デルタの番犬


反乱

「カドガン。君たちの命令のせいでまた兵士が無意味に死んでいったよ。こちらは人質をとっていることを忘れるな。余計なことをする余裕があるようだからな。取引の時間を15時間後としよう」

『まてスタンレー! こんなことをしてどうなるかわかっているのか!』

「では良い返事を期待している」

『スタンレー! まて!』

 ガシャンと音を立ててスタンレーが通話を終了させる。
 横で会話を聞いていた部下の1人が声を荒げた。

「大佐! 奴ら俺たちを甘くみてるんですよ! 人質をひとりくらいぶっ殺して……」

「人質をとった程度で簡単に事が進むのなら苦労はしない。抵抗は想定内のことだろう。あちらの反撃をことごとく封じた今こそ慎重に交渉するべきだ」

「そんなんじゃナメられちまう!」

 スタンレーが男を睨みつける。

「ファーディナンド! 上官の命令に逆らうのか!」

 ファーディナンドと呼ばれた男が言葉に詰まった。彼がもう反論してこないことを確認すると、スタンレーは男に背を向け扉へと向かう。

「私はアレックスたちに話をしてくる。ピンター中佐、少しの間交渉を任せる」

 ピンターはすぐスタンレーに向かって敬礼してみせた。

「了解しました、大佐」

 男はそれを確認してひとつ頷くと部屋を後にする。
 彼が部屋を去ったあと、黙って見送っていた部下たちが一斉に口を開いて騒ぎ始めた。

「くそっ! なんだあの野郎、弱腰になりやがって! ここまで来てまさかビビッちまったんじゃねぇだろうな!」

「このまま電話交渉なんて続けてても国が頷くわけがねぇんだ! こうなったら人質ぶっ殺すかミサイルの一基でもぶっ放さねぇとナメられちまう!」

「金が貰えなきゃ俺たちだってなんのためにここまでやったのか……!!」

 ざわつく彼らに対してピンターが声を荒げた。

「やめないか貴様ら! わざわざ交渉相手の態度を硬化させてどうする! 今は交渉時間を短縮しただけで充分だ!」

 反論したのはファーディナンドだ。

「そんなチンタラやってられるかよ! 敵は陸軍特殊部隊《デルタフォース》だぞ! とっとと金もらってトンズラしなきゃこの先どうなるかわかったもんじゃねぇ!」

「貴様っ、怖気づいたな! 上官の命令に逆らう気か!」

「俺たちはもう軍人じゃねぇ! 国に刃向かっちまったからな! 本気だってわからせてやらなきゃあいつら頷くはずがねぇんだ! このままじゃじり貧だ!」

 ファーディナンドが銃を取り出す。ピンターがますます声を荒げた。

「よせ! なにをするつもりだ!」

「てめぇが反対するってんなら実力行使するまでだ! 俺はもう軍人は辞めるつもりでここに来た! 今更上官だのなんだのクソ喰らえだぜ!」

 ピンターも銃を取り出そうとするが、それより早くファーディナンドが引き金を引いた。口からゴプリと血を吐き出してピンターが倒れる。
 ファーディナンドは銃をホルスターにもどし、横に立っていた男に言う。

「こうなったら俺達だけでも金をぶんどるぞ。手始めにミサイルだ。一基ぶっぱなしゃ向うの考えも変るだろ」

「あ、ああ、わかった!」

 倒れたピンターを残し、男2人が慌ただしく部屋を出る。ピンターだけが残された部屋には、ただゆるゆると赤黒い血溜まりが広がっていくだけだった。
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