変態な轟くんと狙われてる女の子

「なぁ苗字」
「…な、なに?」
「股の匂い嗅いでもいいか?」
「近寄らないでください」

クラスで1番のイケメンと呼ばれる彼、轟 焦凍くんはとんでもない変態さんだ。
黙ってれば格好いいし体育祭以降棘がなくなり雰囲気が優しくなったし、天然な所も相まってクラス外の女子には人気だ。クラスの女の子からの評判は可もなく不可もなくなのは、今みたいな台詞を1日に何回も私に向かって言っているのを知っているからだ。これが無差別に言っているなら今頃轟くんは峰田くんと同じ低評価を受けているが、私以外の人には言わない所と顔面偏差値の高さが高じて面白がられている。

自分には関係ないからって皆私が困っている所を見て笑っているんだ。
それでもヒーロー志望なのかよ。

何て毒づくがそんな事よりも目の前にいる轟くんを何とかするのが先だ。目の前にはホチキスで止まっている書類の束があり、その奥には真顔で私のことを見ている轟くんがいる。教室の窓から差し込む光はオレンジ色でその光を火傷を負ってない方の白い髪が照らしてうっすらとオレンジ色に輝いている。

こうしてみると、と言うか、黙っていると本当にイケメンなのに残念過ぎる。

先生に頼まれた冊子作りをしている最中に轟くんがやって来て、頼んでいないのにその作業を手伝いだし、親切だな。なんて思った途端にこれだ。株が大暴落である。

「手伝ったご褒美をくれ」
「頼んでもないのに?」
「キスがしてぇ。深ェの」
「人の話をまず聞こうか」

だいたい私と轟くんは付き合っていないのだからキスなんて出来るわけがない。
こいつの頭の中は一体どうなっているんだろうか。峰田くんと同じくらいピンク色なんだろうか。

安定の人の話を聞かない轟くんはガタっと音を立てながら立ち上がり顔を私に近づける。イケメンな顔が迫って来たら普通は胸をときめかせるのかもしれないが、私はそれよりも貞操の危機を感じ素早く立ち上がり轟くんから距離を取った。日頃辛い訓練もこういう時に役に立つ。

「しないからっ!!」
「なんでだ?」
「ご褒美の意味が分からないし、私達付き合ってないでしょ?」
「付き合ってないと出来ねぇのか?」
「…あんたの倫理観どうなってんの」

この人もしかしたら頭の中本当に峰田くん並みなのかもしれない。私は押せばイケそうだって思われてたって訳?
何それ。腹立つムカつく。チョロいって思われてるとか最高にムカつく。

私は迫ってくる轟くんに掌が相手に見える状態で腕を伸ばし、近寄るなとアピールするが全くの無意味に終わってしまった。轟くんは私の手を持ち上げてあろうことか私の掌を舐めたのだ。ぞくりとした感覚が背中を下から上に向かって駆け上がり轟くんの手を弾くように手を振るうと、すんなりと轟くんの手が離れた。

「あ」
「な、何すんのよ!」
「掌があったからついな」

つい、でそんな事されてはたまったもんじゃない。両手で握り拳を作って簡単に舐められないようにガードすると轟くんは少しだけ切なそうに顔を顰めた。
そんな顔されたって無駄なんだから、と声を荒げて言いたいが轟くんの顔は私の好み過ぎて怒鳴るに怒鳴れない。イケメンに産んでもらった事を両親に感謝すべきだこの男の場合。

「大体、なんで私のわけ?私より可愛い女の子なんて他にも沢山いるじゃない!それとも何?私なら少し押せばイケると思ったわけ?!」
「ん?言ってなかったか?俺は苗字が好きだ」
「お、おう…」

ストレートすぎるその言葉になんて反応したらいいのか一瞬でわからなくなった。
つまり、轟くんは私のことが好きだから変態行為に出てったこと?それって…どういう事なの…?
轟くんの顔を見ながら首を傾げていると、目の前にいる彼も私に合わせて首を傾げる。なんで轟くんも首を傾げるのよと呆れてしまう。溜息を吐きながら、あのね。と言葉を呟くと轟くんは素早く私に近寄りそのまま抱きしめた。
その間の時間は本当に一瞬だったように思える。私の身体は轟くんの熱に包まれていて腰には轟くんの腕が回っている。そう言えば轟くん最近相手の懐に入り込む練習に励んでいたけどこんな所で実力を発揮しないで欲しい。

「好きだ」
「…わかったから、太腿を弄るの止めて」
「あ、悪ィ癖だ」
「その癖今すぐ捨てて」

腰に回されていない方の片手は私のお尻のすぐ下太腿の際どい所を触っていて、身動きが取れる方の腕で私のお尻辺りを弄る轟くんの手の動きを止めると、彼はすんなりと手を離してくれた。
そういう所は素直なんだけどなぁ。

「苗字抱きてぇ」
「は?」

耳元付近で囁かれる単語は私にときめきを与えてくれるようなものではなく、寧ろ聞き間違いなんじゃないかと思う程のものだった。
頑張って轟くんから距離を取ろうともがくが離してくれない。それどころか更に強く抱きしめてくる。
こんな所で男女差が大きく出てくるから嫌になる。

「普通に嫌だから。離して」
「だったらキスがしてぇ。深いの」
「それも嫌」
「だったら軽いヤツ」
「キスはしたくない」

そもそもの話付き合ってないんだからキスをするとかそれ以上の行為なんて出来るわけない。
その事を理解してくれてないのか轟くんはさらに話しを進めてくる。

「手ぇ繋ぎてぇ」
「…それくらいなら…ってダメだから!」

それくらいならいいかと思ってしまったが、轟くんに何されるかわかったもんじゃないと考え直してすぐに否定すると轟くんは露骨に舌打ちをした。

「触るとかそういう行為は駄目!」
「だったら付き合うのはいいのか?付き合うだけなら触れる事もないぞ」
「まぁ、触れないなら…」
「そうか」

轟くんは私の頬に軽く唇を落として教室から出て行った。
そして私は彼の後ろ姿と今された行為で気が付いてしまった。付き合うとはそういう事だと。

「私、もしかして誘導された…?」

いや、そんな…まさかね…?

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