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「結構広いから、迷わないように気をつけて」
「はい、覚えます」
「まずここ、ランドリールーム。大体潜水してるから基本全部ここで済ませるの」

入ると、5台の乾燥機付き洗濯機が一列に並んでいる。

「因みに汚れ物・汚れ物・綺麗なもの・キャプテン用・オペ関連。ここ3つは前に置いてある籠をいっぱいにした人が回す決まり。キャプテンのものは頼まれた人がやるか、自分でやってるかな。オペ関連は布1枚でもすぐ回す。24時間いつでもね」

トン、トン、と洗濯機ひとつひとつに手を置いて説明してくれる。
まさに今現在も稼働しているようだ。

「キャプテンが衣装持ちで神経質だから、乾燥機かけられない服を室内干しできるスペースが一応あっちに。停泊中なら外にも干せるから、その階段から外に出て干しても良い。
乾いたものはここにどさっと入れておくか、まあ手が空いてるなら各部屋に配ってくれても良いけど。手洗いしたければ水道はそっち。洗剤はこの辺。男物と一緒に洗濯するのが気になるなら手間だけど自分で分けて洗って。次行くよ」
「はい!」

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「ここはお風呂。男女共用。掃除は当番制」

ランドリースペースのすぐ隣には広いお風呂場。
7、8畳はありそうな空間が、脱衣所と洗面所を兼ねているようだ。
中も、ある程度の人数は一気に入れそうな広さがある。

「浴槽もあるけどあんまり溜めないかな。大抵皆シャワーで済ませちゃうし」
「そうなんですね。イッカクさんは入られないんですか?」
「私1人のためにお湯張るのもねー。ま、たまによ。他になんか質問ある?」
「えっと…男女共用って話でしたけど、時間で区切られてるとかですか?」
「あー…それねー…」

気まずそうにポリポリと頰を掻くイッカクさん。
そのままお風呂場から出て、脱衣所の説明を受ける。

「元々女は私しかいないし、長く一緒に暮らしてるからお互いどうとも思わないしってことで特に決めてないんだよね」
「…なるほど」

そういう感じね。

「あ、でも流石にそのスタンスだとまずいから何か決まりごと作って…」
「え、いや大丈夫ですよ。元々のルールに従います」
「…マジで言ってる?」
「はい、後から来たの私なんで」
「そう?…まあじゃあ気になるようなら教えて。隣はトイレ。これも共用だけど個室で完全に分かれてるからそんなに気にならないと思う」

トイレは、小学校にあったそれを想像させる。
奥の個室3つは上下しっかり締め切られていた。

「んで次こっちがー…」

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次々と流れるように部屋を紹介される。
男性クルーの部屋、女性クルーの部屋(といっても今のところはイッカクさんの1人部屋だが)、測量室兼ベポさんの部屋、物置、展望室、操縦室…

「んでここがオペ室。用がある時以外に無闇に出入りしてるとキャプテンに怒られるから気をつけて」
「はい」

中には元の世界でも見たような精密機械たちが立ち並んでいる。
既に懐かしさすら感じるな…

「とまあ大体こんなものかな。大丈夫そう?」

あちらこちら見ていて一番驚いたのはその綺麗さだ。
船の中って正直なところ、あまり綺麗なイメージがなかったのだけど隅々まで掃除されている。
流石は外科医が船長なだけあると言うべきか。
衛生観念がしっかりしている。
さらにはICUと称された場所(私の今の部屋はその一室だった)まであるのだから驚きだ。
本当にここは海の上なのか。

