君はリリーを知っているか?


「まるで超能力の見本市だな」

「リリアン!」

 その間に薬学教授はさっさと地下室から逃げ出してしまった。
 名前を呼ばれたリリアンは聞きたくないとでもいうように両手で耳を塞ぐ。また彼女を中心に風が吹き荒れた。ひしゃげたユリの下にあるコンクリートが軋む。ミシミシという音がやがてギシギシに変わり、ベリベリと豪快な音を立てて空中に浮き上がった。粉々になったコンクリートが弾丸のように部屋中を飛び回る。自分に向って飛んできた破片を、隆弘はしゃがんで避けた。
 ドリーも突風のようなもので隆弘やリリアンの身体を吹き飛ばそうとはしてきたが、物体が浮かび上がり飛び回るというのは初めてだ。
 ドリーの突風がサイコキネシスだというのなら、これはテレキネシスといったところか。頭上に影が差したので隆弘が顔を動かすと、巨大なコンクリートの壁が浮いていた。
 後ろへ飛んで直撃を避ける。勢いよく降ってきた固まりは轟音をたてて砕けるかと思いきや、そのまま地面に飲み込まれてしまった。

「こりゃ、ジャッキーの……!」

 彼が使っていた穴掘りだ。コンクリートが波間に飲み込まれてしまう。周囲のユリもズブズブと床の下に沈んでいた。隆弘の右足も飲み込まれている。さらに後方へ飛んでしっかりとした地面に足をつけた。陸で溺れるのだけは遠慮したい。

「リリアン! 落着け! 俺はお前の敵じゃねぇだろ!」

 リリアンはまだ花の中心で蹲ったままだ。

「やだ! 聞きたくないっ! 怒らないで! 私はお姉ちゃんじゃない!」

「リリアンっ!」

「聞きたくないっ!」

 隆弘の周囲にあったユリに突然火がついた。赤みがかった黒の花弁が炎に飲まれ、ひしゃげて枯れていく。空中でも火の粉がちり、男は服の袖についた炎を慌てて払った。
 発火能力パイロキネシス。メジャーな超能力の一種だ。
 隆弘が足を飲み込もうとする地面から避難し、舌打ちをする。

「まるで超能力の見本市だな」

 頭上が突然明るくなった。バチバチバチッ、と天井で凄まじい音がする。それから部屋を照らしていた照明がかき消え、リリアンの周囲に青白い火花が散った。隆弘や燃えさかる花の周囲でも火花が散る。
 リリアンの瞳がチカッ、と強い光を放った。音がよりいっそう強くなる。
 隆弘の腕に突然青白い火花が纏わり付いた。火花はあっという間に全身へ広がると、強い痛みになって男を襲う。

「ぐぅううっ!?」

 身体が痛みとともに激しく痙攣した。暫時で過ぎ去った激痛が強い痺れを身体に残していく。
 発電能力まであるようだ。
 周囲にかかる重力がつよくなる。止血した傷からジワリと赤い色が滲んできた。先程の電撃のせいで傷の痛みがよけい酷くなっている。
 隆弘は身体が軋むのを感じた。花に囲まれ、座り込んでいる女を見る。
 頭を抱え込んだリリアンは隆弘と目があった瞬間息をのんだ。

「いやぁああっ!」

 空中に火の玉が3つ浮かび上がる。自分に向って飛んでくる火球をみて隆弘は口元がひきつるのを感じた。

「クソがっ……!」

 1つ目は横に飛んで避け、もう1つはしゃがみ込んで避ける。頭上から降ってきた3つ目をバックステップで躱した。炎の玉が地面に追突した瞬間、舞い上がった熱量に冷や汗が流れる。直撃したらただではすまないだろう。
 リリアンがガタガタと震えている。またエメラルドが瞬き、バチバチと派手なショート音が響いた。今度は雷でもくるのかと身がまえた隆弘だったが、青白い火花はリリアンの周囲に浮かんだだけだった。次の瞬間にはかき消えてしまう。
 そのかわり、女の背中が大きく波打った。

「っ、うげぇっ……!」

 嫌な声だ。
 ビタビタと水音がする。赤黒い花弁に赤黒い液体がかかった。
 女の白い頬に、ユリを燃やしたとき涙が通った道筋に、今度は禍々しい色の液体が流線を描いた。まるで周囲に咲いている花弁を溶かしたような色だ。
 血の塊を吐き出したドリーはその後動かなくなった。
 隆弘が足を一歩踏み出し声をあらげる。

「リリアンっ!」

 顔をあげた女の唇が赤黒い液体で濡れている。まるで口紅だ。彼女は脅えたような目で隆弘を見た。
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