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「キャプテンキャプテンキャプテン!」
「騒々しい」
その一室の扉が派手に開かれた。開いたのは航海士、白熊のミンク族のベポ。
そして机に向かったままぴしゃりとベポの言葉を撥ね付けるのは、「死の外科医」の異名を持つハートの海賊団船長のトラファルガー・ローだ。
「すみません…騒々しくて」
「…要件は何だ」
ずん、と見る間に落ち込む打たれ弱い白熊に、ローは小さくため息をついて振り返った。と、
「…誰だそいつは」
ベポの腕の中には見知らぬ女。
医療用スクラブを身に纏うその女は、ベポにぐったりと体を預けきり、意識はないように見える。
「甲板に落ちてたんだよ」
「は?」
「だから落ちてたんだって!」
「意味がわからない」
「おれだって分かんないよー!甲板に出たら落ちてるんだもん!」
訝しげな顔をするローに必死に訴えかけるベポ。
「ね、これ頭打ってないかなあ。何の反応もなくて」
「それ以前に呼吸はしてるのか?」
「どうだろ、分かんね」
ローはベポに歩み寄り、抱えられた女のバイタルサインを確認する。
呼吸…は一応しているが、やはり意識は全くない上にやけに頻脈。
頭か?直感的にローは感じる。
「ベポ、オペ室に急げ」
「え?オペするの?」
誰か分からないのに?とその碁石のように艶やかで真っ黒い眼が訴える。
「誰か分からないから、だろうが」
侵入者なのかなんなのか。
死んでしまったのなら致し方ないが、まだ生かせる兆しがあるのであれば生かして今後のためにも聞けることは聞いておくべきだとローは考える。
それに、助けられる命を放っておくのは医者である彼の矜持が許さなかった。
バタバタと先を走るベポの後を追い、船長室のすぐ近く、オペ室へと足を向けた。
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事態は急を要する。
ローのオペオペの実の能力を使用し覗いた頭蓋の中では、案の定出血が起こっていた。
身元も割れていないのに能力を使用してのオペはこちらの身が危険かと一瞬考えるが、現在進行形で出血しているとなるとそうも言っていられない。
名の通り「外科医」として、着々とオペを進めていく。
比較的早期だったこともあり滞りなく終わり、意識が戻るまでの様子見としてローは彼女を自分の部屋に運ばせた。
ベポにそのまま見張りをさせ、自分は再度机に向かい、彼女のカルテの作成を始める。
「(……甲板に落ちてた、か)」
ベポの言うことを信じていないわけではないが、これに関しては説明に無理がありすぎる、とローは内心頭を抱える思いであった。
何故なら我がポーラータング号は潜水艦。
海賊団結成当時、木造の船で海に出ようとしていたところに「友達」から貰ったものであった。
帆もあり、海上を進めないわけではないが、大量に砲台などを詰め込める帆船とは違い海上戦になった場合の機動力には些か欠けるため、
ただ、クルー全員の精神衛生上の問題や、実際に海の様子を確認しながら進みたいという
落ちてたって言ったって、一体いつから?
前の島を出てからすぐ潜水し、まだ一度も浮上していなかった。先程のが初めてだ。
前の島から潜んでいたとしたらクモ膜下出血どころではない、とっくに溺死しているはず。
そもそも彼女には水滴1つついていなかったのだから、その線は薄いだろう。
もしくは何かの能力者か?
海水に入っても問題のない能力者などきいたことがないし、浮上した一瞬を狙って自身の能力である"シャンブルズ"のようなもので突然現れたとか?
だったらあの出血はどう説明をつける?
答えのない問題をぐるぐると考え続けていると、
「ねえキャプテン、なんか名札みたいなの下げてるよ」
「どれだ」
ベポが名札に気がついた。
そこには病院の名前らしきものと「看護師」の記載、彼女の名前。
「苗字…名前」
衣服から想像してはいたが、やはり医療関係者だった。
名札にはICチップのようなものがついている。
大方病院に関係者として入館するのに必要なカードだろう。
ただそこまで設備のしっかりした大きな病院だというのなら、聞いたことがあっても良いはず。