デルタの番犬


リンゴ

「いたぞ! こっちだ!」

 慌ただしい足音が廊下に響く。すぐに銃を乱射する音がした。祐未が声のするほうに撃ち返すと銃弾が倍になって飛んでくる。アレックスがすぐ近くの部屋に飛び込んだので祐未とルーサーも慌てて飛び込んだ。二人があとから入ってきたのを確認してアレックスが扉に背を預ける。

「百回聞いたようなセリフだねぇ」

 銃を構え直してアレックスが笑ったので祐未は眉をひそめた。

「こんな時にずいぶん余裕だなアンタ」

「アルでいいよ!」

「人の話聞けよ」

 ガガガガッ、と轟音がして足音が近づいてくる。突入されるのも時間の問題だろう。
 舌打ちする祐未に視線は向けずアレックスは言った。

「だが、我々は運が良いよ」

 ルーサーが片眉を上げる。

「なんで」

「ちょうど"リンゴ"が一つある」

 アレックスが直径5cmほどの鉄の塊を取り出した。M67破片手榴弾――俗に「アップル・グレネード」あるいは「ベースボール」などと言われる手榴弾である。
 アレックスは安全クリップと安全ピンを抜くと扉を少し開けて廊下に投げた。それから扉を閉めて部屋の窓際に飛び込む。祐未とルーサーもあわててそれに習った。数秒後にはボンッ、と電子レンジの中で卵が爆発したような音が廊下から聞こえてくる。
 アップル・グレネードに内臓された184gのコンポジション爆薬と硬質鉄線は5メートル範囲内の人間に致命傷を与える凶悪な代物だ。実際、先ほどまで銃撃の音でやかましかった廊下は爆発音を最後に静まりかえってしまった。
 祐未が銃を構えたまま扉を蹴り開け、外敵がいないか確認する。
 ビニールが焦げたような臭いが漂う廊下には爆発と硬質鉄線でズタズタに引き裂かれた死体が3つ転がっていた。
 敵の沈黙を確認した祐未がジェスチャーのみでアレックスとルーサーを手招くと、2人とも音を立てずに扉へ背中をつける。
 ルーサーが廊下の様子を見て眉をひそめた。

「めちゃくちゃじゃねぇか。これ、あとで始末書とかねぇだろうな」

 祐未は銃を構えながら少し慌てた様子だ。

「え、その場合はアルが書くんだよな?」

「ははっ、そうなるね。だがよかった。運が良いよ」

 アレックスの能天気な言葉を聞いてルーサーがため息をついた。

「どうしてそう言いきれんだよ」

「廊下は傷ついたが、ファーストレディーの執務室は扉を除いて無傷だ。見たかぎりでは」

 祐未が今出てきた扉を振り返る。

「えっ、あれってそうだったの!」

「おや、祐未はホワイトハウスの見学に来たことは?」

「ねぇよそんなもん」
 
 ルーサーは眉をひそめて祐未を見た。

「っていうか作戦前に図面渡されただろ。頭に入れとけよ」

「部屋の名前なんて書いてなかったじゃねぇか」

「イーストウィングだぞ、わかるだろ普通……」

「わかんねぇよそんなん知らねぇもん」

 祐未がヘッドセットから外れていたイヤホンを繋ぎ直し、ICLOの弟と連絡を試みた。ルーサーとアレックスもヘッドセットの位置を直し、通信に耳を傾ける。直樹はすぐに反応してくれた。

『なに、姉さん』

「直樹か。ごめんな、なんかこっちのことバレたみたいで」

『知ってる。ミサイルの操作システム掌握するまで時間稼いでくれる? 多分そんなに時間かからないから』

「ああ、ありがとう直樹!」

『いいよ仕事だから。姉さんも気をつけてね』

「うん!」

 祐未が嬉しそうな顔で頷くとルーサーが呆れた顔をした。アレックスはヘッドセットの位置を少しだけいじってから祐未を見る。

「PEOCへの突入はもう少し後になりそうだね」

 アレックスの横でルーサーが眉をひそめた。

「だが急がないと。PEOCの人質もやられてNYにもミサイルドカンじゃ目ぇ当てられねぇぞ」

 まばたきもせずアレックスが言う。

「大丈夫だよ」

 ルーサーは顔をゆがめた。

「なにを根拠に」

「ブラックストン大佐は無関係の人間を殺せる人種ではない」

「だからなにを根拠に言ってんだよ!」

「根拠はない。自信はあるがね」

「そんなんで判断していい段階じゃねぇだろうが!」

 ルーサーが声を荒げるもアレックスは微動だにしない。かわりに祐未が眉をひそめた。
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