「騒ぐなよ、気づかれんだろ」 ルーサーが苛立った様子で舌打ちする。アレックスは廊下に敵の気配がないことを確認すると銃を構えたまま先へ進んだ。 「……できるかぎりミサイルは無効化しておいたほうがいいね。相手の手札は少ないに限る」 アレックスのすぐ背後にぴったりと張り付くようにしていた祐未が小さな声をあげた。 「どっかで地図確認するか? そのうち直樹がやってくれるけど」 時々背後を振り返りながらルーサーが言う。 「この先に郵便物預かり所があったはずだ。時間稼ぐにも丁度いいだろう」 祐未もアレックスも彼の提案に異存はない。極力音を立てないようにして目当ての部屋へ移動する。郵便物や荷物を管理する部屋はいざというときも障害物も多い。ドアから極力離れて壁に背中をつけたアレックスがホワイトハウスの見取り図を開いた。 「向うもうまく隠しているから当然写真からあまり情報は得られなかった。ルーサー、君ならどこにミサイルを設置する?」 「そうだな……」 ルーサーが顎に手を当てて地図を覗きこむ。前のめりになった彼とは逆に、祐未は背筋をピンと伸ばして障害物越しにドアのほうを睨み付けた。 「おい……なんかくる」 ルーサーもドアのほうを向く。アレックスが地図に右手をかけたまま石像のように動かなくなった。口だけが小さく動いて微かに空気を振わせる。 「いくらなんでも気づかれるのが早すぎるな」 祐未がドアから目を離さず吐き捨てた。 「"リンゴ"ぶっぱなしやがるからじゃねぇのか」 アレックスが瞳だけを動かし扉を睨み付ける。 「先遣隊がやられてすぐに、まっすぐ私たちのところにこられるものかな?」 祐未がなにかに気付いたように目を見開き、目だけでアレックスを見た。 「……どういうことだよ?」 彼女の吐き出した言葉は問いというより、答えを確認するような響きだった。 アレックスは扉から目を離さずに答える。 「突入の時もそうだ。ブラックストン大佐は優秀だから我々の動きを読んだのかと思ったが、それにしても対応が迅速すぎる。防犯カメラの復旧には最低3分はかかるはずなのに、どこから何人敵がくるのか最初からわかっているような動きだった」 つまり我々の動きは敵に掌握されている。 アレックスが小さく呟いた途端、背後からガチャリと金属音がした。ホルスターから拳銃を引き抜いた音だ。この時アレックスは初めて扉から目を離し、背後――仲間のルーサーを見る。パンッ、と乾いた音がした。 「ぐぅっ!?」 微かなうめき声を漏らしてすぐ隣にいた祐未が倒れる。急所は外れているようだが至近距離で弾丸をうけたため傷口は大きい。倒れたとき頭を打ったようで、脳しんとうをおこしている。早く手当てしなけばいけないだろう。 銃に手をかけたアレックスの腹部にルーサーの蹴りが入り、体が吹っ飛んだ。郵便物を管理している棚に背中から激突し、頭上に荷物がどさどさと落ちてきた。 扉を蹴破って敵が突入してくる。朦朧とする意識の中でアレックスは誰かに腕を掴まれた。霞む視界の隅でぐったりとした祐未が髪を掴まれているのが見える。彼女は脳しんとうを起こしていて動かすには細心の注意が必要だというのに。 アレックスが少女に伸ばした手はルーサーに踏みつけられた。 「悪いなアレックス……俺は、使い捨ての駒にされて尻尾ふってられるほど能天気じゃないんだ。お前とは違う」 最後にそんな言葉を聞いた気がする。 二年前の作戦中、祐未の詳細な情報はブラックストン大佐も手に入れられなかった。アレックスもその後彼女のことを調べてみたが情報は手に入れられず、今回再会したのはまったくの偶然だ。彼女にはそもそも敵に協力する機会がない。アレックスは裏切っていない。となれば自分達の情報を売り渡していた裏切り者はルーサーということになる。 少し考えればわかることだ。消去法でこんなに簡単に見つけられる。 私が、もっと早く行動していれば―― 踏みつけられた手を握りしめ、歯を噛み締める。最後に戦友だった男の顔を睨み付けてアレックスは意識を手放した。 しおりを挟む目次 戻る [しおり一覧] |