仕事を辞めてほしい爆心地と生きていく為に仕事を辞められない薄幸女



私は運が悪い。薄幸と言えばいいのか、兎に角ツイてない。バイト感覚で始めたお仕事も所謂ヤのつく自由業的な所で、気づいた時にはヒーローにお世話になっていた。

「おめェ何度目だよ、あ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!!」
「謝って済んだら俺らヒーローも警察も要らねぇんだよ!要らねぇ仕事増やしやがってクソが!!」

今日も今日とて爆心地さんに跪いて貰おうと頑張ったが、その途中で転けてしまい膝から血が出てしまった。その私の膝に絆創膏を貼りながら説教しているのは爆心地さんだ。因みにこの行為は20回目である。

「てめぇもいい加減転職しろよ」
「でも、ここが一番給料いいんです!他にも4つ掛け持ちしてますけど、時給がここが1番良くて…私お金稼がないと生きてけないから…」

でも、今働いているヤのつく自由業的な所的には他のバイト先には私をレンタルしてるって考えらしく、手に入れた給料の何割かは持ってかれちゃうんですけどね。と頭の後ろに手を回しながら言うと、何故か爆心地さんが爆破して私を威嚇した。

「辞めろって何度も言ってんだろうがっ!!!」
「辞めたら生きていけません!!死んじゃいます!!」

今日生きていくのもギリギリな私が1つでもバイト先を辞めると路頭に迷うこと間違いなしだ。

ヒーローなのに善良な一般市民が路頭に迷ってもいいと言うのか。と口に出しそうになったが、私はその“善良な一般市民”に当てはまらないんだったと言葉を飲み込んだ。

ベンチに腰掛けている私が転けて傷ついた膝は爆心地さんの手によって綺麗に手当された。最初は見て見ぬふりされたが、何度も繰り返す内に今ではちょっとした医療セットを持ち歩いているらしい。

爆心地さんは優しい。

私が爆心地さんの邪魔をしても警察には突き出さないでくれている。
まぁ、大したことをしていないからだとは思うが。小心者であんまり悪い事をしたくない私が爆心地さんにやっているのは、膝カックン(身長が足りず不発)や、爆心地さんの歩く道に小石を置いて躓かせようとしたり(普通に避けられ不発)、あとは進路の邪魔をしたり(普通に担がれて道端に置いてかれた)しているから、街に被害を起こしたりはしてない。個性もそこまで強くないし。というか、掌から乳液が出るってだけでそれを知った爆心地さんは酷く人を見下した表情で、カスだな。と一言言った。もうどっちが敵(ヴィラン)か分からない。

「爆心地さんの手は温かいから膝の怪我もすぐに治りそうですね」
「っ、んなこと言ってねぇでさっさと仕事辞めてこい!」
「辞めれないですもん!上司何処にいるかわかんないし、皆さん顔厳ついし!何より怖いです!」
「じゃあ俺に頼むとか何とかしろや!!」
「そんなお金私の何処にあると思ってるんですか!!今日この服だって違うバイト先コンビニ店長が古着だからってくれたものなんですよ!!」

私がそう捲し立てると爆心地さんは何とも言えない表情をして、再度私の懐事情を確認した。

「お前それマジで言ってんのか?」
「だから何度もそう言ってるじゃないですかぁ…!」

ベンチに座る私の隣に腰を欠けていた爆心地さんはふらっと立ち上がった。それに驚き思わず引き止めてしまった。

「行かないで…!」
「んだよ」
「あっ、えっと、もう少しだけ…一緒にいたいです」

今帰っても同僚に鞭で頬をぺちぺちさせられるだけで、楽しいことなど待ってない。それなら少しでも遅くに帰った方が身の為だ。懇願するように爆心地さんを見上げると、爆心地さんは少しだけ顔を赤らめて溜息を吐き、ベンチにまた座ってくれた。

「1時間だけだからな」
「…!!はい!」
「ったく」

ベンチの背もたれに頭を預けて、あー…っと唸ってる爆心地さんは珍しく疲れているのかもしれない。そりゃそうだよね。業務終了後にこんな私に付き合ってたら疲れるよね。何か私に出来ることはないか、と考えた結果ある1つの事を思いついた。

「よしよし、今日も1日よく頑張りましたね」
「…なんの真似だ」
「お疲れみたいでしたので…嫌でした?」
「んな事言ってねぇだろーが」

爆心地さんは大人しくしてくれていたので、私も頭を撫で続けた。ふわふわした髪が気持ちよくて癖になりそうだ。
そう言えば、爆心地さん私にバイト辞めさせたがってたけど何でだろうか?

あ、でも新しいバイト先が紹介されたから今よりは苦労しないですみそうなんだ!

「爆心地さん!」
「うるせぇ」
「あ、すみません。あの、私新しいバイト先を紹介してもらったんです」
「…仕事内容は?」

気持ちよさそうに細められていた爆心地さんの目が、白けた目に変わった。
きっと大した職場じゃないと思っているんだろうが、今回ばかりは私向きの職場だと思う。

「出勤時間は多分夜だと思うんですよね、夜のって書いてあるし。業務内容はマッサージです!簡単だし、私乳液出せるし私向きの仕事っ、痛い!痛いです爆心地さん!!」
「いいかテメェ…その仕事受けるんじゃねぇぞ。絶対だ、分かったな!あ?!」
「ひぇっ、わかりました!」

爆心地さんを捉えていたはずの視界はいつの間にか真っ暗になり、あれ?と思った瞬間には頭に激痛が走っていた。
何故かバイト先を却下され、恐怖のまま爆心地さんの言うがままに返事をしたら漸く頭を掴んでいた手が離れていった。

怒りが収まらないのか、目を吊り上げ殺気を放って立ち上がり、私の前に立ちベンチに足を上げ私の逃げ場をなくしたまま、取り調べをし始めた。

「そのバイト先は何処からの紹介だ?あァ?」
「い、今のヤのつく自由業的なバイト先です」
「やっぱあそこ潰す!!!」
「やめてください!私死んじゃいます!」

爆心地さんの着ている服の裾を引っ張り、彼の顔を見上げる形でお願いすると爆心地さんはまた顔を赤らめ、今度は私の膝に頭を置いてベンチに寝そべった。咄嗟に頭を撫でてしまったが何も言ってこないので、そのまま撫でる事にした。

「ねぇ爆心地さん。なんで夜のマッサージ屋さんはダメなんですか?マッサージするだけですよ?」
「ソレで終わるわけねぇだろうが。他の女ならどうでもいいが、テメェはダメだ」
「んー?」

爆心地さんの言っている意味はよく分からなくて首を傾げると、横になってる爆心地さんの腕が私に伸びてきた。

「名前」
「はい?」
「仕事辞めろ」
「生活できないから辞めません」

私の頬をゴツゴツした大きな手で撫でる爆心地さんの体温は温かく心地いい。
へらっと笑うと爆心地さんは、ばーか。と穏やかな声で言うのであった。

これでも私(ヴィラン)と爆心地さん(ヒーロー)は敵同士だ。



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