語ろうか。


雄英生としての最後の1年。正確に言うと最後の冬に俺はとある落し物をとある小説の中から見つけた。その本はSFものの作品だがミステリー要素も強く俺は好んで見ていたが、あまり人気はねェのか貸出リストの名前は俺含め4名だけだ。

相変わらず人気ねェな、この本。

青い表紙のハードタイプの本はいつ図書室に来てもここに存在している。否、大分前に1回だけなかったっけか。
定期的に読んでいるこの本は見る度に違う感想を抱く。

結末のあの女の決断はいつ読んでもクソだな。としか思わねぇが。

そんなある日俺はこの本に手紙が挟まっているのを見つけ手紙ん中を読んだが、まぁなんとも言えないもんだった。
俺も何回か手紙で呼び出されたり告白されはしたが、一方的に自分の都合を、好意を押し付けるだけのもんだったから、苗字と名乗った女の手紙は新鮮だった。

こんな女も世の中にいんのか。
絶滅危惧種だろ。絶対。

が、問題はそこではない。俺宛じゃねぇ手紙を俺が読んじまったって事が問題だ。取り敢えずこの手紙は処分して落して探し回っているであろうバカ女にはどうやって伝えようか。

その時俺は青い表紙の本が目に入り、ノートの切れ端をその本に閉じ込めた。
それからというものの奇妙な程に手紙のやり取りが続いた。最初こそは求めてる相手が違うんじゃねぇかって思ったが、あのバカ女の考える事は中々に面白く興味深い。

“貴方はこの本以外にどんな本を読んでいるんでしょうか?もしかしたら好みが似てたり、私の知らない本を知っているのかもしれないと考えると気になって仕方ないのです”

“俺はお前とはあんま好みが合うとは思ってねーけどな”

“そうでしょうか?人の感じ方はそれぞれですからその辺については何も言いませんが、そうですね。このタイトルの本はご存知ですか?”

メモに書いてある小説は1度読んだことのなる小説で、あぁこれも面白かったな、そーいや。って程度の本だ。

“それ読んだことあるわ”

“貴方は私と好みが合わないと言ってましたけど、私はやっぱり合うと思います。だって数ある本の中からもう2冊も好みの本があったんだから”

たった2冊だけだろーが。何をそんなに威張れんだ。バカ女。

“たった2冊だろーが”

“そうですね。ですがどちらもあまり有名な作品ではないので、浮かれちゃいました”

それだけの事でこの手紙の向こうの女は浮かれんのか。チョロい。

「ハッ、やっぱバカ女だな」

朝の誰もいない時間帯の図書室では俺の声は存外響いて、空気に溶けていった。鞄から適当なノートを取り出しそれを千切り、シャーペンを走らせる。

そーいや、ノート大分減ったな。
リング式で差し替えが可能なこのノートはもう少しルーズリーフが挟まっていた筈だが、手紙のやり取りをしている内に無くなってきたんだろう。

“お前こんなんで浮かれんのかよ。あの作品に出てくるチョロい男みたいだな”

“んなっ!?私あそこまでちょろくないですよ!もー!”

見た事もない女相手なのに不思議と拗ねている表情が想像出来た。そんくらい紙の向こうの女とは関わりを持った。そう思っているのは俺だけじゃない筈だ。


きっと何度かはこの校内ですれ違ったり見かけたりしてんだろうが、顔もフルネームも知らねぇ女なんて探しようもなく終わりを迎える。
唯一の伝える術は頼りない紙切れしかなくて俺はそこに向かって出来るだけ感情を移さないように書き上げた。

俺は今日雄英から卒業して、4月からは事務所に入ってヒーローとして活躍していく。もうあの女とは繋がらない。

繋がろうと思えば繋げられる糸は自ら断ち切った。俺はどんな敵も倒すオールマイトのようなヒーローになる。その為の弱点は必要ねェ。

そうして俺はあの青い表紙の本に出てくるヒロインの気持ちに気が付いた。

そして、俺の気持ちにも。

先生方への挨拶回りで帰る時間が遅くなりついでとばかりに図書室に寄ってみると、当然と言わんばかりに室内は暗く、人1人としていない空間が広がっていた。
俺はあの青い表紙の本には紙切れが挟まっており、あの女は泣いていたのか挟まっていた箇所に印字されている文字が歪んでいる。

“卒業おめでとうございます。先輩。私きっと名前も知らない貴方のことが好きでした”

「俺もだわ。バカ女」

最後にこんなモン残すくらいなら名前くらい書いておけよ。
…いや、書いてあったらきっと俺は未練がましく探すだろう。俺はそんくらいこの女にらしくもなく執着してる。

届かない俺の返事はこの本に挟んでおこう。今後2度と開かれることはないこの本に俺の返事を書こうじゃねェか。

“俺もだわ。バカ女”

きっと次にこの本を開く時はこの気持ちは時間の流れに任せていればいつか、んなくだらないこともあったな。と思い返せる日が来る。

紙切れを青い表紙の本に挟めて本棚に戻した。
遠くからアホ面とクソ髪が俺の名前を呼んでいる。

「おーい!バクゴー?」
「うるせぇ!クソ髪!!黙ってろ!!」
「お前その性格最後の最後まで変わんなかったな!」
「気安く話しかけんじゃねぇぞ!あぁ?!」

もう2度会うことはないあの女は、あの手紙を見てまた俺を想って泣くんだろうか。


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