轟焦凍と両片思い

学校生活と言えば薔薇色だ。そんな言葉とは無縁に思えるこの雄英高校ヒーロー科に於いてもそれは他の高校と同じようで、僕たちが日々切磋琢磨するこの教室内でも所謂薔薇色の学校生活を送る人たちがいた。
ヒーローになる為の泥臭い学校生活とは別に彼らは薔薇色の生活を送っている。

彼らと言うのは轟くんと苗字さんのことだ。
2人は明らかに両思いなのにお互いが鈍感だからか全くその事に気が付いていない。
終いには轟くんが僕に相談してくる始末だ。

「なぁ緑谷。さっき苗字と目が合ったんだがすぐ逸らされちまったんだ。俺嫌われてんのか?」
「そんな事ないと思うよ!」

その現場僕も見ていたけど苗字さんずっと轟くんの方見ていたし、目が合った瞬間顔真っ赤にして逸らしてたし。
そんな事は言えないけど安心してほしくて何度も大丈夫だよと、轟くんに言っていると轟くんは根拠のない僕の言葉を信じてくれたのか前向きな姿勢を示してくれた。

轟くんと苗字さんは周囲に相手への好意はバレてないと思っているみたいだが、このクラスの全員が知っている。なんなら恋愛感情をどこかで爆破してきたようなかっちゃんだってお察しで日々イライラしている。僕の所に轟くんが相談しに来る度に貧乏揺すりがヒートアップしている。それに対して轟くんは、爆豪なんかあったのか?だから正直僕は手におえない。

「デクくん」
「う、麗日さん…えっと今日も?」
「そうなんよ。名前ちゃんが、今日轟くんと目が合ったんだけどもしかして視線ウザかったのかな?キモいとかって思われたかな?!…って」
「あぁー、そっちはそういう解釈をしたんだね」

麗日さんとこういう会話をするのももう珍しくもなんともない。最初こそ異性とこんな話をしてるって緊張したが今となっては、今日も天気がいいね。と同じくらいの日常会話だ。
轟くんは僕に、苗字さんは麗日さんに相談しているから僕たちも自然とこの報告会に似た日常会話をしている。

「しっかしなんであんなにわかりやすいのにお互い気づかへんのかな?名前ちゃん手作りのお菓子とか渡してんのに」
「轟くん今日なんかのイベントだったのか?って首傾げてたやつね」
「あと、寮まで一緒に帰ろうって誘ってるし」
「あぁ、轟くん神様が俺に微笑んだって喜びのあまり寮に着いてから暫く放心していたよね」

苗字さんに負けず轟くんだってアタックしているのだ。
例えば実戦練習中に苗字さんを庇ったりしているし。苗字さんは足手まといになってしまったと顔を青くしていたが。
それ以外にもよく話しかけたり、苗字さんの髪型とかかわいいって褒めたりしてるんだけど苗字さんは顔を真っ赤にして轟くんから走り去っていくから、残された轟くんはなんだか哀しそうな顔をしていた。
麗日さん曰く、苗字さんは話しかけられたり褒められる度に、轟くんは私にも優しい。って喜びに浸っているそうだがそうじゃないと声を大にして言いたい。多分轟くんは苗字さんの事だから細かい変化に気が付くのであって蛙吹さんの髪型がリボンからストレートに変わってても気が付かないと思う。流石に髪の長い女子がばっさり切ったのなら気が付くと思うが。
…あ、どうだろう?この前真剣な顔して苗字以外目に入らないって言ってたな。

「これはもう告白してもらった方が良いやないかな?!」
「そればっかりは本人のタイミングだと思うけど…」
「そんなん言ってたら高校卒業してもこのままだよ!デクくん!!」

それは流石にないよ。とは言えなかった。確かにその通りだと思ってしまったからだ。彼らはずっと一進一退を繰り返すに違いない。そこに終止符は打たれないのだろう。傍から見てればそんなやり取りしかしていない。お互いお互いの事しか見てないのに相手の感情には気が付かないのだ。
…嫌でも、本人たちのタイミングだってあるだろうし。
なんて自分の事でもないのに頭を悩ませているうちに事件が起こったのだ。

それは薔薇色の学生生活の中でも経験する人は今日日少ないんじゃないかと思われるイベント。
苗字さんの靴箱の中に呼び出しのお手紙。所謂ラブレターというものが入っていたのだ。苗字さんは思ったことがすぐに顔に出るくらいに素直な女の子で教室に入って来てからずっと困ったような顔をしている。
普通の女の子だったら嬉しくなったりするものだと思うが苗字さんは少しだけ違う。告白の為の呼出を果たし状と勘違いしているのだ。そして相談相手も悪かった。苗字さんに話しかけて相談を受けた轟くんも果たし状と勘違いして加勢しようか?と話している。因みに僕たち1Aは2人の会話からラブレターと大方の予想がついたのだが。

「学校で個性の使用はいいって言われているけど、こんな私的な目的で使っちゃダメだよ」
「そう、だな…どうするか」

呼び出し相手にどう対応するかと頭を悩まし始めた2人に痺れを切らした麗日さんが立ち上がった。

「もー!!2人とも何いっとるん?!どう考えてもラブレターやん!!」
「へ?!」
「ラブレター…」
「そう!好きな人に告白する為に呼び出してるんだよ!」

麗日さんの言葉に苗字さんは顔を赤くさせ轟くんは反対に顔を青くさせた。
今更事の真相に辿りついたのかと、皆が呆れた状態で2人を見ていると、轟くんが予想外の行動に出た。

「苗字好きだ。俺と付き合ってくれ」

唐突になんの脈絡もなく轟くんが苗字さんに告白したのだ。
なんだこの急展開はと全員が固まる中苗字さんは大きな目を更に大きくさせ驚きつつも、しっかりと首を縦に振った。

「はいっ!」
「良かった…」

2人は抱き合い、喜びに浸る中誰かが拍手をした事によりそれが伝染して教室の中には歓声と拍手が溢れた。
麗日さんの方を見ると安堵の笑みを浮かべている。僕も深い溜息を吐いて肩の荷を下ろす。

いつか僕にも好きな人が出来たら、抱き合っている2人みたいに幸せな表情を浮かべる事が出来るのかな。
今はまだ泥臭い学校生活だけど、きっといつか薔薇色の生活を送れたらいいな。




「名前ちゃんが轟くんがイケメン過ぎて直視できへんって」
「轟くんも苗字さんが可愛すぎてどう接したらいいのかわからないって言ってたよ」
「もー、なんなん?2人も」

僕の薔薇色はもう少し先のようだ。

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