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「無事にとはいかなかった。コラさんは重症を負って…動けねぇコラさんを助けてもらうために声を掛けた海兵が、当時海軍に極秘任務で潜入捜査していたドンキホーテ・ファミリー最高幹部のヴェルゴだった」
「ヴェルゴ…」
「パンクハザードでお前も見ただろう」
「パンクハザードで…」

あそこで出会ったのはルフィさん達一味とスモーカー達チンピラ海軍、あとはシーザーとモネ…と、

「あ、」

いた、確かにいた、もう1人。
面と向かってはいないがチョッパー先生と一緒に子ども達を救うために動いていた時見かけた長身にサングラスをかけた人。
あの人もドフラミンゴの一味だったのか。
よりにもよって海兵として潜り込んでいたドフラミンゴの重要な部下に今までのこと、さらに今後の計画が全て露見し、その情報はすぐにドフラミンゴのもとへ。

「そんな危機的状況でもコラさんはおれだけは逃がそうと…文字通り命を懸けた」
「…!」
「本当は2人で逃げるはずだった…逃げられるはずだった。おれがヘマをやったせいでコラさんはあいつに殺された。命も心もくれた大恩人…おれが殺したようなもんだ」
「そんな、」
「だからおれはあいつを討つためだけに生きてきた。それだけが人生の目的だった。何者にもなれず、結果として相打ちになろうとも、ドフラミンゴを討てるのならばそれでいいと思っていた、でも!」

思わず先生を振り返り、口を開きかけた私の言葉を遮るように、彼は語気を強くする。

「……お前を見ていて、考えが変わった。突然現れやがったと思いきや、何も掴めないまま毎日をもがきながら生きて。よく笑うしよく泣く、ガキかなんかみたいにコロッと懐いて、只真っ直ぐに信頼を預けてくる。そんなやつを見ていたら、コラさんがおれに望んだことをやっと思い出した」


“もう放っといてやれ!!あいつは自由だ!!”


昨日のことを思い出すかのような顔をして、先生はふっと笑った。

「あんなに死にてェと思っていたのに、ドフラミンゴと戦っている最中、生まれて初めて死にたくねェと思った。生きて、トラファルガー・ローとしてお前の顔が見たいと思った」

何だかだんだん居た堪れなくなって下に向けていた顔が、先生の手で掬い上げられる。
ゆるりと頰が撫でられて、離れていく先生の体温。
あぁ、今きっと私の顔、真っ赤だなぁ。

「“もっと自由に生きればいい”…本当のコラさんを知る唯一の人物にも、そう言われた。きっとあいつはそう言っていると」
「私も…そう思います。だって先生、せっかくコラソンさんに心を貰ったっておっしゃってたのに復讐のために生きるなら…それはコラソンさんに出会う前の貴方と同じです」

先生の瞳に、僅かに驚愕の色が浮かぶ。
家族のために、コラソンさんのために、背負う対象は違っても周りに向ける感情は復讐のための激しい焔のみ。
勿論それも選択肢の一つだろう。
でも。

「そんなの、…きっとコラソンさんは望んでないはずです。もっと、自由でいいんですよ、人生って。ひとつじゃなくていいんです、色々あっていいんです。それが人生です」
「……ガキが…一端の口利きやがる」

今までの人生で自分がこんな目に遭うと思っていなかった。
生まれてから物心ついてからも、学生時代も、病棟であくせく働いていた頃だって、まさかこんなよく知りもしない、創作の世界に飛ばされるだなんてそれこそ創作のような話が実際に起きるだなんて誰が想像するだろう。

「こんな風に悟れたの、つい最近なんですよ。この世界に来てからそう思えるようになりました」

もっと自由に。
彼に言うように見えて実は自分の心を整理するために、自分に言い聞かせるために口に出していた節もあった。
もっと自由に生きていいんだよ、色々あっていいんだよ、私。

「向こうの世界にいた頃はこんなことには思えなかったですし、ただ起きて仕事して寝て、生命活動の維持のためにご飯も食べて、」
「分かった、もういい」
「もう本当ただ仕事のために生きてるっていうか、何のために私存在してるんだろうみたいな、」
「分かったって言ってるだろ」
「でもこの世界に来て、今回の件を経て、改めて分かったんです」

黙らせようとする先生の言葉を、今度は私が強く遮る。
顔は見れないけど、声だって震えるけど、私はこれを伝えなくてはならないから。


生きる理由、なんて高尚なものじゃない。
ただの、私の一生に一度の、我儘なの。


「…傍にいたいんです。先生の傍に。ただそれだけで、私はいいんだって」