと大事にできなくなる。そう言葉を続けた焦凍くんは何かを堪えるような表情で私を見る。
お湯で濡れた服が肌に張り付いて、鍛えられた焦凍くんの身体を浮き彫りにしている。私とは全然違う体の作りに世話しなく動いていた心臓が大きく跳ねる。

「ごめんね」
「頼む」

焦凍くんの腕に手を置いて謝ると、その腕は冷えていて風邪を引いてしまうのではないかと心配してしまう。

「焦凍くん、風邪引いちゃう」
「大丈夫だ」
「でも…」

服が濡れたままじゃ外にでれないし。と焦凍くんの両腕を掴むと彼は浴槽に身を乗り出して私の肩口に顔を埋める。するとちくりとした痛みがして肩が跳ねる。もう1度似たような痛みがして焦凍くんの頭が肩口から離れて、頬に柔らかい彼の唇が触れて噛まれる。

「痛ッ!」
「服は俺の個性で何とかなる」
「あっ、そう…だね」

気が付けば浴室の外から声が聞こえなくなっていて、焦凍くんは立ち上がり扉に向かって歩き出した。身体から湯気が出ているから左で温めているんだろう。私も鍵とカードがあれば使えるのだが今は持ってない。

「その、色々悪かったな」
「えっ!あ、ううん」

焦凍くんの言っている色々の感覚が一瞬蘇ってきて、落ち着いていたは筈の心臓の鼓動が速くなる。頬に熱が集まるが隠す事を忘れて焦凍くんの背中を見送る。焦凍くんは最後まで後ろを振り返らずに浴室から出ていき、私は深い溜息を吐き出した。

なんか疲れを癒すために入ったのに疲れた気がする。

でも…。

「好きだな…」

焦凍くんの冷静さも内に秘めた激情も努力も大切にしようとしてくれる気持ちも、何もかもが好きなんだと改めて実感した。そんな時間だったようにも思える。

「けど、2度とこんなのはごめんかも」