君はリリーを知っているか?


「今も昔もテメェのジャマした覚えはねぇよ」

 リリアンを見ていたヤク中の顔が、みるみるうちに怒りに歪んでいった。隆弘は知り合いだといっていたが、この分ではあまり友好的な知り合いではなさそうだ。
 ジャッキーがツバを飛ばして叫ぶ。

「隆弘! また君は僕の邪魔をするの!? リリアンに手を出すなっ!」

「今も昔もテメェのジャマした覚えはねぇよ」

「黙れ! 君はいつだってそうやって僕の邪魔をするんだ!」

 ヤク中が男に夢中になっている間に、リリアンはそっとジャッキーから距離を取った。隆弘は彼女の行動に気づいているのか、ジャッキー・ボーモントの神経を逆撫でするようにあからさまな嘲笑を浮かべてみせる。

「なんだ、ユニオンでコテンパンにやられたのまだ根に持ってやがんのか? 2ヶ月も前の話だぜ?」

 ジャッキーが苛立った様子で床を蹴った。

「君はいつもそうだ! いつも自分が正しくて自分が強いって疑わない!」

「事実だろうが」

 ヤク中の顔がさらに赤くなった。せっかく白かった肌が今や酔いつぶれたように真っ赤だ。

「なんて傲慢で冷徹で、残酷なんだ! 世界が自分を中心に回ってるとでも思ってるんじゃないのか!?」

「世界が俺以外の誰かを中心にして回れるはずもねぇだろ」

 またジャッキーが苛立った様子で床を蹴る。

「うるさいうるさい! だから君は嫌いなんだ! リリアンに近づくな! 彼女も迷惑してるんだ!」

「そうは見えねぇな」

「なんて傲慢な男なんだ!」

 リリアンは心の底からどっちもどっちだと思った。
 ジャッキーが下唇を噛んで怒りに身体を震わせる。

「君はいつだってそうなんだ! 僕の邪魔ばっかりする! 今回ばかりは君の好き勝手にはさせないからな!」

 カチャリと金属音がした。ヤク中の手に黒い固まりがある。
 拳銃だ。
 リリアンは自分の口元がひきつるのを感じた。銃口をまっすぐに向けられた隆弘は平然とした顔をしている。

「本物か?」

 ジャッキーが小馬鹿にしたように笑った。

「すぐにわかるさ」

 この態度からして本物のようだ。どうしてこう物騒なことばかりが続くのか。そもそも一介の学生であるジャッキーが拳銃などというものをどうやって手に入れたのだろう。
 撃鉄を起こす音がした。リリアンが思わず声を荒げる。

「西野っ!」

 隆弘が床を蹴って左へ飛び退いた。
 パァン、と風船の割れたような音が響く。廊下から乾いた音がした。弾丸がめり込んだようだ。
 隆弘の身体には当たらなかったようで、男の身体に目立った外傷はない。
 すぐさま1階から荒々しい音が聞こえた。

「なんの騒ぎ!?」

 どうやら同居人が帰ってきたようだ。階段を上がる音がして、ドリーが顔を覗かせる。

「リリアン! どうしたの!?」

 ドリーの声から逃げるようにしてジャッキーがリリアンの部屋に逃げ込む。隆弘が追いかけるも、窓に手をかけたジャッキーが飛び降りるほうが早かった。
 隆弘も窓に足をかける。

「待ちやがれテメェ!」

リリアンはとっさにかけよって男の身体にすがりついた。

「やめて! あぶない! お願いだから!」

 庭からヤク中の声が聞こえてくる。

「覚えておいて! 薬のサンプルを持ってきてくれれば、絶対に安全を保証する! いうとおりにしてくれたら、僕が手出しさせないから!」

 リリアンが窓の下を見ると、芝生の上に着地したジャッキーが走っていくのが見えた。華奢な身体のくせによく骨が折れなかったものだ。
 とにかく、拳銃を持った凶悪犯が家から離れていくのを確認し、彼女は安堵の息をつく。
 警察に通報したほうがいいだろう。リリアンが肩にかけたバッグから携帯電話を取りだした。女は手が震えていることを自覚しながら、手同様震えた声で

「警察に、通報しよう」

 と言った。
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