語ろうか。


自称爆豪先輩の、俺だけ名前を知られるのは不快だ。という謎の理由によって私は彼にフルネームを教えた。

因みに自称爆豪先輩は本当に爆豪先輩らしく、運転免許証にちゃんと爆豪勝己と記されていた。
疑って申し訳ありません。

でも、そうか。
彼が爆豪先輩なのか。私と名前も知らない彼と仲良くなる切欠を作った人。本人はその事を知らないからお礼も言わないが、爆豪先輩の事を思い出すと、あの青い表紙のハードタイプ本に挟めた恋心を思い出してしまう。まだ私が卒業してから1年だ。2歳上の彼が卒業してからは3年が経つのか。

雄英を卒業後大学に進学して本屋さんでアルバイトしながら学業に勤しんでいる。バイト先の本屋さんに有った青い表紙のハードタイプ本を思わず購入したが未だに中を開けないでいる。

ただの手紙のやり取りだけだったのに、なんでこんなにも心がそこから動かないのだろうか。思い出さなかった日の方が明らかに多いのにそれでもふとした瞬間にあの時の事を思い出しては胸が締め付けられる。

まだ懐かしいと思えないのは、新しい恋をしていないからなのか。

恋とは些か遠いいが、爆豪先輩は私のバイト先に偶に、本当に極希に来るようになった。なんでも先輩は学生の頃は本を読んでいたらしく最近は時間がないから読めていない、との事で手軽に読める本はないかと相談しに来てくれる。

好みも大分私と似てて、選びやすかったがその度にあの時の彼の事が頭にチラついた。
だって、本を読んで感じた事も考え方もある喋り方さえもあの彼を彷彿とさせるのだ。

「おい苗字この本読み終わったぞ」
「もうですか?爆豪先輩読書する時間ないんじゃなかったんですか?」
「うるせェ。テメェには関係ねぇだろうが!」

薄目の文庫本とは言え爆豪先輩は遅くとも4日以内には読了したと報告をしに来てくれる。それは直接会いに来て報告してくれる時もあるが、大体はメッセージアプリで報告してくれる。
そんな時は決まってどう感じたのか、どう思ったのかお互いに言い合ったりする。最初は渋々だった爆豪先輩も最近では進んで話してくれるようになった。

金色に近い明るい髪に混じりっけのない赤い瞳に醸し出す怖そうな雰囲気は全くもって本屋さんとは合わないが、彼は話せば話すほど知的で物事を深く考え、繊細な人だという印象を持った。

そんな爆豪先輩には何が合うだろうか。本は自分が読みたい時に読む本を決めた方が良いと思うんだが、そんな時間はねェと彼は怒鳴るのから文句を言う事も諦めた。

「この本とかどうですか?厚めですがさくさく読めると思いますよ」
「ほー」
「この本なら私持ってますから今度お貸ししますね」

いつ頃会えますか?と尋ねると爆豪先輩は明後日の方向を向いて少しだけ考えると一週間後の日付をぼそっと言った。

「その日ならバイトも入ってないので学校終わったあと暇なんで大丈夫です」
「決まりだな。詳しい事は後で連絡する」

爆豪先輩は私の頭をガサツに撫でると、横を通り抜けて後ろ手を振りながら本屋さんから出て行った。

家に帰るとはスマホのメッセージアプリが鳴った。“爆豪先輩”と登録されているメッセージ欄には待ち合わせ場所が記されており、最後には遅れんなよ。と念をおしていた。

“遅れたりしませんよ。先輩こそ遅れたりしないでくださいね!”
“それこそねーわ!!ナメんな!”

「なんで喧嘩腰なの、もー」

なんて1人呟くも言葉には嬉しさが現れていた。軽口を叩きあえるだけの仲になっている事に喜びを感じた。
私は爆豪先輩と会う約束の日付を待ち遠しくて毎日過ぎるのが遅くも感じたが、日々の忙しさにあっという間に感じもした。

…振り返ってみればあっという間だったかも。

なんて思いながら待ちわせ場所であるカフェで飲み物を飲みながら本を読んでいた。爆豪先輩の待ち合わせ場所の選び方は好ましく、カフェと併用して図書の貸出も行っているお店だった。

スマホの時計を見ると待合せまで後30分もある。なのに窓の外には金髪のように明るい色のつんつん頭の彼がこっちに向かって歩いてきている。

「早ェじゃねーか」
「爆豪先輩も早いですよ」
「ったりめェだろーが!俺を誰だと思ってやがる!」

爆豪先輩だと思ってる。なんて言っても照れ隠しなのかなんなのかよくわからないキレ方をしている爆豪先輩に言ったところで火に油だろうから何も言わないで、私はいそいそと鞄から本を取り出して先輩に差し出した。

「はい、これ」
「…この後時間あんのか?」
「ん?バイトも入ってないので暇ですよ」
「行くぞ」

そう言って爆豪先輩は座ったばかりの席を立ち、早々に会計を終わらせてお店を出た。サラッと私と分まで払ってくれているあたり大人で格好いいなと思うんだが、よく良く考えれば私と2個違うだけだから私が子供っぽいのかもしれない。
爆豪先輩みたいにスマートに支払い出来るかなぁ?

「って違う!先輩!お金払います」
「うるせェキャンキャン吠えんな!」
「私犬じゃないですよ!」

爆豪先輩は私の前をずんずんと歩いていき、私はその後に続くように爆豪先輩の背中を追いかけた。
彼の優しいところはこういう時に出る。例えば、私の前を歩いているとはいえ決して私を置いていくようなスピードで歩いてないところ。それにまたに目線だけ後ろを見て私がちゃんと付いてきているか確認してくれるところ。
きっと私が止まれば爆豪先輩も止まってくれる。そして、おい!置いてくぞ!って声をかけてくれる。

きっと周りの人を大事にする人なんだと思った。

あの時の彼はどうだったのだろう。
もし私が立ち止まったら彼はどんな反応をしてくれるのだろうか。

そんな事を考えている限り私まだあの青い表紙の本を開けないのかもしれない。


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