君はリリーを知っているか?


「残してねぇ。食ってる」

「……そのかわいいパジャマ、よくお前のサイズがあったね」

 隆弘が不機嫌そうな顔でタバコを2本口にくわえた。

「裾直したんだよ」

「自分で?」

「ああ」

「マメだねー! ドリーがそういうの得意だから今度から頼めば?」

 キッチンでドリーがあからさまに慌てふためく。

「なっ、なにいってるのよリリアン!」

 隆弘がフン、と鼻を鳴らした。

「いちいち他人に頼むほど不器用じゃないぜ。それよりとっとと風呂はいっちまえよ」

 ドリーはすこしガッカリした様子だ。様子を見ていたリリアンはみんなわかりやすいなぁ、と思ったが口に出すのはやめておく。
 キッチンから出てきたドリーがリリアンを見た。

「じゃあリリアン、お鍋見ててね」

「わかったよン」

 リリアンがドリーの代わりにキッチンへ移動する。隆弘は灰皿を自分の目の前に引き寄せて2本分のニコチンを吸い込んでいた。
 リリアンはなぜ2本一気に吸うのだろうと疑問に思ったが、どうしても気になるというわけではないので尋ねるのはやめておく。ぼんやり鍋をかきまわしているうちに、10分くらいしてドリーが風呂から帰ってきた。

「おまたせ。リリアン、お鍋の様子どう?」

「良いかんじーさっきパスタも茹でたよー」

「ありがとう。じゃあ冷蔵庫からサラダ出してくれる?」

 リリアンが冷蔵庫からサラダを出している間にドリーが皿にパスタを盛りつける。ここで隆弘がやっとテーブルから動き、引き出しからフォークを3つ取り出してきた。ネコとリスとコブタが柄の先端についている。隆弘はネコのフォークを使うようだ。リリアンはコブタのフォークを選んだので、必然的にドリーはリスのフォークを使うことになる。
 リリアンが愛用の胡椒を持ってきて、皿に盛りつけられたスパゲティに胡椒をたっぷりかけた。

「いっただっきまーす!」

 彼女が笑顔でフォークを持つと、隆弘が呆れた顔をする。

「なんだそりゃ。身体に悪そうだな」

 隆弘の言葉に女はわざとらしく口を尖らせた。

「タバコよりマシですぅ!」

 ドリーがこれみよがしにため息をつく。

「いつもこうなのよ。やめろっていっても聞かないの」

「内臓壊すぞ」

 リリアンは隆弘の言葉を聞き流して自分のサラダに胡椒を振りかけた。
 男が目を見開く。

「おいマジか」

「なんだよー」

「内臓壊すぞ」

「壊しませんー! お前こそブロッコリー食えよ。皿にブロッコさんだけ残ってんじゃん」

「残してねぇ。食ってる」

 リリアンが隆弘の前に置いてあるサラダに視線をやった。見事なまでにブロッコリーだけより分けられている。

「これでなんで食ってるって言いきれるのか不思議だわ」

「うるせぇ食ってんだよ」

 どうやら隆弘はそのまま押し切るつもりのようだ。ドリーが慌てた様子で笑みを浮かべる。

「に、苦手なものはしょうがないわよ!」

 隆弘がパスタを咀嚼してから口を開いた。

「だから食ってんだよ」

「そうよね!」

 会話が噛み合っていない気がする。というかドリーが無理やり会話を合わせている。健気だなぁ、と思ったリリアンは感想をパスタと一緒に飲み込んだ。
 隆弘はブロッコリーを華麗に無視してスパゲッティ・ボロネーゼを頬張る。彼はトマトソースを飲み込んだ後、ふわりと笑って見せた。

「美味いな」

 ドリーが顔を赤くして食事をする手を止めた。

「そ、そうでしょう? 得意料理なの!」

「そうか。久しぶりに美味いモン食ったぜ。ありがとよ」

「い、いいのよ。泊めてもらうんだし!」

――なんか良い雰囲気になってきたし、退散するべきかな

 と考えたリリアンは、まず自分の分の夕飯を平らげてからにしようと思い至った。かわりにそれ以降はあまりしゃべらないように務める。
 ドリーと隆弘はそれなりに会話が盛り上がっていて、特にドリーは食事の後リリアンがやろうとしていた食器洗いも率先してやってくれるほど機嫌が良い。
 いつもは食事を作らなかったほうが食器を洗うことになっていたのだが、リリアンは素直に儲けたと思うことにして鼻歌など歌うドリーの様子を眺めていたのだった。
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