デルタの番犬


なぜ

 なぜ、命をかけて戦った彼らがこのような扱いを受けなければならないのだろう。
 なぜ、自分は部下をこれだけ失ってなお、非情な国の為に尽力しているのだろう。
 なぜ、これだけの醜態をさらして自分は生きているのだろう。
 なぜ、これを誰も疑問に思わないのだろう。

 これらの疑問に答えが出ないのならば、これらの質問に意味がないのなら……

 ――なぜ、彼らは死ななければならなかったのだろう。

 彼らは英雄だった。歴史に名を残せるほどの。なのになぜ、世界に誇れる英雄達が闇に葬られなければいけないのか。男にはどうしても納得できなかった。だから軍服に袖を通すのはこれで最後にしようと決めた。彼が服に袖を通し、帽子を被り直すと、部下であり親友である男がゆるゆると顔を動かし、口を開く。

「ブラックストン大佐」

「もう大佐ではないよ」

「まだ、大佐でしょう」

 自分の返事は少し素っ気なかったかも知れないが友人は笑ってくれた。靴を履き直し、身だしなみを整える。両足を揃えてまっすぐに立つと、目の前にいた友人も同じように姿勢を正し、敬礼をしてくれた。こちら側も敬礼を返し、お互い静かに宣誓する。

「……我々の戦友である誇り高い英雄達の無念を晴らすために」

「もう二度と同じ犠牲者を出さないために」

 護る為に戦ってきた彼らは、いままで護ってきたものに牙を剥くと宣言した。

 失ったものに報い、今まで護ってきたものを同じように護り続ける為に。
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