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ぱちんと音を立てながら何気なく裏を返せばご丁寧に顔写真まで貼り付けてある。
本人の顔と写真の顔を見比べると、何故か本人の方が幾分か若く見えた。
が、これに関しては深く考えないことにした。
女の造作について深掘りするのも野暮だし、そうまでする必要もない。
ぱちん、ぱちん、意味なく幾度か裏と表を返し、漫然と眺めながら暫し思慮する。
海賊とはいえ、ローは自分を歴とした医者だと自負している。
医学に強い国や有名な病院の名前くらいは記憶していたが、どこにも当てはまらない上に病院名も本人の名前も漢字だらけだ。
読めないわけではないが、この世界においては珍しい。
これは、また…
厄介な拾い物をしたかもしれないな。
心内でそう独り言ち、名札から手を離したローはまたカルテを纏めに机に向かう。
少し時間を置いた頃、背後から衣擦れの気配を感じ取った。
「起きた!起きたよキャプテン!」
ベポが弾かれたように声を上げる。
「キャプテンキャプテン!」
「うるせェぞベポ」
ペンを置き、女ー…苗字名前の方を振り返り、視界に入れると、とんでもなく凝視された。
そりゃあもう、穴が開きそうなほどに。
ローはそんなに見るか、と聞いてやりたくなった。
立ち上がり、近寄ると警戒心を隠そうともせず、これまた頭の天辺から爪先まで凝視され、居心地悪いことこの上ない。
何なんだこいつは。気まずい思いで軽い診察を開始する。
「気分は」
「………」
「お前に聞いてる」
「……気、分」
「いいとか悪いとか、ここが痛いあそこが気持ち悪いとかあるだろ」
「なんとも、ない、ですが」
「なら良い」
状況が読み込めていないのか、細切れに発された返事を短い言葉で受け取るロー。
今のところ意識障害や言語障害もなし、バイタルも問題なさそうだ。
ひとまずの安否を確認したローは名前の腕を離す。
「体調が問題ないなら診察は終わりだ。ベポ、部屋まで運べ」
「アイアイキャプテン!」
「……ちょっと待ってください」
とっとと自室から運び出そうとすると待ったがかかる。
ゆっくりと、名前とローの視線がかち合った。
不安に揺れながらも芯のある真っ直ぐとした眼差しで、感情の読み取れないローの瞳を見据える名前。
互いに、こんな目をした人間には久しく出会っていなかった。
「どういう事ですか?」
「何がだ」
「私に何をしたんですか?」
「なんだ、操の心配か?安心しろ「違う」……」
「激しい頭痛、手足の震え、嘔吐。私は間違いなく脳血管障害の何らかで卒倒した。恐らくク「クモ膜下出血を起こしていたからオペをした。あまり興奮するな、再発するぞ」…は、」
名前の顔が訝しげに歪む。
「っからかってるの?ふざけたこと言わないで!開頭した形跡もない、痛みも全くない、そもそもこんなにすぐ起き上がれるはずが、」
「興奮するなと言っている。同じことを2度言わすな」
「っ、」
「3度目はないぞ」
「………」
ようやく黙った名前を運び出すよう、ローはベポに再度指示をする。
唇を一文字に引き結び、ベポに抱えられてこの部屋を後にしていく名前を目の端で見送りながらローは内心唸る思いであった。
少なくとも己より若そうに見える女が、自身の身に起きた出来事を正確に把握している。
症状からきちんと病名を割り出し、その病気の手術が簡単でないことも理解しているようだった。
ああいう看護師もいるのか。
看護師は医者ありきのもの、と言うイメージを些かながら持っていたローは、自分の認識を少からず改めさせられる。
ついでに、先程彼女に対して抱いた感想も。
見知らぬ場で見知らぬ男を目の前にしても、真っ先に自身の病状について気にするあたりも含めて…
「………」
ローは何かを思案したのち、口の端だけで笑みをつくり、手元の作業を再開した。
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