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その日の夜。ご飯を済ませて洗面所に行くとお風呂場から脱衣所にかけての床が水浸しになっていた。
最後にお風呂入った人誰よ。
遊んでそのままにしたでしょう。
小さく嘆息してモップを取りに倉庫に向かう。
誰かが滑って転んだら大変だしね。
いや正直みんな成人してしばらく経ってるだろうに脱衣所がびしょびしょになるほどお風呂で遊ぶってどういうことだとは思ってるけどそこに関しては何も突っ込まないでおく。
艦内全体の掃除用具が一挙にまとめられている倉庫は、普通の部屋と同じくらいの大きさがある。
掃除用具以外にも、日用品の在庫から予備の武器まで、他にも色々と詰め込まれている為だ。
むしろ詰め込まれすぎて掃除用具の肩身が狭そうである。
モップを持ち上げるとそれに引っかかっていたであろう箒が勢い良く倒れてしまった。
「あー、」
結構雪崩れてしまってそのままにするわけにもいかない。
しゃがんで拾おうとすると、その先にあるちいさな木箱が目についた。
一見何の特徴もないただの木箱。
でも何だか目を惹かれて離せない。
悪いことをしているわけでもないのに、抜き足差し足そろそろとその箱に近づく。
上に乗せられた蓋をゆっくりずらすと中には小さな包みがいくつか。そうっと手に取った。
微かに手のひらに感じる鼓動。
…小動物?
なわけないよね。開けてもいいかな。
包みを開けたその中には…
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「先生!先生!!」
船長室の扉が名前の手によって激しく叩かれる。
鬱陶しそうな顔をしてローが顔を出した。
「騒々しい」
「これ!誰のですか!?」
これ、と差し出されたのは小袋から取り出された小動物。
…ではなく、ローの手によって某かの胸からくり抜かれた生きた心臓であった。
ローはそれを見て、ピクリと片眉を上げる。
「勝手に持ち出すな。しまってこい」
「これが何故か倉庫にあったことに関しては気になるけどとりあえず置いておきます。でもこれ!見ました!?」
興奮気味に捲し立てる名前。
「だから何をだ」
「この人の心臓!ここ!動脈硬化があります!」
「は」
この心臓は言うなればただの駒だ。
そんなもの相手に何を下らない、と思いながらもこれ!ここ!と己が助手に繰り返されれば確認したくなってしまうのが医者の性というもので。
見せてみろ、と名前の手から当該のものを受け取る。
「確かに冠動脈硬化症…だがかなり初期。よく気づいたな」
「ちょっと突いたりして確かめました」
「…突いたのか」
「はい。え、よくなかったですか?」
うちのクルーのじゃないですよね?と微塵も悪びれないあたり、名前もだいぶ周囲の環境に染まってきているのだろう。
突けばその痛みは持ち主にいくということは分かっているだろうに…
ローはこの心臓の持ち主に少々の同情を向けるが、そもそも誰のものであったかすら覚えていない故にその思遣は全く意味を為さないのであった。
「刺したり潰したり、こいつの動きが止まるようなことさえしなけりゃいい。でも戻してこい」
「えー…治療しないんですか」
「わざわざそんなことするか」
「えー…」
「だがそうだな…折角だから他の心臓も見てみろ。他にも一つや二つくらい病気持ちがあるだろう」
途端に楽しそうに倉庫に戻っていく名前を、やれやれと言った様子で溜息混じりに見送るロー。
名前より先に所用でローの部屋を訪れており、一連の様子を傍で見ていたクリオネは後に語る。
「いろいろ言いたいことはあるが他人の生きた心臓を勝手に教材にするな」
と…。
ーーー
練習心臓です。