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サンジ誘拐事件から数日。
航海士不在という前代未聞の状態で“新世界”で起こる数々の異常気象を乗り越え、時には海王類を倒しながら、予定より大幅に遅れて「ゾウ」に到着したルフィ、ローを始めとしたドフラミンゴ討伐隊。
カン十郎の心許ない能力により“登象”に成功し、島中心部へと足を進めていた。
ルフィは例により突っ走りもうその場には居ないが、その他ご一行はこじ開けられた形跡のある門に首を傾げつつ、ジャック達による破壊の跡を確認し、警戒しながら侵入していく。
その様子を遠くから見ていたキャロット。
彼らが日々仲を深めている“恩人”達の仲間だとは露知らず、ジリジリと距離を詰めていた。
「何が起きたんだ…?微かに火薬の匂いも、ガスの匂いもしねェか?」
「何なんだよ…たまには平和な国でのんびり…」
「「!!」」
「え!?何だなんかいんのか!?」
何者かの存在に気づきローとゾロが各々愛刀の鯉口を切る音に、敵に恐れ慄いているウソップがさらに縮み上がる。
キャロットはその様子を見て攻撃に出た。
草を掻き分け、木の根を飛び越え目を見張る速度で一行の元へ近付いていく。
「任せろ」
完全に戦闘の構えに入ったゾロの目の前に飛び出したキャロット。
その姿を視界にとらえたローの顔色が変わる。
彼女は以前名前と交換したスクラブの動きやすさと着心地を甚く気に入っており、この時もそれを身につけていた。
いや、身につけてしまっていたというべきか。
見間違える筈がない、あれは自分が名前に渡したー……
キャロットはふわりと浮くようにゾロの迎撃を避け、エレクトロを繰り出した。
バチバチッ!
「う!」
「待て!止めるのだキャロット!」
「え!?」
そこにワーニーと共に現れたナミの服を着たワンダ。
一瞬生まれた隙にローは間髪入れずにキャロットの腕を掴んだ。
「!?」
「お前、名前に何を、ッ!」
刹那のローの気迫に一瞬は怯んだキャロットも、瞬時にエレクトロで弾いて距離を取る。
「ックソ、」
「今この人名前って言った…!?」
「そティアに構っている余裕はない、行くぞキャロット!“くじらの森”に侵入者だ!“侠客団”を怒らせてしまう!」
「はいっ!」
状況を確認し、一行に向かうべき場所を伝えた2人は“くじらの森”を目指し再度森へ入っていく。
「ねぇワンダさん、もしかして今の…」
「ああ、恐らくは…“くじらの森”の侵入者も海賊「麦わらのルフィ」だろう」
「それなら早くみんなと会わせてあげないと!名前にも知らせて…」
「あの者達には向かうべき場所を伝えた。名前はこれから向かう先にいるはずだ」
「そっか…そうだね!へへ、」
「なんだ、どうした?」
「名前は…ようやく大切な人に大切なこと、伝えられるんだね」
「…そうだな」
「元気、出るかな。きっと出るだろうな」
自分のことのように嬉しそうな顔をしたキャロットを見てワンダも表情を緩ませるが、すぐさま引き締めて“くじらの森”への進路を見据えた。
一方、取り残された一団はワンダ達が消えていった方向を見つめ立ち尽くす。
なにしろ伝えられた情報と事実の錯誤が酷すぎる。
泣き叫ぶウソップに、冷静なその他面々。
…いや、冷静に見えて内心あまり、いやかなり穏やかでない男が1人。
「トラ男くん…さっきのウサギの女の子の服」
「……あァ…間違いない。あれは名前のものだ」
何故あのミンク族が名前の服を?
ミンク族の存在は知っていても文化については然程明るくないローは暫し思索に耽る。
ロビンの言う通り少なくとも死体があるということは食われてはいないようだ。
そもそもミンク族が何を食うのか…
ベポは普通に人間と同じ食事を摂っていた、ということはまあまず間違いなく食糧にされていることはないだろう。
だが問題はそこではなく殺されているらしい点だ。
名前らが到着したのがいつ頃かは分からないが、そもそも先に己が海賊団が到着している筈。
奴らが名前が殺されるのをむざむざ見過ごす訳がない。
全員まとめて…?
いや、ベポのビブルカードが消滅していないということは…
「トラ男くん」
「……」
「…トラ男くん」
「…、……なんだ」
「貴方の仲間達がここにいるんでしょ?連絡手段は?」
「……辿ってきたビブルカード…そうだな、この先におれの10年来の仲間がいる筈だ。そこに向かう」
ビブルカードの示す方へ足を踏み出したローに続き、歩み出す一行。
「トラ男くん」
「なんだ」
「貴方なりに衝撃を受けていたの、十分伝わったわ」
「………」
ちょっぴりおかしそうにそう小声で伝えてくるロビンをローはぎろりと睨め付けたが、それすらもどこ吹く風とばかりにくすりと笑われてしまう。
ローはどこか歯噛みする思いで森の奥へと視線を戻したのであった。
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