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「そ、いえば、コラソンさんと別れた後、どうやって今まで生きてきたんですか?」

一頻りが経ち、ようやく気持ちが落ち着いてきたと思いきや、急に全ての感情の中で恥ずかしさが勝ってきた。
離れる気配を微塵も見せず、猫のように擦り寄ってくる彼を軽く押し返しながら尋ねると、至極不満げな顔をした。

「それは今話さないとならねェことか?」
「いや、だって気になりますよそりゃ、頼りがあったとも思えないですしちっちゃい子1人で生きていけるような世界じゃないですし、」
「…」
「と、途中で話終わっちゃったから続きが聞きたいな〜!」
「止めたのはお前だ」
「……は、恥ずかしい、ので、話戻したいです…」
「よし」

必死に今の状態から逃げようと言い訳を並べてみるが彼の圧からは逃げられず、素直に白状すれば一切隠す気のない意地悪顔が輝いた。


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己の人生における大恩人であるコラソンと別れを告げたローはそのまま隣町へと向かう。
どれほどの距離があるのかもわからないまま、極寒の中を飲まず食わずで3日3晩。
成長期の子どもには、いやそうでなくても過酷な環境下を、ローは必死に歩き続けた。
そうまでして漸くもって辿り着けた隣町だが、過去のトラウマが邪魔をして足を踏み入れられず誰もいない洞窟へと転がり込む。
発作を起こしかけながらも自身を奮い立たせ、そこで初めてオペオペの実の能力を発動させた。
自身のオペをするためだ。
意識を飛ばした方が幾らも楽であろうほどの痛みに耐えながら肝臓に蓄積した珀鉛を取り除き、やっとの思いで治療を終えたローは僅かに残っていた体力を使い切り、そのまま意識を失った。

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「…次に目を覚ました時にはー…なんでまた泣きそうなんだ」
「だって先生…」

呆れたため息混じりで先生の掌が私の片頬を包む。
ここに来るまでにもう一生分どころか人生3つ分は辛い思いをしただろうに、まだあるなんて。
彼にとっては遠い過去で、もうなんのことはない話なのかもしれないが平和な世界で生まれ育った自分にとっては一難超えてまた一難どころではない。

「そんな小さな子が…自分で自分のお腹切って…!」
「…何に泣いてんだ」
「だって!痛かったですよね…?そんなの…痛いし苦しいし、これ以上まだ何かあるんですか…?」
「続きは自分から聞いてきたんだろうが」
「ん゛〜〜伝わらないぃ……」

もどかしさもあってボロボロ涙をこぼす私に呆れてものも言えない様子の先生。
正直自分でも止められない。
こんなに子どもみたいに情緒を上下させて。
一度自分の気持ちを彼にぶつけた結果、感情が迷子になっていた。
いや、もっと端的に言えば、彼への愛おしさが爆発していた。
それも押さえつけていた分とんでもない火力で。
母性ってこういう感情を指すのだろうか。
彼の過去が自分のことかのように辛く、そんな過去もしがらみも乗り越えて今こうして生きてくれていることが心から嬉しい。

「…おれはお前が分からねェ」
「私…言い忘れたことがありました…」
「今度はなんだ」
「…ありがとうございます…、」

彼の目をしっかり見つめて、頬を包む彼の手に私の手を添えて。
今まではもちろん、今回無事…ではないかもしれないが、帰ってきてくれて。
あの時勝手に押し付けた約束をしっかり守ってくれて。

「生きてて…くれて。ありがとうございます」
「…、」

返事の代わりに押し付けられた胸板の向こうでは、生きている証ハートが脈打っていた。


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「ーーーー…そうだ先生、腕の傷って」
「味方に治癒能力を持った奴がー…」
「お、来た来た!」
「おーいみんな!戻ってきたぞ!お2人さんが!」

私の涙が落ち着いた頃に部屋を出て、並んでみんなのもとへ。
…わざとらしくニヤニヤしている人がいち、に、…ほぼ全員かよ。

「出向お疲れ様っしたキャプテン!」
「あァ。待たせた」
「いやもういいんスよおれ達のことなんて!」
「よかったっすねキャプテン!色々と!」
「あ?」

みんなのあまりの頬の緩みっぷりに流石の先生も違和感を覚えたようだ。
ぴくりとその眉が寄せられる。
一方不本意ながらもその顔の裏を理解している私の頬は膨らみっぱなしである。

「なんだお前ら揃いも揃ってその顔は…気色悪ィ」
「相変わらず塩!」
「いけず!」
「でも内心〜?」
「ニッコニ「シャチ」アイアイ!」

全てを総括してシャチさんが詰められている横から、誰よりもだらしない顔をしたペンギンさんとイッカクさんが近づいてくる。
ええい頬を突くな空気を抜くな。

「名前ちゃんもよかったなァ、ん?」
「ペンギンさんきらい」
「ごめんって名前、スクラブ返すから機嫌直して?」
「イッカクさんもきらい」
「うわ〜〜〜んキャプテ〜〜ン!!名前〜〜〜!!」

2人の心に大きな傷を意図的に描いていると横から白いもふもふ、基ベポさんに追突された。
右腕に私、左腕に先生を抱え泣き通しだ。

「キャ、キャプテンはおかえりだし、名前はぁ、ごめんだし、でも2人ともおめでとう〜〜!!」
「「は、」」
「わ゛〜〜〜〜ん!!」
「ベポ待て、泣きやめ。おめでとうって何の話だ」
「え?2人はカップルになったんでしょ?」
「…は、」
「みんなに聞いたんだおれ、再会喜ぶ間も無くキャプテンいなくなっちゃうし、追いかけようとしたら止められてさ、なんでって聞いたらそういうことだって」

だからおれ追いかけるの我慢したんだよ、偉い?偉いでしょ?
嫌味や皮肉の欠片もなくえっへんと胸を張るベポさんに絶句しながら赤面する私。
蜘蛛の子を散らすようにあちこちへ走り出すみんな。

「ーー…“ROOM”」
「うわぁっ、待ってキャプテン!」
「話を!いやお慈悲を!」
「話はバラしてから聞く。慈悲はねェ」
「そんなぁ!」
「慈悲は、ねェ」
「ゆっくりと2回言った!」

はてなを浮かべるベポさんそっちのけで逃げ惑うみんな。
でもみんな先生が帰ってきたのが嬉しそうで…バラバラにされても嬉しそうにしてるのは流石にどうかと思うけど。