「結構いろんな設備が整ってるんですね」
「そうねー掃除もかなり行き届いてるし、他の船と比べればわりと快適だと思う。陸の建物と比べたら全然だけどね」

ところで、とイッカクさんが話を変える。

「何て呼べばいい?私より年下…だよね?」
「あー…と、なんでも良いですよ。苗字でも、名前でも」

年齢に関してはなんとなく濁してしまった。
今の見た目だと、恐らくイッカクさんの方が上に見える。

「そ。じゃあ名前ちゃんね」

改めてこれから宜しく、と差し出された手を握った。

「何か他に困ったことあったら教えて。私で対応できればするから」
「あ、じゃあ1つ…」
「ん?」
「………着替えとか、下着とかって」
「あーそうね。そうだよね今もそのまんま?ちょっと来て」

再び辿り着いたのはイッカクさんの部屋…基女子部屋で。

「ていうか名前ちゃん部屋どうするの?」
「さあ…恐らく引っ越しにはなると思うんですけど、先生曰く一応私まだオペ後管理中なので」
「じゃあその後か…先生って何」
「私的には「キャプテン」ってより「先生」なので…」

イッカクさんは部屋の角のチェストを何やら漁る。

「お古になっちゃうけどとりあえずこれとこれと…名前ちゃんにはちょっと大きいかも」
「私は全然構わないです」

ぽいぽいと私の手の中に作られていく衣類の山。
先生のことを衣装持ちと言っていたが、イッカクさんも相当だと思う。

「下着はとりあえずこれ。まだ使ったことないからそのまま貰って」
「ありがとうございます」
「次上陸したらキャプテンにお小遣いもらって一緒に買い物行こうよ」
「!是非!」

それまでの繋ぎに、とショーツを2枚とブラを1枚頂戴する。

「サイズ合うかな?」
「どうでしょう…」

イッカクさんは結構なナイスバディーである。
私はここまで素敵スタイルではない…と思っているが間に合わせのものだし、注文をつけられる立場でもないから多少は次の島まで我慢だ。

「あとこれも。普通のクルーじゃないからもしかしたら着ないかもしれないけど」

そう言って最後に差し出されたのは、クルーの皆さんが着ている白いツナギ。

「私にはちょっと小さくて。よかったら」
「ありがとうございます…何から何まで」
「もう仲間なんだから当たり前でしょ。さて、私も仕事戻るし、名前ちゃんも部屋戻りな。場所わかる?」
「はい。ありがとうございました」

頂いた衣類を抱え直し、部屋までの道を戻る。
生活用通路なこともあり、この時間はみんな仕事中であまり人が通らないようだ。
男部屋の前を通りがかると、男性が1人、大きな欠伸をしながら出てきた。
大きなキャスケットを被り、サングラスをしている為顔は良く見えない。
…あ、なんかこっち見てる?

「あれ、お宅さん…」
「苗字名前と申します。今日からここでお世話になりますのでよろしくお願いいたします」
「昨日甲板で見つかったっていうあの子?」
「あ、そうです。先生にオペしていただいて、前職場から引き抜かれました」
「え、どゆこと」
「クルーの皆さんのお仕事もするんですけど、看護師として先生の助手的な立場でして」
「あー成程な!俺はシャチ!なんか困ったらなんでも聞いて」
「ありがとうございます」
「あとさぁ…」
「はい?」
「…それ、隠して歩いた方がいいよ。ここ男ばっかだから」

それ、と指差されたのは先程イッカクさんから譲り受けた衣類の山の頂に乗っかるブラジャー。
………!

「…お目汚しを…大変失礼しました…」
「あっ違う全然!むしろ役得感あったけど!いやそうじゃなくてなんかあったらさ!ほら!良くないじゃん!」

さっと隠せば頬を赤らめてわたわたと慌てだすシャチさん。穴があったら入りたいとはこのことだ。何とも言えない空気が漂う。

「まぁー…あれだ!とにかく!宜しく!」
「…あの、はい、こちらこそ」
「じ、じゃあおれ行くね!またね!」

過剰に手を振りながら足早にシャチさんは去っていった。
本当にもうごめんなさい。人通りがないからって油断していた…
衣服の山の中に今度こそしっかりと隠し、火照った顔を冷ましながら部屋に戻ったのだった。

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