君はリリーを知っているか?


「今、なんて言うのが正解か考えたでしょ」

「ねえ、私手伝うことある?」

「いいわよ、座ってても。私が言い出したんだし」

「んー、でも私一応今日当番だし」

 ドリーが一瞬首を傾げてから、すぐ冷蔵庫に視線を移した。

「じゃあ、サラダ作ってくれる? ごめんね、疲れてるのに手伝わせて」

「いいよー! 自分で言ったんだもん」

 それからリリアンはドリーの指示通り冷蔵庫から野菜を出してきて水で洗う。
 鍋をかき回しているドリーが、リリアンに言った。

「……ねえ、リリアン。本当に隆弘さんと付き合ってるの?」

 リリアンが水洗いした野菜をまな板の上に置き、水気を拭き取る。

「ううん。違うよ」

「そうなの? お似合いだと思うけど」

「そう? ああいう我儘な男にはドリーみたいなタイプのほうがいいと思うよ。世話焼きっていうか、あねさん女房っていうか」

 ドリーの顔が赤くなる。

「ばっ、ばか! なんで私の話になるのよ!」

「思ったことをそのまま言ったまでだよー」

 みんなウソがヘタなんだなぁ、とリリアンはとりとめなく考えた。
 ドリーは鍋を一心にかき回しながら軽いため息をつき、レタスをちぎっているリリアンにまた話し掛ける。

「隆弘さんに告白されたの?」

「告白っていうか、俺の女にならねぇかって。フラれたばっかりだからきっと誰でもいいんだよ」

「でもタカヒロ・ニシノは自分から女口説かないので有名じゃない。今まで全部、言い寄ってきた女と付き合ってただけだって」

「あれが告白って言うならあの男かなり頭可笑しいと思うよ。私に告白した理由、『壊れないオモチャが欲しい』だってさ。私そんな頑丈に見える?」

 ドリーが口をポカンとあけた。

「それは……すさまじいわね……」

「でしょ。ドリーも西野のこと、気になってるのが顔だけだったらやめといたほうがいいよ」

「だからなんで私の話になるのよ」

「西野のやつ、私がフッたから次はドリーに目ぇつけるかもよ」

――受け答えは間違っていないだろうか。この返答でドリーは気分を害さないだろうか。

 サラダを盛りつけながらリリアンは必死に考えた。
 今までの反応を見る限り、ドリーは西野隆弘が気になっているようだ。今リリアンは事実しか喋っていないが、どこかにドリーを不快にする単語が混じっていないだろうか。やめたほうがいいというのは余計だっただろうか。壊れないオモチャが欲しいと言われたことは伏せておくべきだっただろうか。それとももう少し詳細に、助けてくれた時のことを話しておくべきか。ジャッキーが彼の昔からの知り合いで、助けたリリアンに感謝していたから告白したのだろうと、付け加えておくべきだったか。
リリアンがクルトンをサラダの上に散らしながら考え込んでいると、いつのまにかドリーが至近距離まで来て彼女の肩を叩いた。

「今、なんて言うのが正解か考えたでしょ」

「そんなことないよ」

「そんなことあるわ。たまにそういうトコあるわよね」

「そんなことないよ」

「あるっていってんのよ」

 ドリーがため息をついたのでリリアンはまた考える。けれどこれで黙っている時間が少しでも長かったら、ドリーはまた怒るかもしれない。どうしよう。
 リリアンが答えを見つける前に、ドリーが動いた。

「そんなこと考えないで、思ったこと言ってくれればいいのよ」

「……うん」

 ドリーが笑った。正解だ。つられてリリアンもニコリと笑う。

「ねえドリー、私ねぇ、西野の思い人わかっちゃったよ」

「なによそれ。自分だったってこと?」

「違う違う! 私は確信したよ。西野の思い人はジャッキー・ボーモントだね!」

 ドリーがリリアンの頭を叩く。

「そのネタやめなさいよ」

「まってよ! 根拠があるんだよ! 聞いてよ!」

「それは妄想っていうのよ」

「違うよ! 聞いてよー!」

「その前にサラダつくっちゃいなさい」

 なだめるように肩を叩かれてリリアンは唇をとがらせた。ドリーの笑い声が聞こえる。
 完成したサラダを、リリアンはとりあえず冷蔵庫にしまった。
 しばらくして隆弘が風呂から出てくる。クマのデフォルメキャラクターを模したきぐるみパジャマを着ていたので、リリアンは家に来た時と同様、思わず3度見した。日頃からファッションセンスが銀河鉄道の旅に出ているとは思っていたが、きぐるみパジャマは今までと破壊力の桁が違う。さすがにドリーも驚いたようで、一瞬料理の手を止めた。
 隆弘が椅子にどっかりと腰を下ろす。動作自体は尊大な印象を与えるのだが、いかんせんきぐるみパジャマとのギャップが凄まじい。
 リリアンは思わずニヤニヤと笑ってしまった。
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