「よう、おっさん。アンタが事件の担当か」 アーマンがああ、と声をあげる。 「隆弘……お前の名前を聞いたときは驚いたが、怪我はないのか?」 「ジャッキーの野郎、貧弱な腕で狙いが逸れたんだろ」 お互いに随分と気安い感じなので、どうやら知り合いらしい。アーマンが隆弘の肩を軽く叩いた。 「なによりだ。お前になにかあったら、俺が親父さんに顔向けできない」 「そんなに気ぃ張らなくてもいいと思うぜ」 「親はいつでも子供が心配なもんだ」 それから警部はリリアンとドリーに向き直る。 「すいませんね。彼の親と知り合いでして」 男が多少気恥ずかしげに咳払いをして家の中に入っていった。 「ご自宅の鍵を確認させていただきましたが、ピッキングの痕は認められませんでした。鍵の閉め忘れか、ジャッキー・ボーモントがなんらかの形で合い鍵を入手されたものと考えるべきでしょう。鍵のつけかえをオススメします」 リリアンはアーマンのトレンチコートを見て、裾に汚れがあることに気づいた。コーヒーだろうか。 「はい……」 「それと、なくなったものがないか確認していただきたいと思います。貴重品などはどちらに保管されていますか?」 警官がひとりずつドリーとリリアンにつき、リビングから確認していく。1階で紛失したものは見あたらず、2階にあがってドリーが部屋の貴重品を確認する。ふたりとも部屋が荒らされていたので少し時間がかかるだろう。リリアンは遠慮がちにアーマンを見た。 「あの、できれば女性の方に同行していただきたいんですが……」 リリアンの部屋はクローゼットも引き出しもすべて荒らされていて、下着も何枚か床に散らばっている状態だった。クスリがどうのと言っていたから可能性は低いが、ストーカーのような発言もしていたし、下着でも盗まれていると目覚めが悪い。 アーマンは彼女の言わんとしていることを察してくれた。 「ああ、気がきかなくて申し訳ない。そうですよね。今呼びますからお待ち下さい」 女性警察官を呼んだあと、アーマンがドリーを見る。 「すいません。今日は人手不足でして、リリアンさんの確認が終るまでお待ち頂けますか」 ドリーが首を横に振った 「貴重品はまとめてあるので、男性の方でもかまいません。すぐにすみますから」 30分ほどかかって、とられたものはないという結論にいきついた。 アーマンが報告を聞いて頷き、窓から庭を見る。 「今から庭を見せてもらってもよろしいですか? できれば犯人がどうやって逃げたか、詳細に教えて頂きたいのですが」 リリアンが頷く。 「わかりました」 ドリーが玄関のドアをあけてアーマンを庭に誘導した。隆弘が警部のすぐ後についてタバコの煙を吐き出す。 「ところでおっさん、ジャッキーは病院からどうやって逃げ出したんだ? 警察は見張ってたんだろ?」 「それを聞くなよ、隆弘」 「大通り歩いてる最中、やたらお巡りが多いと思ってたんだよ。大失態だな、おっさん」 「まあ……そういうことだ。ずいぶん機嫌が悪いようだな」 「そりゃ自分の女が危ない目にあったら小言の一つもいいたくなるぜ」 ドリーが驚いた顔をした。 「もしかしてリリアンのこと?」 リリアンはなるべく冷たい声で答えた。 「そんなもんになった覚えはないよ」 しかしドリーは聞いていないようだ。 「リリアン! いつのまに告白したの!?」 「ドリー、人の話聞こう。頼むから」 「俺が告ったんだぜ?」 ドリーが隆弘を見る。顔が微かに赤かった。 「えっ! だって、自分から告白したことがないって有名なのに!」 リリアンは口をへの字に曲げた。 「西野! 話がややこしくなるから黙っててくれる!?」 「隆弘だ」 「さっきので絶対名前呼びたくないって心の底から思っちゃったよ! 私断ったよね!?」 「どういうことリリアン! いままで彼氏とかできたことなかったのに! おめでとう!」 「ありがとう! だけど違うから、ドリーちょっと落ち着こうか!」 話が混乱していくさまを見てアーマンは何を思ったのか、リリアンの肩を軽く叩く。 「隆弘がすまないね。昔から人の話を聞かない子で……」 「そう思うならこの状況、なんとかしてもらえますかねぇ!?」 これは面倒クサイ、とリリアンは心の底から思った。思わずため息をついた女の肩に隆弘が手を置く。 「しかし、リリアンが鍵をなくしてるし、鍵を付け替えて念のため別の場所に移ったほうがいいだろうな」 「警察もそのつもりだ。ホテルを用意するつもりだが」 隆弘はタバコの煙を吐き出した。 「俺の家でいいんじゃねぇのか。俺以外誰もいねぇし部屋もある」 アーマンが片眉を跳ね上げる。 「隆弘、なにを言ってるんだ! 一般人を巻き込むわけにはいかない!」 「だがホテルは人の出入りが激しいし敷地も広い。見張るのには限度があると思うぜ。狭い借家の周りに3人くらいお巡りつけてたほうがラクでいいだろ。俺も今回のでジャッキーに目ぇつけられたかもしれねぇし、警護してくれると助かるんだが」 アーマンが小さく呻った。リリアンは首を傾げ、ドリーが笑みを浮かべる。 「なにが起こるか解らないし、隆弘さんも危険なら、一緒のほうがいいんじゃないかしら。リリアンも心配だし」 ドリーの顔はまだ少し赤かった。リリアンはもう一度 ――めんどくさいことになったなぁ とため息をつく。それから結局、ドリーとリリアンはひとまず隆弘の借家に間借するという案が採用された。彼女達は住み慣れた借家を、荷物をまとめて出ていくことになったのだった。 しおりを挟む目次 戻る [しおり一覧] |