デルタの番犬


後継者候補その2

「……で、それを僕に捜し出せっていうの?」

 国光が大げさに両手を広げた。

「俺らも協力しますよーっ!」

 直樹はしばらく国光を睨み付ける。やがて諦めたようにため息をついてクルリと椅子を廻し、国光たちから視線を逸らした。

「……こっちからエサの情報でも流してみる?」

「いいッスねそれ! なんかあるんスか?」

「ないけど」

「あ、ないんスか……」

 国光が少し残念そうに眉尻を下げる。彼の情けない声を無視するように直樹が左手を彼の前にかざした。

「黙って。姉さんから連絡が入った」

「おっと、了解ッス」

 国光は口に手を当てて黙る。直樹の視界に険しい表情を浮かべたハルも入ってきたが今はそれどころではないので無視した。通信画面を開いて姉と会話をはじめる。

「なに、姉さん」

 通信画面からは姉の緊張感を孕んだ声が聞こえてきた。

『直樹か。ごめんな、なんかこっちのことバレたみたいで』

「知ってる。ミサイルの操作システム掌握するまで時間稼いでくれる? 多分そんなに時間かからないから」

『ああ、ありがとう直樹!』

「いいよ仕事だから。姉さんも気をつけてね」

『うん!』

 通信が途切れたので直樹も椅子から立ち上がった。それを国光が視線だけで追いかける。

「クラッキングするんスか?」

「うん。今からNSM全員に通達してくる。ついでにエサにもなるでしょ」

 そしてそのまま国光の横を通り過ぎようとすると、険しい顔をしていたハルの口から言葉が漏れた。

「……No1……主任にあんな怪我をさせておいて、能天気に……」

 国光がしまった、とでも言いたげな顔をする。直樹はその場で立ち止まった。ハルが険しい顔で直樹を睨み付ける。

「あなたの姉なんでしょ……ちゃんと仕事をするように言って。主任を守るのが仕事なのに」

 直樹は無表情のままハルを見て、やはり無表情のまま腕を振り上げた。
 平手打ちなどという可愛いものではない。渾身の力を振り絞った拳の、しかも骨の部分が当たるように考慮した一撃だ。
 ガツン、と荒々しい音がしてハルの体が横に飛ぶ。
 国光が声をあらげた。

「おっ、おい直樹っ!」

 咎めるような声にも直樹は眉一つ動かさない。

「僕の目の前で姉さんを批判するってことはケンカ売ってるってことでしょ。悪いけど僕、女子供でも容赦しないから」

「だからってあんまりじゃないッスかぁ……?」

「なにが? いつもなら貧相なツラが梅干しみたいになるまで殴り飛ばしてるところだよ。グーパン一発で許してやるんだからこの緊急事態に感謝してほしいね」

 頬を押さえたハルが直樹を見る。直樹もハルを無表情で睨み返した。

「下らないことで口動かしてる暇があったらその貧相な脳みそ動かして仕事してよね。次に姉さんのこと侮辱しようもんなら名実ともに日向を歩けないようにしてやるからよくスカスカの脳みそに刻みつけとけ。テオに尻尾振って媚び売るのは勝手だけどそれに僕の姉さんまで巻き込むなよ雌豚」

 無表情の直樹が吐き出す言葉にハルの顔が赤くなった。直樹はすでにハルへ対する興味をなくしたらしくさっさと扉へ向かい歩いていく。

「国光たちは念のためNSMのほかにも情報流して。僕も警戒しとくけどここのモニターで不審な動きがないか観察しておいて」

 国光たちの返事など聞きもせず直樹は扉の向うへ消えていく。
 直樹がさった後、倒れたままのハルにクラウディアが駆け寄った。

「腫れてるわね。医務室いきましょう」

 傍観していたレジスが肩を竦める。

「いやーしかし……似てるねぇ」

 国光も彼の言葉に頷いた。

「似てるッスよねぇ……テオに」

 クラウディアがハルを助け起こしながら直樹の消えていったほうをみつめる。

「多分、テオは彼に継がせる気よね」

 レジスがモニターを覗きこみながらクラウディアに答える。

「ICLOの最高責任者な」

 そのつもりで教育してるよな、というレジスの言葉に国光がうんうんと頷いていた。
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