パブロフの兎


カツアゲ上等

 前日に突然呼吸困難になったとしても怪我をしていたとしても、直樹は学生だから平日は学校に行かなければいけない。傷はもう痛まなかったので学校にいくのは大した問題ではないのだが、それでも短時間にいろいろなことが起こったせいで日常生活がひどく苦痛だ。
 今日くらい丸一日部屋にこもって休んでいても許されるのではないか、とそのまま二度寝してしまいそうになったがなんとかこらえた。
 それに先日三月兎に遭遇したあの路地裏がどうしても気になる。どうせ何もわからないだろうが、それでも直樹の足は自然とそこに向かっていた。

「よおぉー直樹くぅん、どうしたのぉ? その怪我ぁあ」

 途中同級生四人に話しかけられて、直樹は自分の行いを後悔する。
 周りにくらべて線が細く頼りない印象があるらしい直樹はよくガラの悪い連中にからまれる。多分巡り合わせが悪いのもあるのだろうが、それにしてもよくこんな頻繁に目をつけられるものだ。

「うっわぁ、痛そぉー! だいじょうぶぅう?」

 一人が楽しそうに笑う。その横にいた少年が嫌な笑いを浮かべて直樹の顔を覗きこんできた。

「ここで会ったのもなんかの縁だと思ってさぁー! ちょっと金貸してくんねぇ? 俺ら金なくってお家に帰れないのー」

 じゃあ帰らなきゃいいだろ。そのほうがお前らの親だって喜ぶんじゃないのか。
 腹の中で考えて眉をひそめる。少年たちは彼の変化に気づいているのかいないのかなれなれしく直樹の肩に手を乗せた。

「別に有り金全部ってわけじゃねぇーぜ? 直樹君も電車乗って帰らなきゃならないもんねぇ」

「五百円あれば帰れるよねぇ直樹くん!」

「ちょっとサイフみしてー」

 ニヤニヤと笑いながら少年の一人が直樹のカバンに手を伸ばす。こうなったらいつも抵抗せずいわれるがままにすると決めている。
 絡んでくる奴らはたいがいが直樹の顔を知っている同じ学校の生徒だ。抵抗すれば後でどんな仕返しにあうかわからないから抵抗はしない。
 最初は走って逃げたりもしていたが、何度もこうして絡まれるうちに面倒になってしまったのだ。一年に七回も絡まれれば誰だってそうなる。生まれた星が悪かったのだろうか。
 直樹はひとつため息をついて、カバンに手を突っこんだ。

「あははははっ、直樹君って素直だから好きだぜ!」

 一人がそれをみてゲラゲラ笑う。
 死ねばいいのに。
 腹の中でつぶやきながら、サイフを手わたす。
 これでサイフには今日の交通費を残して金がなくなるだろう。帰る前に郵便局でおろしておかないと。
 直樹の目の前で少年達がサイフを開く。

「おい、にぃちゃんよぉ」

 彼らの背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。どこかで見たような展開だ。
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