1
斯くして私はハートの海賊団に籍を置くこととなった。
元いた世界に戻る方法も分からない、海賊が蔓延っているような世界ならば普通に生きていくにも難しい可能性がある。
でも、この船に乗れば、最低限の衣食住は保証される。
その上今や持て余すほどとなった知識欲も、ここなら満たしてやれそうだ。
ただ、
「(海賊かー…)」
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
不肖名前、悪い子になります。
それよりさっきの一言聞きました?
「物分かりがいいな」、ですって。
ハメようとしてる人間の言葉でしかない。
鬼畜横暴、と罵ってやりたいところだが、悲しいかなそもそも彼は鬼畜で横暴の象徴、海賊なのであった。
「そうと決まれば改めてあいつらにー…」
「は?待ってください話が違う」
ギブアンドテイク、そう言っていたはずだ。
ずい、と詰め寄れば、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「オペの秘密。教えてくださいますよね、先生?」
「…そうだったな」
何がそうだったな、だ。白々しいにも程がある。
「…おれはオペオペの実の能力者だ」
…なんだそれは。
いやまて、オペオペの実…?
似たような単語を聞いた覚えがある。またも記憶の引き出しを漁る。
「その能力でお前の頭の中を確認し、そのままオペしたというわけだ」
トラファルガー…基、先生のいう言葉を聞きながら、記憶の中から見つけ出したもの。
「ゴムゴムの実」。
確か、ワンピースという物語は主人公がこれを食べてゴム人間になったところから物語が始まっているはず。
さしずめそれの異種というところか。
「頭の中を確認、というのは」
「まあ簡単に言やぁこういうことだ」
“ROOM”。
先生が小さく呟き、青い円が彼の手のひらから彼を中心に一瞬にして広がった、と思いきや。
「!」
痛みもなく、肘から先が切り落とされた。
突然のことに言葉を失う。
「この空間は、いわばおれの“手術室”だ。これに入った対象を、おれは自由に操ることができる」
まさしくオペのように。
そう言った先生は、切り落とした私の腕を拾い上げて断面を見せてきた。
血液1滴垂れないそこには、綺麗に分断された血管、筋組織、神経、骨。
「戦闘においては失血死すら狙えないが、治療をしようと思えばこんな便利なもんはねェ。こんな具合でお前の頭を切り開き、オペをおこなった。術式自体は従来通りだ」
「…これ切り落とす必要ありました?」
「分かりやすいだろうが」
心臓に悪いだろうが。
それでも仕組みが分かれば面白いもので。
そうかこれが…確かに世に広まりようがない。
この力がないとできないことだ。
「え、これ落ちた方の断面触ったら痛いんですか?」
「痛みはある。“ROOM”内で傷つけない限り出血もする」
「なんでもこんなにすっぱりと?」
「岩だろうが山だろうが、“ROOM”に入りさえすりゃあな」
「やっば面白」
残された上腕を眺めたり振ったりしていれば、呆れた顔の先生が前腕を元のようにくっつけてくれた。
まるで時間を戻したかのように、傷跡も残らず至って綺麗な状態だ。
「こんな簡単に戻るんだ…余計面白」
「この能力を面白いと形容したやつは初めてだ」
「え、だって面白いですよ。医療系の勉強してる学生のいい教材になれそう」
「そんな発想をおれに伝えてきたやつも初めてだよ」
ふう、と鼻から息を吐いて部屋を出ようとする先生。
「え、終わりですか。まだ色々あるんじゃないんですかその能力」
「さしあたりお前が一番知りたがってたことが分かったんだからいいだろう。行くぞ」
来い、と呼ばれて連れて行かれたのは先ほどの食堂。
先生は近くにいたクルーの方に「手の空いている奴らを集めろ」、と短く声をかけた。
程なくして集まった先ほどよりも多い人数。
既に成程、と納得したような顔の人もいれば、先ほどはいなかったのか私の顔を不思議そうに見る人もいる。
「苗字名前。看護師としてこの船に乗せることになった。以上。持ち場に戻れ」
…え、終わり?わざわざ集めたのにそれだけ?
「えぇぇキャプテンそりゃ無いっすよぉ」
「もうちょっと説明とか!おれらの紹介とか!」
「そうだそうだおれらの紹介してくれよ!」
「ぞんざい!」
「んなもんあとで好きなだけ自己紹介しろ。イッカク!ちょっとこい」
ブーイングをしながら、でも女の子だあ、白衣の天使だあと喜んでいる他クルーを無視し、先生はイッカクさんを呼び寄せた。
「案内してやれ。お前の方が色々と話が早いだろう」
「アイ・サー、キャプテン。さ、行こっか」
ビシッと敬礼を決めたイッカクさんが私に声をかけて歩き出す。
先生とクルーの皆さんの揉めているような会話を背に、食堂を後にした。