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翌日、目を覚ます。
朝イチ診察があったが、今日も今日とて異常なし。
明日も何もなければひとまずは経過観察期間終了だ。
今日は何をしようか…本を読んでいてもいいんだけど、日本人の性なのかワーカーホリックの性なのか、そろそろ何か仕事らしい仕事をしないとソワソワしてくる。
掃除でもやらせてもらおうか。
部屋を出、たまたま通りがかったシャチさんに声をかけた。

「シャチさん」
「ん?ああ、名前ちゃんか。どうかした?」
「そろそろ何か仕事したくて…掃除とか私に出来ることないですか」
「まだ経過観察中だろ?ゆっくりしてていいぜ?」
「いえそろそろちょっと限界で…働きたい…」
「…んな働きたがる奴も珍しいな。分かった、おれ今日昼飯当番なんだよ。手伝ってくれねえ?」
「はい!私に出来ることならなんでも!」

手伝いゲット、とるんるんするシャチさんについて食堂に併設されたキッチンへ。

「さて、と。そもそも料理とかって出来る?」
「まあ人並みには」

一応過去には3食自炊も好きでしていたし、その後はやらなくなっただけでやれないわけではない。

「そんならいいな。今日のメニューはどうするか…」
「いつもはどんな風に決めてるんですか?」
「その時々だな。面倒くせえから自分の食いたいもんにしちゃうこともあるけど、量産できないと悲惨だしなあ」

顎に手を当て、むむむ、と考え込むシャチさん。

「洋食?和食?」
「うちは和食が多いな。キャプテンがパン嫌いだから買い置きもねえし、そもそもの主食が米か麺類になっちまう。んで米か麺なら米の方が一気に大量に準備できるし必然的に米に偏りやすいというか」
「なるほど…」

炭水化物源は米で、量産できる食べ物か。
それよりも、彼に食の好き嫌いがあったことに驚きだ。パン嫌いって…

「カレーライスとかなら手っ取り早いですけど…あとオムライスとか」
「カレーはこの前やったばっかなんだよなぁ。しかもそろそろ次の島が近づいてっから忙しくてゆっくり飯食えない奴らもいるし」

そういうとこにも気を回さないといけないわけね。
男ばかりの割に結構繊細だ。

「あ、なら…」

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「昼飯だー!!」
「腹減ったー」

昼時、ちらほらと昼食をとりにクルーたちが食堂にやってきた。

「シャチ!今日の昼飯は?」
「フフン、聞いて驚け…なんと今日は!あの白衣の天使が握るおにぎりビュッフェだ!」
「「「おおおお!!!」」」

昨日のテンションはお酒の勢いかと思っていたが、そういうわけではないようだ。
せっせとおにぎりを作りながらこっそり苦笑する。
普段は食卓になっている長いテーブルを一部間借りし、おにぎりと大鍋で大量に作った汁物、おかずを所狭しと並べておいた。
主食が米で大量生産、作業中にも食べられるとくればこれがいちばん最善策に思えたのだ。

「おにぎりの具は端から梅干し、昆布、明太子、鮭!汁物は具沢山な豚汁!卵焼き唐揚げ煮物にプチトマト、タコさんウィンナー!好きなものを好きなように食え!」
「今日の昼飯当番シャチだろ?やけに手が込んでるけどまさか殆ど名前ちゃんがやったとかじゃねーだろうな?」
「流石にんなわけねーよ!案出してくれたのは名前ちゃんだけど、豚汁もおかずもおれが作った!けどな…」
「けど…?」
「おにぎりだけは…全部名前ちゃんお手製だぜ…?」
「シャチお前ほんっと分かってんな!」
「あったりめえよ!」

男ってやつは。
若干冷ややかな気持ちになったが、楽しそうなので良しとする。
出来上がったおにぎりを隣に置いた皿に乗せ、手を濡らしてお釜から適量ご飯を取って真ん中に鮭の解し身を少量、ぎゅっぎゅっと力を込めて握っていく。
形になったら海苔を巻いて、また数回。
最後にてっぺんにまた鮭を少し乗せて完成だ。

「シャチさん、鮭追加です」
「お!ありがとよ!」
「名前ー!食べにきたよ!名前のおにぎり!」
「ベポさん」

律儀に形成されたビュッフェ列の最後尾でベポさんがその白くてかわいい手を振る。
頬に黒いインクのようなものがついていて、製図の途中で食事をとりにきたことが窺えた。
梅干しの出が割といいな…もう少し追加しようとまたおにぎりを作り出す。

「なんだこの列」
「あ!キャプテン!今日は名前ちゃん特製おにぎりビュッフェっすよ!」
「お前もう働いてんのか」
「落ち着かなくて…おにぎり握ってるだけですし」

言葉の中に若干の呆れを感じた気がするが、私だって大人しく休養できるものならそうしたい。
働いていないと体が疼いて仕方がないのだ。

「どれが何だ」
「手前から梅干し、昆布、明太子、鮭っすね」
「梅干しは嫌いだ」

…まだあったよ好き嫌い。梅干し嫌いなのかよ。

「他の具もあるからそっちをどーぞ」
「……」

キッチンから茶々をいれれば、黙って梅干し以外のおにぎりをおかずと一緒に持っていき、空いている席でもすもすと食べ出す先生。一口が大きいこと。

「結構ウケいいな!準備もそこまで大変じゃねーし、これから定番化させっかなー」

隣で嬉しそうに卵焼きを作り出すシャチさん。

「そうですね、私もお手伝い出来るタイミングならしますので」
「そりゃ名前ちゃんが手開いてるときじゃねーとできねーよこんなこと!野郎の作ったおにぎりじゃこうはいかねえ」
「変わんないですってたかだか握っただけじゃ」
「いやー変わる変わる!天と地の差、月と鼈!おれ自身おれが握ったのなんかより断然名前ちゃんが握った方が食いたい!」
「お上手ですね」

あまりの誉め殺しについくすりと微笑む。
するとシャチさんは動きを止め、持っていた菜箸をからん、と落とした。

「…………」
「え、あの、卵焼き焦げますよ」
「………名前ちゃんが笑ったーっ!!」
「「「なんだってー!!?」」」

どっとカウンター前に人が集まる。

「シャチ何したんだお前!」
「ずりーぞ1人で抜け駆けしやがって!」
「まじ天女の微笑みだった…」
「テメェー!」
「幸せそうな面すんな腹立つ!」

途端にワイワイと騒がしくなるキッチン周り。
おれにも笑いかけてくれだの、こっちにも微笑みをだの、シャチ殴るだの、対応に追われながらふと目を遠くにやる。
人垣の間から見えた先生は、こちらを見て呆れたような笑みを作り、またおにぎりを数個とおかずを自分の皿に取ると食堂から消えていった。